第8話 ライアー ―真偽―

ある日、執事の方が私を呼びつけました。ある意味予想していただけに緊張します。


「貴女は生まれながらの平民ではありませんね」


「………え?」


やはり、そうきましたか。呼びつけた執事の方はウォッチ・オッチャーさん。ソノーザ公爵に仕えるベテランの執事さんです。結構老けていますが、ベテランの執事なだけあって相当頭が回るため、ゲームでもキーマンの一人でした。多分、私のことで感づくとは思ってました。


「貴女の素性は知りました。貴女は元はコキア子爵令嬢ですね」


「……はい」


「一体何が目的ですか?」


凄腕執事なだけあって威圧感を感じます。だけど、この人は確かゲームではソノーザ家を見限ってるはずでした。ならば正直に話した方がいいでしょう。


「……はじめは、家が没落するきっかけになった公爵家に復讐する機会を得るために侍女になりました。サエナリアお嬢様に忠誠を誓うまでは………」


「ほう、サエナリアお嬢様に忠誠ですか」


「はい」


嘘ではないですから堂々と言えます。すべてはお嬢様のために。いや、私のためもありますね。


「そのきっかけはなんだったのですか?」


「私はサエナリアお嬢様の世話をするうちに、お嬢様の美しく純粋なお心に触れて、心から慕うようになったのです。この方に仕えたい。この方に幸せになってほしい。そう思い、私個人の復讐よりもお嬢様のためになりたいと思ったのです」


これも嘘ではないです。お嬢様の幸せが優先です。まあ、私の復讐も同時進行ではありますけども。


「………そうでしたか。お嬢様の貴女への信頼感から不思議に思っていましたが、これで納得いきました」


納得? そう言って、執事ウオッチさんは穏やかな笑みを浮かべる。ですが、これで終わりではないでしょう。


「私をどうするつもりですか?」


「どうもしません。これからもよろしくお願いします」


んん? これからもよろしく? あっさりですね。もっと聞かれると思っていたのに?


「どういうことですか? 私の忠誠心に偽りはありませんが、貴方は私の言葉だけで納得できるのですか?」


「実は貴女の素性は雇ったときから知っているのですよ」


「ええっ!?」


信じられなかった。雇ったときから? それって最初から知ってたってこと?


「今日まで見た限り、貴女の行動にお嬢様に対する悪意は一切ありませんでした。それどころか私個人は貴女のことを高く評価しているのですよ」


「ま、待ってください! 最初から気付いていたのですか!? それなら何故、雇ったのです!? 執事の立場なら危険性を考慮するはずですよ!」


「………私はこの家を見限っているのですよ」


「なっ!?」


ああ、そうか! あの頃から見限っているんだったっけ!


「今の当主は出世のために多くの人々を犠牲にしました。御自身の両親に弟君。それに貴女の家の人たちまで。身近な人達まで容赦しなかった」


「………………」


両親と弟か。ゲームでは弟を追い出した過去が明かされたけど、現実では両親まで……。


「旦那様の非道な仕打ちにはもう我慢できないのです。だからこそ、貴女の素性を知ってもそれが理由で雇わないという選択はありませんでした」


「ならば、今になって私の真意を聞いてきたのはどう言うことですか?」


「貴女があまりにも優秀で忠誠心の高い侍女だったからですよ。物置に買い込んだ本を勝手に用意したのですから、素性からして不思議に思いました。何故そこまでできるのか強い興味が湧いたのです。………まあ、私個人が知りたくなった、それだけですよ」


「そうだったのですか………」


本のことまで知られていた………やっぱり凄腕執事ですね。でも、今の私にはこの人の言葉に嘘が混じってることに気付きました。多分、『私の出自を知ったから』私を雇ったのでしょう。きっと私に復讐を目的としてほしかった、という期待があったのでしょう。そんな目をしていました。


まあ、ゲームでは、シナリオ次第でソノーザ公爵に過去の罪のことで怒りをぶちまく展開すらありましたからね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る