8月19日 ホージョへ向けて

――僕が護るよ。だから安心して。


 かなり古い記憶が夢の中で再生された。具体的にどこで誰に誓ったのか思い出せない。一つ言えるのは、俺はその約束を守れていないということだった。いつまでも子どものままで、頼ってばかりで大事なことは頼られない脆弱な存在なままだ。


苦手なことから直視しなければならないものから逃げ続けている。いい加減それと向き合い克服しなければと思ってはいても、足が竦んで前に進めない。どうしたらいいのかわからず、まるで海で溺れているようにずっともがき続けている。


……海? そう言えば俺はここに来る前に家族で海に行ってたはずだ十年ぶりの海に。夏の終わりの大事な日を迎える前にけじめを付けようと……。


「起きろぉおおおおおお!」


 凄まじい爆音で目が覚めた。イセリナがまた腹の上に乗っかってにやにやしている。毎度毎度起こすのにどうしてこう強引というか雑というかなんだ。偶には優しく起こしてくれる日があっても良いのにとずっと思っている。


「起きたよどいてくれ」

「本当に?」


 寝ぼけて会話してるのかと突っ込みたくなるのを抑えて上半身を起こす。小型パンダも目を覚まし、イセリナは小型パンダを回収してようやくどいてくれた。前日の話し合いの通り、資金も底を突いたので町に出て冒険者ギルドの依頼を受けつつモンスターを捕獲して行く。


ヨーダとオルテガさんも既に起きていて、朝食の準備をしていたので急いで手伝いに入る。これまでヨーダの稼いで来た資金でご飯を食べていたので、底を突いた今あるのは森にある果物くらいしかない。


種を取り皮を向き食べやすい大きさにカットした果物を頂いてから、ヨーダの案内でホージョまで移動する。無一文なので腹が減ったからと現地で食べるわけにはいかないので、イセリナにもたくさん食べさせておいた。


 勇者たち一行はなんの苦労もなく来た感じだったが、実際歩いてみるととんでもなく長かった。ヨーダはなるべく時間をかけないよう直進するルートをとってくれたが道のりはとても険しい。山を越え谷を渡り、やっと人が付けた光の群れを見つけた頃には日は暮れていた。


「あのダンジョンを俺が今回は留守番を置かなかった理由がわかるだろう?」


 町の入口で荷物検査の列に並んでいる時そう言われて頷く。誰か一人置いて行けば帰ってくるまでにとんでもない時間がかかる。心配で依頼に集中できないから皆で来たと理解した。


オルテガさんはヨーダが寝ている時に使っていた布を体に撒いて、骸骨だとバレない様にしている。手荷物検査と言っても武器はヨーダだけが携帯していたのですんなり通れた。


イセリナが自分は魔王だと名乗った時は他の三人と血の気が引く思いがしたが、門番さんには笑われただけでそのまま通されてしまう。納得いかないと言った顔をしていたが、こっちとしては笑われた程度で済ませてもらってよかった。


中に入ると人間族以外にも獣人や魔族っぽい人、軟体生物みたいな人までとにかく人種のるつぼって感じがする。だから門でイセリナがあんなことを言っても笑って済ませられるんだなと納得した。


「おうお前ら遅かったじゃないか!」


 冒険者ギルドは町の真ん中の方にあり、ウェスタンドアを開けてカウンターへ向かおうとしたところで、聞き覚えのある声が右側の奥からした。見れば勇者一行が晩酌中だったので挨拶をしに行く。


「めちゃくちゃ時間がかかったんだが」

「そりゃそうだろ。歩いてくるなら早いくらいだぞ?」


 いつも食料を差し入れしてくれたことを考えれば、そのまま担いで来たと考えるより、馬車をどこかに停めていたと考える方が妥当だろうと今ならわかる。イセリナが盛大に御腹の音をならし、皆で顔から火が出る思いだった。


ガムンは豪快に笑い、御馳走してくれるという。申し訳ないけど今は一文無しなので御言葉に甘えさせてもらうと告げると、面白くなさそうな顔をしていた勇者様は立ち上がり、近くの空いている席から椅子を取って来て渡してくれた。


この日は御馳走になった後、ガムンたちが利用している宿の納屋を格安でお借りして就寝した。

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