第5話 ゾーン ―状況―
とりあえず、状況を整理することにしました。まずはこのソノーザ家のことですね。
我が主、長女サエナリア・ヴァン・ソノーザ。ゲームの悪役令嬢1であり、今の王太子の婚約者ですね。今はこんなにいい子なのにどうして悪役令嬢なんかに……。
次女ワカナ・ヴァン・ソノーザ。ゲームの悪役令嬢2であり、我儘で傍若無人。最低最悪の貴族令嬢ですね。悪役令嬢はこの女の方じゃないですか。姉を敬わないし。
夫人ネフーミ・ヴァン・ソノーザ。お嬢様と馬鹿な妹の母君。姉妹格差を造った最低な母親ですね。教育方針のことを考えれば、こいつが元凶かも?
肝心の憎むべきソノーザ公爵。本名ベーリュ・ヴァン・ソノーザ、私の両親の敵と言うべき男……だけど滅多に屋敷に戻らないらしい。実際、私はまだお目に掛かれていない。こいつも元凶ですね。
そして、私の立場です。
「私の名はミルナ・ウィン・コキア。元コキア子爵令嬢。現在はソノーザ家の侍女。サエナリアお嬢様の専属使用人です。……ゲームでは悪役令嬢の小間使い、扱い雑ですね」
ただ、ゲームの話の展開によっては主人公の味方になったり悪役令嬢を裏切ったりする等、結構変化の激しいキャラクターでした。シナリオの展開具合によって役割が変わるのです。もちろん、ゲームの話ですが。
「ゲームの進め方によっては物語のキーマン……これは利用できますね」
ニヤリと笑ってしまう。ゲームでの私は、私の立ち位置は都合がいい。お嬢様をお救いするために。
◇
私が前世の記憶を取り戻したその日、屋敷で状況が変化しました。あの馬鹿な妹が馬鹿なことを言い出したのです。
「お母様、私の部屋をもっと広くしてほしいの」
部屋を広く? その年で何を言い出すのですか信じられません。幼子ですか? しかし、聞いた母親はとんでもないこと言い出しました。
「そうなの。でも、部屋を広くするなんてできないから貴女の部屋を増やしましょうね」
「わーい」
はあ? 部屋を増やす? 何言ってるんです? ただでさえ妹の部屋は二部屋もあるのですよ。まだ増やすのですか。
「それじゃあ、お姉さまの部屋がほしい!」
「あら、そうなの? サエナリア、悪いけど今日から貴女の部屋はワカナの部屋になるから、貴女の部屋は隅っこにしてね」
「………………」
な、何なんでしょうかこの親子は。常識がなってません! いや、非常識が頭を占めてるんじゃないですか!? ああ、サエナリアお嬢様が悲しみながらも頷いてしまわれた。何とお痛わしい!
………これで分かりました。何故サエナリアお嬢様がゲームで悪役令嬢になったのか。それはこの親子のせいだったのですね。いわゆる姉妹格差です。
悪役令嬢には大抵、心に闇を持つか家庭環境に問題があるか、かなりの確率で悪役になるきっかけとなる過去がある。それが前世のゲーム知識というか、ライトノベル知識というか前世の記憶における悪役令嬢の条件です。
「サエナリアお嬢様の場合は姉妹格差。家庭環境に問題があるのです。そして、心の支えがない」
この場にいない父親は出世欲ばかりで家族に関心を持たない。母親は次女を溺愛。次女つまり妹は我が儘。更に使用人は母親と妹の味方か中立の存在。誰もがサエナリアお嬢様を蔑ろにする環境。お嬢様の味方になり得るのは私とあの執事さん。
「現状、この私だけが味方。これではサエナリアお嬢様が悪役令嬢の心を育てても仕方ありませんね」
これがお嬢様の家族構成。周りの環境。………クソッタレです。現時点で味方は私くらいしかいないようですね。しかし、それが何だと言うのです? 今の私は転生者です!
「この逆境を乗り越えて、私がお嬢様が救われるエンディングにしてみせます!」
私は前世の、ゲーム知識を持ったチートキャラクター。それを舐めてもらわないでほしいですね!
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