第2話 彼は私の王子様♡

 今日も、いつものように図書館の奥に見える大好きな背中にしがみついた。


はくちゃーん! なぁーに読んでるの?」


 朝の光を全身に浴びてキラキラ輝くその姿は、まるでこの世のものとは思えないほど美しく見える。


「も、桃倉ももくら……」


 変わらず最高で最強といわんばかりの魅力的なテノールで、私の大好きな王子様、秋月白夜あきづきはくやが私の名を呼ぶ。


「いい加減にしろっていつも……」


「白ちゃん、放課後、お茶しない?」


「しない」


 眉間にしわを寄せて白ちゃんは溜息をつく。これもいつものこと。もう慣れっこだ。


「今日、美術部もお休みでしょ。ホームルームの後に迎えに行くから」


 私は引かない。


 そっちがその気なら、私だって負けるもんですか。ここで諦めるはずがない。



   『一日一日を大切にしたい!』



 これが私のモットーだ。


 いくら傷ついたって気にしない。


 だって、今日という日は二度と戻らないのだから。私は自分が納得いくまで必死で彼を追い続ける。白ちゃんに一目惚れした、あの日から。ずっと。そう、時が許すかぎり。


 白ちゃんは断れない。


 私はそれを知っている。


 どれだけ迷惑そうにしていたって、結局白ちゃんは優しいから、私のわがままに付き合ってくれる。


「桃倉にはもっといいヤツがいっぱいいるだろ」


 呆れ果てた白ちゃんは額に手を当てる。


「は、白ちゃん、気にしてくれてるの?」


「い、いや、だから……」


「私は白ちゃんがいいの」


 バカなことだってわかってる。


 いつも白ちゃんを困らせてはへらへら笑ってみせる。


「安心して。私は白ちゃんしかいないんだから」


 でもこれが私。


 こうして自分に正直に生きていきたい。


 私が選んだ私の生き方だ。


「いつまでこんなこと、繰り返すつもりだ」


 今にも消えそうな声だった。


 それでも確かに、白ちゃんはそう呟いた。


 何度も何度も断っても断ってもしつこくついてくる人間が迷惑なんだろうな。


 そんなことは、私でもよくわかる。


「さてと、教室に戻るよ。また放課後ね」


 すかさずいつものお得意の笑顔を作る。


 かなり無神経に生きてるつもりだけど、本当は傷つくことのない人間になれたらいいのにと思うときもある。


『いつまでこんなこと、繰り返す?』


 永遠に続けるわ。


 あなたの心に私の想いが通じるまで。


 ずっと。


 そう言いたくても結局肝心な言葉は出てこなくて、私はそのまま白ちゃんに背を向けるしかなかった。

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