第3話 私の恋心は燃えるような赤色で♡
「あ!」
渡り廊下を突っ切った先にある職員室の前で、大きな絵画が飾られようとしているのを目にして足を止める。
見慣れないタッチとはいえ、この惹き込まれる作品は……
「コンクールで金賞をとったらしいわよ。さすが
振り返ると、白ちゃんの担任の
二ヶ月ほど前に白ちゃんの担任の先生が産休に入り、その代わりといって突然やってきた大人の色気全開なとてもきれいな先生だ。
「白ちゃん、こんな絵も描くんですね」
美術部の白ちゃんは、いつも風景画を得意としている。
まわりの評価もとても高く、よくコンクールなどで賞をおさめている。天の才を持っているのではないか!と言われることもあるそうで、なぜかいつも私が鼻高々である。
繊細な世界観はまるで本物の写真のようで、それでも壮大でこころ暖まる力強い印象の絵を描く白ちゃん。
でも、この絵は違った。
『きみと見た空の色』
といったタイトルのついたそれは赤々とした光が美しい世界を覆うようにして
白ちゃんの描くものには珍しく、完成した風景画に燃えるような表現が豪快に加えられている。
「空の色か……」
空の色と言われたら、小さな頃から青色のクレヨンを思い出す。
「いつか、こうなってしまう日がくる。そう彼はこの絵を通して訴えたいのかもしれないわね」
「どういう意味ですか?」
「なんだか、見ているとさみしくなるなぁと思って」
先生は想いにふけるようにその絵を眺め、ふっと瞳を閉じた。
「じょ、情熱的って意味かもしれませんよ?」
「え?」
「だ、だって白ちゃん、普段は明るい絵ばかりだし、どちらかというと見ているだけで元気をもらえるような作品が多くって、こ、これも意味が他にもある気がします。もっと明るい未来を示すような……」
自分ではない誰かが知ったように白ちゃんについて語るのが面白くなくて言い返してしまったけど、言いつつだんだん苦しくなってきて語尾がどんどん小さくなっていく。
自分でも何が言いたいのかわからない。
「情熱的、ねぇ。たとえば、桃倉さんが彼に向けている熱い想いのような?」
先生はクスクス笑い、私はきっとこの絵と同じような顔色になったに違いない。
「先生、からかわないで下さい」
いつの間にか、呆れ果てたように眉間にしわを寄せた白ちゃんが私の後ろに立っていた。その姿は外画のように神秘的で美しい。
「あらあら、ごめんなさい」
「俺がいたの、知ってましたよね」
これでもかってくらい大きなため息を吐きつつも、白ちゃんは私の肩をつかみ、自分の背に誘導してくれる。
不覚にもこんな状況できゅんと胸をときめかせてしまう自分に自己嫌悪する。
こういうさりげない優しさが大好きだけど大きな背中が今は直視できない。
先生が職員室に入っていってからもとり残された私と白ちゃんの間にはいつもとは全く違う、とてつもなく気まずい沈黙が流れていた。
どこからともなくゆったりと流れてくるピアノ・ソナタの音色があまりに優しくて、目頭が熱くなったため歯を食いしばる。
志木先生があまりにも理想的な女性すぎて、つい感情を露わにしてしまったことが恥ずかしい。
「ありがと」
「え?」
意外な言葉に耳を疑う。
今にもあふれてきた涙がこぼれ落ちそうだったけど、そんなことはすっかり忘れてぽっかり口を開けたまま背の高い白ちゃんを見上げてしまった。
「桃倉のように言ってくれたのは初めてだ」
もっと明るい、そんな未来を表す絵。
聞き間違いではない。
大好きな声を何度も何度も脳内で繰り返す。
「当然よっ!」
すごくすごく嬉しくて、やっぱり私は白ちゃんの腕にしがみついてしまった。
白ちゃんは、おい!と顔をしかめたけど、それでもいつもみたいに離そうとはしなかった。
だからわたしは本当に幸せな気分になった。せっかくこらえた涙が止めどなくこぼれ落ちたけど、気になんてしていられない。
このまま時間が止まればいいのにって本気で願ったほどだった。
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