8月17日 亡霊
草木が揺れる音に気付き慌てて目を覚まし、上半身を起こして周りを見渡すが誰もいない。足の先を見ると毛布が掛かっていて、地面ではなくこの世界で目覚めた時から一緒のベッドで寝ているとわかる。
小型パンダが出して皆が寝かせてくれたのだと思うが、誰もいないのが気になる。黒いプレートアーマーが去った後で気を失ったが、また戻って来て皆を襲っていないか心配になりベッドから起きようと足を地面に付ける。
「ンゴ」
なにか地面でない生暖かい物を踏みつけた。慌てて覗いてみると勇者様が雑魚寝している。地面に何も轢かず寝れるとが勇者様は思った以上にタフだ。起こすのも悪いと思ったのでそのままにしてベッドだけ回収し、皆を探すため一旦ダンジョンの入口に移動した。
すると見慣れない背の高い女性が入口を見つめて立っている。腰まである茶色い髪は強いウェーブが掛かっていて、来ている服を見る限り勇者様の仲間である聖職者のマリアと同じ格好をしていた。この人も聖職者だろう。
「もう起きたの?」
「え、ええ。ダンジョンになにか御用ですか?」
こちらを見ずに問いかけて来る女性。質問に答えた後に問うとこちらを向く。鼻の高い少しエスニックな雰囲気のある美人だ。不思議と女性の顔を見てとても落ち着いた自分がいる。
「亡霊が迷い出て来たって聞いて見に来たの。今は居ないみたいね」
亡霊とは恐らくあの黒いプレートアーマーのことだろうと思い頷くと、女性は入口に視線を戻した。どこか憂いを帯びた顔をしているが、知り合いなのだろうか。
「ダンジョンの中で黒いプレートアーマーの凄腕剣士と何度か遭遇していますがお知合いですか?」
「……古い戦友よ。もう出てこないと思ったんだけどね」
「亡くなったんですか?」
「小さな男の子を助けてどこかへ消えた。再会したのはダンジョンを彷徨う亡霊の噂を聞いて調査しに来た時」
あの凶悪な黒いプレートアーマーが助けたからというだけでなく、小さな男の子を助けたという言葉がとても引っ掛かる。そしてその子がどうなったのかとても気になった。
「その男の子は今どこに?」
「さぁ……どう思う?」
こちらを向いて俺に問う。その目を見ていると動悸が激しくなり次第に景色が歪み始めた。これは一体なんなんだ? なにか魔法を掛けられているのだろうか。
「す、すみませんちょっと気分が」
「無理しないで休んで。いずれあなたは彼を送り出さなければならないのだから」
薄れゆく意識の中でそれだけが聞こえ、完全に閉ざされた。
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