第7話 マネー ―貯金―

部屋を物置にされたお嬢様の心を何とか慰めるのに成功しました。ですが、まだ油断できません。


お嬢様に必要なのは居場所です。それは単なる家とか屋敷、帰る場所というわけではありません。傷ついた心の拠り所こそが必要なのです。そのためにはまず自由ですね。


善良な心を失って悪役令嬢に成り下がることのないようにするためには、やっぱり心の拠り所が必須。そこで私自身がお嬢様の拠り所になって差し上げるのです。


そのためにも落ち込みそうになればお嬢様を元気づけ、本の趣味などを共有し、何度もご相談にのって差し上げて、信頼関係を築いていくのです。


そして、最初の作戦は成功しました。他の使用人たちが可哀想な目を向けていても、お嬢様は物置が部屋だということを不遇に思わなくなりました。しかも、私にも本を読ませてくださるほど信頼してくださるようになりました。


………本当によかったです。私の貯金を崩したかいがありました。おかげで、私の懐が寂しくなりましたけど。


ですが、それだけでは足りません。お嬢様は学園に通う身。もうすぐ三年生になります。その頃にヒロインのマリナ・メイ・ミークが転入するはずです。突然訳アリで入ってきた彼女のことを誰もが興味を示す。それに乗っかって、お嬢様にマリナと友達になってもらいます。


悪役令嬢と敵対することがゲームのヒロインの役目ですが、悪役令嬢の方から味方になればヒロインの役目は果たされないでしょう。お嬢様にヒロインたるマリナと仲良くなってもらえば、都合の悪いイベントは回避できますし、何よりヒロインゆえに善良な彼女なら学園での拠り所になってもらえるでしょう。ゲームのヒロインは確か友達も多くできるはずでしたしね。


だからこそ、今は私が信頼関係を築かないと。今だけは。





数日後、お嬢様に変化が起こりました。何でも、貴族じゃなくて平民として暮らしていきたいというようになったのです。これはチャンスです。平民に関する本も物置に置いたかいがありました。


「お嬢様。貴族が平民になった後は苦難の道です。平民になるとまず最初にお金が自由に使えなくなってしまいます。貴族ならば領地経営などでお金を集める手段などはいくらでもありますが平民だとそうはいきません。平民はお金を手にするために仕事を探さなければならず、仕事によっては得るお金もばらつきがあります。貴族の生き方よりも家や周りの目を気にすることは少ないですが、とても苦労される生き方です。それでも、平民の生き方に憧れるのであれば、学園や王都の図書館に足を運んで平民について詳しく学ばれることをお勧めいたします」


私の語る平民。それは私が経験したことでもある。没落して貴族から平民になったのが私。お嬢様がその事実を知れば説得力があると思われるでしょうね。まだ言えませんけど。


お嬢様は私からいつもと違う雰囲気を感じたそうです。この後もたくさんの質問をされたので私は全て正直に答えました。長所と短所、楽しみと苦難、対人関係のあり方まで。


その後日、お嬢様は早速、図書館で平民の生活や仕事に関する本をよく読むようになりました。私のおすすめした仕事等を自分の目で知るためでしょう。


お嬢様は本当に賢い人ですから、すぐに御理解されるでしょうね。できれば、お金のことを率先して学んでほしいです。平民になって侍女として働く私の貯金がお嬢様のために使われただけに。

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