第9話 アームズ ―後ろ盾―
「緊張させてしまい申し訳ありません。ただ、困ったことになりましたね」
「困ったこと? どういうことですか?」
難しい顔に変わる。
「実は近々、旦那様のこれまでの悪事を暴こうと考えているのですよ。もう黙っているのも限界なので」
「ええっ!?」
なんと! この時点で暴く算段をしていたなんて!
「ですが、今のままだとサエナリアお嬢様と貴女も巻き込んでしまう。それでどうすればいいか困るのですよ。貴女もサエナリアお嬢様も罪はありませんしね」
「そうですよ! お嬢様が道連れにされる等あってはなりません!」
「ですよね。お嬢様のためにも暴くのは止めてしまいましょうか」
えー!? それは不味い! お嬢様のことを思ってくださるのは嬉しいけど公爵の罪は暴いてもらわないと困る!
「いいえ! それもダメです! お嬢様は屋敷で不遇な立場にあります。そこから救い上げるためにも公爵一家の罪を暴き、お嬢様だけ救わなければなりません!」
「………用心深い旦那様の罪を暴くだけでも難しいのに、そこまで具体的なことができるのですか?」
こうなったら、今すぐに計画を話すしかありません。計画そのものを早めることになるかもしれませんが、上手くいけばこの方を味方にできるのですから。
「私に考えがあります! 王子たちを巻き込むのです!」
「っ!? 王子、たち!? 王家の力を借りるというのですか!? 一体どうやって、」
「サエナリアお嬢様は王太子殿下の婚約者です! 自分の婚約者が行方不明になれば実家を訪ねてくると思いませんか?」
「ゆ、行方不明!? た、確かにそれなら王太子殿下が来る理由になりますが………」
王家を巻き込むと聞いて流石に驚かれまずね。もう一押し行きますか。
「行方不明になった原因は家族にある、という置き手紙が残って、それを王太子殿下が知れば捜査が始まります。もちろん、この屋敷も!」
「っ!? この屋敷にも罪の証拠があれば旦那様のこれまでの悪事が暴かれる。そういうことですね」
「はい! それどころか、家族全員が徹底的に調べられるでしょうね」
「……っ!」
難しそうな顔で考え込むウオッチさん。私の言ったことを要約すると、サエナリアお嬢様が行方不明になることをきっかけにして、ソノーザ公爵家を王家に暴いてもらおうということだ。さあ、どうなる?
「………うまい作戦にも聞こえなくもありませんが、王太子に問題があります。あのお方は女性全般に興味がないと聞きます。そんなお方が、」
「王太子殿下に非があるように仕向ければ、違いませんか?」
「王太子殿下に?」
「あまりにも婚約者に素っ気ない。そのせいで行方不明になったんだ。そんな噂が流れればどうなります? 流石に罪悪感が湧くと思いませんか?」
王太子カーズのことを気にするとは思っていました。攻略対象1カーズ・フォン・ウィンドウは確かにそういう人ですから、それを逆手に取るつもりです。それにカーズだけではありませんしね。
「な、なるほど………それに、そんな話になればお嬢様に同情が集まりますし、」
「それに王太子殿下の御兄弟も動かざるを得ないでしょう。あの御二人の弟君なら興味でも正義感でも動くでしょう。噂通りなら」
「なっ!? 王子たちというのはそういうことですか!? そこまでの大事にするというのですか!?」
「それぐらいしなければならないのです! 公爵ほどの権力者の罪を暴くためにはそれぐらい大事にしないと成功しません!」
公爵より上の地位にいる人でないと権力でつぶされます。私はヒロインではないので。
「………そ、そこまで」
「そうです! そのためなら何だってします! お嬢様のためにもどうかお力を貸してください! 私だけではお嬢様を幸せにできないのです!」
「………………」
再び深く考え込むウオッチさん。しかし、迷いを振り切ったのか私の目をまっすぐ見て覚悟を決めてくださいました。
「………分かりました。この老体の微力を貴女の主人のために使ってください」
やったー! 協力者ゲット!
私とお嬢様に心強い味方ができました。いざとなったら後ろ盾になってくれるでしょう。
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