第6話 タブー ―改変―

あの会話から数日後、奥様は本当にお嬢様の部屋を取り上げて妹の部屋にしてしまいました。代わりに隅っこの部屋を与えられました。


しかし、その部屋は物置でした。


「こ、ここが………サエナリアお嬢様の………新しいお部屋です………」


気まずい感じで私は案内しますが、決して私にはお嬢様に敵意はありません。だから、お嬢様。どうかこれ以上絶望しないで下さい。


「お、お嬢様………お気持ちは分かりますが、け、決して悪いことばかりとは、限らないと、思います………」


うまく元気づけられるように話しますが、緊張してしまいます。何故なら私は原作のゲームになかった行動をとっているのです。ある意味、世界を変えようとしているのです。


歴史を改変する。………緊張しないはずないじゃないですか! 歴史の改変なんて大きなことをしでかすなんて、そもそも前世での私って友達少ないし! あ、いや、それは今関係ないか。


ですが、こんな日が来ることを想定して準備をしたのです。特に部屋の取り替えなどは少しばかり時間をかけるものです。その間に、侍女の立場を利用して前日に用意したのですから。秘密兵器を!


「ほ、ほら、御覧ください。本棚もあって本がびっしり並んでます。お嬢様は本がお好きでしょう? いろんな本がありますから、これは楽しめるのではないでしょうか!」


私の必死の語りにお嬢様も顔をあげます。おお! うまく興味を持っていただきました! よし、ここで………


「こ、この古い本とかいいのでは? 結構厚くて読みごたえありそうな………………ああっ! これは十年以上前にベストセラーになった『婚約破棄してきた王太子が行方不明!?』ではないですか! しかも、初版の!」


秘密兵器とは本! それも昔ベストセラーになったものばかりを集めました。お嬢様は本がお好き。何しろ面倒な妹は本なんて滅多に読まないから奪われませんからね。………まあ、本の価値が分かってないともいいますけど。


ですが、うまくいきました。お嬢様の死んだ目が輝き出したように変わりました。更に………


「こ、こんな物置にこんな本が置いてあるなんて…………ああっ! 『追放した仲間が行方不明!?』まであります! 作者が実際に経験したのではないかと言う噂が流れた曰く付きの本です! お、お嬢様、これは宝の山ですよ!」


宝の山というのは言いすぎですがお嬢様は大喜びのようです。私が初めて見る笑顔でした。


ああ、尊い………。


お嬢様は私を押し退けて本を手に取りました。手に取ったのは『魔王の意志が導く先!』。まあ、ファンタジー系の本ですね。この世界の私も好きなシリーズです。


ふふふ。成功です。休みの日に古本屋を探してたくさん購入したかいがありました。これでお嬢様に楽しみができました。この物置でのストレスも軽減できますね。


………ゲームでは、この日を境にお嬢様は荒々しくなってしまうはずでしたが、それをうまく回避できました。悪役令嬢になりきるきっかけが消えました。改変成功ですかね?

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