第5話 未来予想図は君の隣で♡
「先生、何て言ってたの?」
学校を出て少し歩いたところで、なんとか話を続かせようと必死だった
空には赤々とした夕日が西の空に傾いていた。美しい。
「進路のことだよ」
「白ちゃん、やっぱり芸大が志望なの?」
考えたくない現実が、どんどん迫ってきていてため息が出る。
「今日は
「
うちのクラスの担任だ。
どうしてわざわざ隣のクラスの白ちゃんを……
「校内トップクラスの成績の持ち主の志望校がまさかの『白ちゃんと同じところ!』と驚くほどバカなものだったらしくて」
「げ……」
「おまえからもなんとか言えってさ」
「す、すみません……」
あ、あれは夢が面白がって書いたものだ。
しかも出したつもりなんてなかったのに。
白ちゃんの呆れ顔にがっくりする。
「桃倉は頭もいいし、人付き合いも上手だ。未来の選択肢は広い。だからもっと自分の可能性の広さをしっかり見極めるべきだと思う」
「それは、努力すれば今からでも芸大への道は厳しくないってこと?」
「い、いや、だから……」
真剣な声にあえてとぼけてしまった私は、驚いた表情のあと、一瞬で瞳から光を失った白ちゃんにさぞ絶望されたことだろう。
その様子がわからなかったのは、珍しく私の方から目を逸らしてしまったから。
これ以上聞きたくなかった。
それでも白ちゃんは続けた。
「桃倉は他の誰にもない可能性を持ってると思うんだ。未来を動かす力だって、桃倉には……」
「白ちゃんの心を動かす力が欲しい」
どうしていつもおどけてしまうのか。
「……ったく」
ほら、今日もまた、ドツボにはまった。
「たとえば」
「え?」
そんな沈黙も、あっという間に白ちゃんの一言で現実に引き戻される。
「桃倉は物語を作るのが得意だから、大学では文学部の道に進むとか」
なぜか今日の白ちゃんはいつも以上に私の話をしている。
「物語? そんなの書いたことないよ」
作文だって、夏休みの宿題くらいだし。
「ほら、いつも俺の絵をみていろんな物語を考えて楽しそうに語ってるだろ。あれも一種の特技だと思う」
ああ、あれは常にキャンパスから視線を外さない白ちゃんが唯一興味を持ってこっちを向いてくれるからついついくせになっているだけで……って、そんなこと言えやしないけど。
「あれは絵のタイトルに合わせてるだけであって、私が一から考えたわけじゃ……」
黄色く描かれていたら、希望の光。
一面緑色で埋まっていたら、壮大な大地。
青色で彩られていたら、白熱した常夏の海。
私は絵には詳しくない。
だけどいつもタイトルによって白ちゃんの描く絵は美しくキラキラ輝き続けて見える。
だから簡単に物語が浮かんでくるのだ。
「どんな残酷なものを描いても、桃倉はいつも笑顔で命ある美しい物語に変えてくれる」
「解釈違いな残酷な絵も描いてたってこと?」
なんで教えてくれなかったのよ、と泣き言を唱えてがっくりした。
「凄いことだと思う。桃倉には、何か明るい希望を感じられるから」
「え……」
「だから、少しでも多くの人が桃倉みたいだったらなって思うんだ」
白ちゃんの口元が、珍しく緩んだ気がした。
私だけの知る、たまに見せる白ちゃんのこの表情にまたときめいてしまう。
ほ、本当に、重症だわ、もう。
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