第13話 ナスカ ―文明―
ウィンドウ王国の文明や技術は中世ヨーロッパ風です。幸いなことに、この世界では魔法や魔物の類は存在しません。大昔の地球に近いと考えていいでしょう。
ただ、やはり国独特の文化というものがあります。例えば教育機関がそうですね。
ウィンドウ王国の学園では、校舎は3学年ごとで別々に分かれていて学年が上がるたびに校舎が変わる仕組みになっています。校舎が変わることによって学ぶことへの緊張感を持ってもらうとか、貴族になる覚悟を養うためだとか、環境が変わることに対する適応能力を育てるとか、上級生による下級生に対する圧力をなくすとか、理由はさまざまですが、そのせいで他学年での情報交換が上手くいかないという問題もあります。委員会に入るか教師の許可がないと自由に校舎を行き来できないのが難点です。
でも、例外はやっぱりあります。それは学園の催しものですね。特にパーティーがそうです。
今、私ミルナはサエナリアお嬢様の専属使用人として、ウィンドウ学園の始業式パーティーに来ています。このパーティーを利用して、お嬢様には第三王子ナスカ……じゃなくて、ナシュカ・フォン・ウィンドウ殿下との接点と、ヒロインであるマリナ・メイ・ミークと友好を持っていただきます。
この作戦の本命はヒロインとの友好目的ですが、この際ナシュカ殿下とも接点をもっておこうと考えてのことです。まあ、何か失敗した時の保険のようなものですね。
マリナ・メイ・ミークはミーク男爵家の令嬢。元は商人の娘だったが父親が爵位をもらったために貴族令嬢になった経歴を持ちます。それゆえ、今になって転入してきたため、学園では味方がいなくて最初のうちは右も左も分からない状態です。だからこそ、誰よりも味方を欲しているはず。
ナシュカ殿下は王子たちの中で一番優れた頭脳を持ち、冷静沈着で自分のことよりも国のことを優先します。ですが、それ以上に家族思いな優しさを併せ持っています。そんなナシュカ殿下だからこそ、自分を見てくれる人に惹かれやすいのです
……と、サエナリアお嬢様に助言しておきました。後はお嬢様次第ですね。まあ、今のお嬢様は悪役令嬢と言うよりも聡明なヒロインといった感じの人なのでうまくいくでしょうね。マリナだろうとナシュカ殿下だろうと。
◇
パーティーの終盤、お嬢様の満足げな顔を見れば、マリナのこともナシュカ殿下のこともうまくいったようです。私にも笑いかけてくれます。よほど今日のことが楽しかったようですね。
「お待ちください! サエナリア様!」
あれ? 誰かが呼び止めてきた? 振り返るとボブカットの青い髪に赤い瞳の少女がいますね。彼女はたしかナシュカ殿下の側近のバイラ・エス・レックス伯爵令嬢ですか? お嬢様を警戒された? だとしたらマズいですね。ここは私が出てみるべきか?
「さ、サエナリア様……貴女は、貴女も……」
ん? 様子が変ですね。バイラってこんな感じでしたっけ? ゲームでしか知りませんからちょっと……っていうか、貴方も、何?
「貴女も……転生者、ですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます