第10話

 ビアンカはためらい少し黙ってから口を開いた。

「君の中を僕にゆだねて欲しい。子供を作れば君とのつながりが生まれる。蔵之介がそれで少しでも僕との繋がりを感じてくれるなら、生贄の役割としてだけではなく。蔵之介を愛したい」


ビアンカはそういうと、蔵之介の体を倒し再び唇を重ねた。

「んっ」

ビアンカの手が蔵之介の服をはだけさせ、胸元が露になる。腰ひもを緩め、蔵之介の服を全てはだけさせた。

蔵之介はピクリと体を震わせる。




ビアンカは蔵之介の腕、胸、腰、太ももと撫でていく。

そこに糸が伝い、糸が潤滑油の役割をはたし滑りを良くした。前にも受けた感覚だが、まだ慣れない。普通に触られるのと違い、撫でられた箇所から糸の繋がる箇所に感覚が伝わる。それは心地よくて、気持ちいい。


「んっ」

 蔵之介は思わず声を漏らす。

 王の指が乳首にふれ、そこに糸が繋がり手が離れても引っ張られる。そして糸が外れ乳首は弾みもとに戻る。

 その弾みに再び蔵之介の口から声が漏れる。

 何度もそれを繰り返され、乳首は硬さを持ち始めていた。

 ビアンカはそれを口に含み、吸い付いたり舐めたり、舌でこすったりと蔵之介の反応を身ながら繰り返した。

 前回の行為で分かったのは、ビアンカはすごく行為の一つ一つに丁寧だという事。それはじれったくもあるが、大切にされ愛されてる様に感じ、蔵之介はそれをとても愛しく思えた。


 蔵之介はビアンカの愛撫を受け、体をくねらせる。しかし抵抗はしなかった。

 自分の役目は子供を生むこと。ビアンカとのなら嫌じゃない。

 異色の性刺激を体はとろけそうだった。

「人間と言うのは、こんな刺激で悦ぶのだな?」

「蜘蛛は違うの?」

「蜘蛛とすこし違うな。蜘蛛同士なら触れ合う事より、縛られたり、見られることを好むものが多い。もちろん触れ合うことを好むものもいるけどな」

 蔵之介はビアンカの肩に手を触れた。

「ビアンカはどういうのが好き?」

 蔵之介が聞くとビアンカはふふっと笑った。

「僕は蔵之介が気持ちよくなってる姿を見るのが好きだよ」

「じゃあ、触れられるより俺がっ、あっ」

 蔵之介が話してる間にビアンカは口に含んだ硬くなった乳首を甘噛みした。

「急に噛まないで……」

 ビアンカは思わず笑った。

「蔵之介のそういう反応が好きなんだ。こらえきれず、耐えられず声を上げてしまう所とか。感じて声を漏らすところとか」

「ビアンカが好きでも、俺は困るよ」

「何が困るんだ?」

 ビアンカは蔵之介の乳首をちょろっと舐めた。

「そんなところ、はずかしいだけだし。俺はビアンカに触ってもらえるだけで嬉しいから、あんまり刺激されるとおかしくなっちゃいそうなんだ。だから、優しくして」



蔵之介がいうと、ビアンカはいつになく楽しそうに笑った。

「それならそうと先に言ってくれれば、普段からもっと触れ合えたのに。なんで言ってくれなかったんだ? いつも緊張していただろう?」

「それは、……好き……だから。恥かしくて言えるわけないでしょ。それに緊張するものだと思うんだけど……」

 ビアンカは蔵之介を唐突に抱きしめた。

「すごくかわいい」

 蔵之介の一挙一動を思い出し、全てが自分を好きだったからだと思うと全てが尊く感じた。

「いつから僕を好きになったの?」

 ビアンカは蔵之介の顔をのぞき込む。

「そんなの、分かんないよ。最初からかもしれないし、一緒にいるうちに好きになっていった気もするし」

 蔵之介はビアンカを見つめ返した。

「ビアンカは? どうして俺を好きになったの?」

 そもそも本当に好いてくれてるのだろうか? そう心をよぎるがビアンカはほほ笑み唇を重ね。何度もキスをしてきた。蔵之介は求めるようにビアンカの首に腕を回し抱き寄せる。

「僕はずっと蔵之介を好きだったよ。蔵之介がここに来る前から」

「え?」

 ここに来る前から? 以前に会ったことがあるという事なのだろうか? 蜘蛛との思い出は海を飼っていた記憶と、あったのかどうか分からない巨大な蜘蛛との思い出。


 ビアンカは身をずらし体に口づけ、蔵之介の体を撫でた。撫でられる度に柔らかい糸が体を包んでいく。それは暖かく、常に全身を抱かれている感覚。全てを性感帯にされた様だった。



 ビアンカは全身へのマッサージを終え、蔵之介の足を持ち上げた。

 全身にははっきりと見えないくらい細い透明な糸が張り巡らされ、光が反射し、キラキラと光る。

 蔵之介はそれをただ綺麗だと思い見つめていた。後ろの蕾が指で開かれていく。ビアンカの指が中を広げていくのを蔵之介は唇をかみしめ、受け入れた。


「あっんんっ」

「苦しいか?」

 ビアンカはゆっくりと指を動かす。中を丁寧にこねられ腰をくねらせる。

「いえ、気持ちいいです」

 蔵之介の顔は赤く、息が上がっている。ある一点をこすると蔵之介は強くあえぎ声を上げ腰を反らせた。


「ここが良いのか。あまり動かないでくれ、どこが良かったのか分からなくなる」

「ひぅっ!」

「ここか」

 ビアンカは蔵之介の反応を見ながら快楽を与えていった。体にキスを落とし、我もの扱うかの様に体を撫でた。

 蔵之介は両手を震わせ、ビアンカの背に手を伸ばそうと肩を掴んだ。


 ビアンカはそれに気付き微笑む。蔵之介は

「欲しい、もっと……」

 と呟くと、目の前に白い糸が舞った。

 しかし、それは糸ではない。

 ビアンカの髪の毛だった。蔵之介の上に覆いかぶさり、唇を重ねる。

 舌を絡ませると、蔵之介の体がビクリと弾けたように動いた。


「子種が欲しいか?」

 ビアンカが聞くと蔵之介は潤んだ目で見つめ頷いた。

「欲しい。ビアンカのが欲しい。ビアンカとずっと繋がってたい」

「なら強い子が産めるな?」

 強い子供……それを産むのが生贄としての役割。そしてビアンカが求めていること。

「うん」

 強い子が産めるかなんてわからない。けど、ビアンカの為ならできる事はやりたい。


 蔵之介の体は熱くなり、次第に刺激に敏感になっていた。

 乳首を強く弱く弾かれ、敏感な所を擦られていく。

 体がなでられ糸につつまれた細い腰がびくびくと動く。

 ビアンカの股の間にある人間に似たソレも、しだいに血がめぐり固くなっていった。

 準備は整っている。


 蔵之介はそれを見た。あんな大きいものが入ってたんだ。知っていたことではあるけど、この前はあまり直視出来なかった。しかし、それ以上に挿れて欲しい。それで満たされたい。

 はやく、欲しい。焦る気持ちで、ビアンカの体を撫でた。

「求められるのは、嬉しいものだな」

 ビアンカはゆっくりと後ろの蕾に頭を当てた。先ほどまで指でこねられ口は緩み、ヒクヒクと動きビアンカの先端を刺激した。そしてゆっくりと広げられ挿入されていった。

 ぷつり、ぷつりとなかを押し広げられる感覚に、知らずのうちに涙が溢れた。


 こんなに、挿れられただけで気持ちいいなんて。やる前は考えたことがなかった。生きていくのが精一杯で、気持ちいことだけ感じられる時間を持てるなんて考えていなかった。

 蔵之介は挿れられた感覚に集中すると、中に何かが出てきているのを感じた。それは違和感。

「なに? なにか出てる?」

「ああ、卵のうを作る糸だ」

「ぅん、そっか」

 そうだ、卵のうを体の中に作るんだ。聞いてはいたけど実際されると想像していたのと違う感覚に少し恐怖を 感じてしまう。最初は受け入れ居ようとしたが、出てくる感覚が長く、蔵之介は腰を引きそうになる。

「まて、逃げるんじゃない。失敗したら手で卵のうを掻き出すか、特殊な液を流し込み溶かさなければならない。それは苦痛を伴うことになる」

 ビアンカはしっかりと蔵之介の体を抱き締めていた。中へと糸を放たれていく。


 手でかきだす? それはお尻の穴に手を突っ込むという事なのだろうか?

 考えるとぞっとして、蔵之介は自分の体が逃げない様、ビアンカにしっかりしがみついた。


 失敗したくない。しかし中への明らかな違和感。こんなことして大丈夫なのだろうかと体の中が何かで満たされていく感覚が怖くてたまらなかった。


「それでいい。偉いぞ」

 ビアンカは優しく蔵之介の頭を撫で、キスを繰り返した。


 どれくらいの時間が経ったか分からない体内に糸が出される感覚が止まった。

 これで終わりなのだろうかとホッとするとビアンカは体を起こした。

「卵のうは完成した」

「うん」

 蔵之介はくったりとした体を休ませるように目を閉じる。しかし、ビアンカは腰を動かし始めた。


「んぅ」

 蔵之介は驚き、腰を引こうとした。

「まって、何をするの?」


「何って、今からが種付けだよ。卵のうに種を仕込むんだ」

 ビアンカは腰を前後に動かし、中をこすられていく。前回されたのと同じ感覚。糸に中が動かされ、奥まで刺激が伝わっていく。その感覚に意識が溶かされていく。

「やっ、待って今日はもう無理」

「駄目だ。卵のうが固定されたら種付けが出来ない。またやり直しになる」

「それもやだぁ」

 蔵之介は駄々をこねるように声を上げる。

「蔵之介はいい子だから大丈夫」

 そんな事言われても……。蔵之介はそう思いながらもビアンカの腰打つ旋律に喘ぐしか出来なかた。

 またおかしくなりそう。

 ビアンカは蔵之介を抱き締めたまま中に熱を放とうと徐々に動きが早まっていく。


 突かれるたびに蔵之介の声が漏れはじめる。

 擦られる感覚が強い快楽に変わり、声も求めるものに変わっていった。

「甘い声だな。もっと聞かせてほしい」

 ビアンカはなかなか達すること無く、蔵之介の声を堪能しているようだった。


 体力ありすぎなんじゃないか? と思えるほど、ビアンカはずっと動き続けていた。蔵之介はまた逃げ腰になるが、ビアンカにしっかりホールドされ身動きが取れなくなった。さらに言えば全身についた蜘蛛の糸が柔軟な溶接材料として働き、ビアンカとの体を引き離すことができなくなっていた。


「んんっ、気持ちいい、気持ちいい……」

 蔵之介は続く熱くなる感覚に意識がもうろうとしていた。

「中に、たくさん、早く」

 蔵之介が言うとビアンカは優しく微笑み、しかしすぐに余裕のない表情へと変わり、腰の動きを早めた。

「中にだすよ」

 ビアンカは奥へとしっかり突くと熱を放出した。


「あっ、ああ、ああぁぁぁ」

 蔵之介の口からだらしない声が溢れ続ける。

 人の量とは比べ物にはならない量の精液が流れ込んでいた。

「もう、むりぃ」

 蔵之介はいやいやと首を横に振る。

「子供のためだ。沢山の子供を埋めただけ皆からの評価が上がる。もう少し耐えてくれ」

「た、沢山?」

 その言葉に疑問を覚えた。考えると蜘蛛は大量に子供を作る。

「ああ、多ければ一度に百人近く産まれるよ」

「ひゃ、ひゃく?」

 百人? そんなにこの体に入るの? その前にそんなに産めるの? どういうやってうまれてくるの?

 理解が追いつかず、体力も限界で蔵之介は目を閉じるとすぐに意識がとんでしまった。








 目を覚ますと、そこは寝る前と同じベッドの上。起き上がろうとすると、体が柔らかい糸で包まれていることに気付いた。糸は暖かく心地よい。

 うとうとして再び眠りそうになる。


 しかし、ビアンカの手が優しく頬をなでた。

「昨日はすまない。説明もそこそこで、無理をさせてしまったようだ。前回もそうだったが、人間はすぐに意識を失うんだな」

「えっと、あの」

 確かに初めての感覚で戸惑う所は多く、意識を無くしたのも体力がない体と思うけど。

 でも王は優しく痛い思いも一切しなかった。無理だったなんて思っていない

「そんなの。すごく気持ちよくて。その、むしろ体力無くてごめん」

 ビアンカはそれを聞くと微笑み、体を包む糸を撫でた。


「この糸は癒やしの効果がある。戦闘での負傷や疲れにも効く。まだ体がだるいようならこのままでいるといい。疲れが取れたらゼノスに声をかけて。ほどいてくれるから」

「うん、じゃあもう少しこのままでいるよ。あったかくて心地いい」

 蔵之介は優しく微笑むビアンカを見つめた。

 ビアンカは名残惜しそうに蔵之介の頭を撫でてから起き上がり、服を整えた。

「それじゃあ僕は王としての役割があるから行くよ。何かあれば心音で分かる。すぐに駆けつけるよ」

 ビアンカはそういって部屋を出ていった。


 白い長い髪を最後まで眺めて、目を閉じた。

 糸が暖かくてうとうとしてしまう。

 昨日のことを思い返し、気持ちよさと、幸福感。そしてビアンカの唇、合わせた体、起きたことが鮮明に思い出されて恥ずかしくなり体が熱くなった。


 ふと、お腹を撫でる。昨晩確かに体の中に糸を出された。

 しかし今はなにも感じない。違和感もない。

 こんなに違和感ないものなのかな? そう思いながら目を開けると、ゼノスがベッドをのぞき込んできていた。


「あっ」

 ゼノスは思わず声を上げる。

「あの蔵之介様、糸ほどきますか?」

「え、あ……うん」

 まだ起きる気はなかったけど思わず頷いてしまった。糸がほどかれていくと、中はまだ裸だった。

「お風呂に入られますか?」

 ゼノスは蔵之介のまわりに綿の様に広がった糸を回収して箱につめていく。蔵之介はそれを少し広い眺めるときらきらと輝いていた。ビアンカは光って見えていたけど、この糸自体がやはり光ってるのかもしれない。

「……この糸何かに使うの?」

ゼノスは蔵之介が糸を見てるのに気づき頷く

「はい、ビアンカ様の治癒糸はとても丈夫で再利用が可能です。洗って市民に配布されます。蔵之介様の胸に張られた糸も、通信用として再利用されてますよ」

ゼノスがにこやかに笑う。

「そ、そうなんだ……」

治癒糸だから体に負担がなく心地よかったのかと分かったが。事後に使われた糸がどこかで使われてると思うと、恥かしくなった。



 ゼノスに体を洗ってもらい、タオルで拭いてもらうのも慣れてきていた。

「あれ、蔵之介様。脇の下に赤い跡が」

 ゼノスに言われ蔵之介が脇の下、肺の横あたりをのぞき込むと確かに赤くなっていた。

「これって、……もしかしてキスマーク?」

 昨晩の事を思い返すと確かにビアンカはここに時間をかけてキスをしていた気がする。

「キスマークってなんですか?」

「え」

 蔵之介が驚いて黙った。なんて説明していいのか分からない。

「キスしたらマークがつくんですか? でも頬にはつかないですよね?」

 普段からビアンカにキスをされているのを見ているゼノスがそう疑問に思うのも分かる。しかし、改めて説明するのも恥かしい。

「あ、あの、強く吸い付くとこうやって跡になっちゃうんだ」

 蔵之介は顔を真っ赤にして答えた。

「そうなんですか、初めて知りました。痛くはありませんか?」

「うん、痛くはないよ」

 蔵之介が答えるとゼノスはホッとして服を着せ始めた。



「何か体に変化があったらすぐに行ってください。ビアンカ王にすぐにお伝えするよう承っております」

「うん」と蔵之介は頷き、ソファに座った。本当に何の変化もない。

「俺は本当に妊娠したのかな?」

「はい、ビアンカ王は卵を産みつけたと仰っているので間違いはありません。これから冬季にはいりますので、出産は春ごろになるかと思います」

 

ゼノスは手帳を開き何か書き込んでいる

「季節で変わるの?」

「はい、冬に生まれると寒さで生き残れる個体が減ることもあります。蜘蛛のその風習が残り出産が遅れるケースもあるらしいです」

「あるらしいって、確実ではないんだね」

「そうなんです。母体が暖かさを保っていると子供がでても平気だと勘違いして出てきてしまう事もあるようです。なのでこの部屋もあまり暖かくはしないよう言われていますが、寒かったらその時は温度調節をしますので仰ってください。もし早く生まれても、ビアンカ様の糸でいくらでも対応は可能ですから」

 ゼノスは言って、手帳のページをめくった。

「あと、この事は城の中の少人数しか知りません。キーパーも一部の者しか知りませんが、いつも以上にしっかり守る様伝えております。海は外で修行中なので伝えないようにとビアンカ様の指示ですが、会いに行く分には問題ないとのことです。

 そして、食事の方ですがもし味覚が変わるようでしたらその都度仰っていただければ、食べやすいものをご用意いたします。無理して食事はなさらない様お願いします。

 つわりに関しても女性の母体と同じく起きる可能性があります。起きた際は言っていただければ、対応をいたします。黙って無理はなさらないようにしてください」

 その後も妊娠生活に関する説明が続き。ゼノスが再びページをめくった。


「あと、子供が生まれてくるまでに、蔵之介様にはやっていただかなければならないことがあります。これは大事なことです」

 ゼノスはいつになく真剣な面持ちで手帳を蔵之介に見せた。

 そこにはびっしり予定が書き込まれてる。

「なにこれ?」

「蔵之介様の教育計画です」

「教育計画?」


 今までも文字の事やここでの習慣は覚えてきた。でもここまできっちり予定は立てられず、かなりのんびりした日々を過ごしてきた。そこから考えるとかなりハードなスケジュールが立てられているのが手帳を見ると分かる。

「蔵之介様のと言っても、お腹の中の子供に向けての教育です。子供をお腹に宿した状態で母体へ教育すると生まれた時に子供がその教育をしっかり学んだ状態で出てくるということが分かっています。なのでこれから日々しっかり必要な教育を受けてもらい、蜘蛛の対術と、受け身、糸の操作なども学んでいただきます」

 ゼノスは手帳を自分のもとに向け内容を確認する。

「糸の操作って、俺は糸は出せないよ?」

「ええ、そこは私の糸で代用します。できる範囲で、しかしできるだけ多くの糸の操作を覚えていただきます。 そして、これが蔵之介様に一番酷なものなのですが、やっていただかなければならないことがありまして……」

 ゼノスは言いづらそうに、手帳で口元を隠した。

「なに?」

 ゼノスの指が天井をさした。蔵之介は天井を見る。しかし、それは天井より先を示していた。

「上空から飛び降りていただきます。これは飛行訓練で」

「それは絶対無理!!」

 ゼノスが言いかけたの蔵之介は遮って叫んだ。しかし、ゼノスは話を進める。

「飛行訓練で子供の状態では安全性を確保するためできない事なんです。ですから母体の時に一度体験することで、子供にその体感を教え、大人になりその行為への抵抗を減らす効果が期待できるとのことです。ちなみに私はまだ未体験ですのでどんなものかは存じ上げません……。一般的な教育でもやらない事なんです。でも安全な事は確かです」

「そんな知らないものをやらせないでよ! それに一般的にやらないならやらなくていいじゃん!」

 蔵之介は泣きそうな顔で訴える。

「すみません、王と大臣たちの指示です……。それに生まれてくるのは王の子供ですので」

 ゼノスはそういって頭を下げた。蔵之介はわなわなと震えながら両手で顔を覆った。

「こんな……こんなはずじゃ……」

 蔵之介はがっくりと肩を落とした。





一章完

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