第10話 インビジブル ―信用―

今日は二週間に一度の休暇日。休みを返上して私はとある重要人物に会いに行きました。


ゲームでは、そのお方は私の幼馴染みが仕えている王族の方。本来なら攻略対象の一人でもあります。


………場所が平民の人が多く来る『ルナティックトリガー』という喫茶店ですがね。


喫茶店内をキョロキョロと探してみればすぐに見つかりました。平民の格好をした長身の男性が優雅にコーヒーを飲んでいます。ただ、よく見ればその仕草は、平民ではなく貴族独特のもの。ここら辺もゲーム通りですね。


「お隣いいですか。レフトン殿下」


「…………別にいいが誰だい?」


男性に話しかけます。もちろん、正体は目的の人物のレフトン・フォン・ウィンドウ第二王子です。笑顔で答えてくれますが、目は怪しんでいるのが分かります。


「私は貴方のお兄様の婚約者に仕えている侍女です。名はミルナと申します」


「え? ……あっ! あんた、サエナリアさんの侍女さんじゃねえか。俺に何かようかい?」


ちょっと驚かれたご様子ですが、動揺もしていませんね。この辺りはカーズとは違います。ちょっと意外、という印象を受けたのでしょうね。


「ええ。もちろんですとも。お嬢様の自由のためにも」


「へえ、詳しく話を聞こうじゃねえか」


単刀直入に目的を切り出したら、面白そうに興味を持ってくれました。なんだか現実で乙女ゲームをしている気分になりそうです。





攻略対象2レフトン・フォン・ウィンドウは、王族どころか貴族らしくないふるまいのとても変わった王子様。気さくで貴族平民分け隔てなく接する人物で正義感も熱いお方。そして何より、国のため兄弟のため多くのコネクションをもち、そのおかげで情報収集能力に長けています。


だからこそ、味方についてくれれば大きな力になるのは間違いありません。


「ふーん。あの公爵から愛しのお嬢様を解放したいと」


「はい、その通りです。お嬢様はもう家庭に居場所はない状態なのです。ご両親も妹君もお嬢様に関心がありません。あるとすれば旦那様にとっての政治の駒ほどの価値位なんです。長く使えてきた執事さんも同じ意見です」


「………………」


もはや、いつもの笑顔すらないレフトン殿下。お嬢様が物置を私室にしていると聞いたところから怒りを目に宿していました。


「どうか、お嬢様が自由になるために御協力、」


「平民になるためのか?」


え? この方は今何て言いました? 平民になるためのって言ったんですか?


「ここ最近、彼女が平民に関する雑学を齧ってるって聞いてな。まさかとは、と思ったんだがマジみてえだな」


ええ!? この人、お嬢様とは学年が違うはずなのにそんなことを知ってるなんて!? ゲーム以上の情報力!


「そ、それは……はい」


「はあー、マジかよ………。あの人貴族の生活捨てる覚悟なのかよ。有能な人だからその頭を国のために使ってほしかったんだがな………なあ、あの公爵の悪事ってどこまで把握してるんだ? 俺達が掴んでる情報と照らし合わしたいんだけど」


「照らし合わす? もしやすでに動いておられたのですか?」


「まあな、ダチの事情で俺達も独自に動いてんだわ」


ダチ! そういえば、第二王子に二人の側近がいます。その二人のうち一人がソノーザ公爵の弟の息子でした。そして、もう一人が私の幼馴染み! ……だけど、そのことをまだ言えない。話がややこしくするわけには………。


「そうでしたか。では私の知る情報から教えいたします」


とりあえず、今はお嬢様のことが先です。彼のことはまた後で……。





「………その話、俺たちが追っていたやつじゃん」


「信用していただけますか?」


「…………」


私はソノーザ公爵の過去の悪事について、現世と前世の知識の限り知っていることを話しました。レフトン殿下の真剣な目からして、どうやら信じてもらえそうですね。


「まだ半信半疑ってとこだな。ただ、ここまでの情報を提示してくれるんだ。罠の可能性が低くなったが、全てを信じる訳じゃあない。側近の執事まで話に出てくるなら別だがな」


「分かりました。執事様にも話を通します。それまでに何日かお時間をもらえないでしょうか?」


「ああ、いいぜ。何日でも待つよ。期待半分ってことでよろしくな」


そんな感じで一旦私達は話を終えました。


後日、私は上手くレフトン殿下とウオッチさんを引き合わせて協力体制を結びつけることに成功することになります。

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