8月16日 お盆
「早速だが資金が底を突きそうだ。何か金になりそうな物はないか?」
いつものように潜り込んで来たイセリナが寝ぼけながら放つ、はざいますパンチによって目が覚め、小型パンダを抱えながらベッドを出てヨーダとオルテガさんを探す。修繕しているのかと下の階に行って探したが見当たらず、地上まで出ると二人が難しそうな顔をして腕を組みながら話していた。
「生憎俺には何もない。後はイセリナだけど……」
皆押し黙る。あの部屋を見てそんなものがあるといえる者は誰もいないだろう。正直これまでどうやって暮らして来ていたのか気になってしょうがないが、聞いても素敵な気分になるとは思えないのでスルーしている。
「となるとやっぱ冒険者として日雇いに出るかなぁ」
「オルテガさんは大丈夫なんですか?」
「どういう意味だ?」
「いやその……骸骨だから驚くんじゃないかと。それに陽の光が森の中とじゃ比べものにならないかと」
オルテガさんは左掌を寝かせて右拳の側面で叩き、納得してくれたようだ。例え大丈夫だとしても、誰かがダンジョンを見ていた方が良いだろうと言うヨーダの提案にも納得し、オルテガさんはダンジョンの管理人として残ることになった。
「はざいます……」
のそのそとダンジョンから這い出て来た魔王。字面だけでいえば恐ろしいが実際はスライムレベルである。地上まで歩いて来たのだろうにこちらにくるまで横に転がりながら来て俺の足に当たり、よじ登りながら起き上がった。
それでも自分で立とうとせず顎を肩に乗せたまま寝ることを粘る魔王。それを見て魔王以外の三人は溜息を吐く。そしてオルテガさんがコレは連れて行ってくれと言うと、ヨーダがダンジョンの主なのに連れて行くわけないだろうと突っぱねる。
なら俺が町に行くというオルテガさんに対し、こんなもの一人で残していけない面倒を見てくれと言う。そこから押し問答が始まる。魔王が肩にいる関係上黙って見守るのが賢明だと考えボーっとしていると、魔王の魔力が増大し突風を起こす魔法をお放ちになられた。当然巻き込まれ吹き飛ばされる。
結局オルテガさんが顔や体をローブで隠し、部屋に会った篭手などでなるべく骨が見えないようにしつつ、ヨーダと共に町に出稼ぎに行くという話で纏まった。生贄は……俺だっ! などとふざけている場合ではない。もう早速問題が発生し困っている。
「おなか空いた!」
まぁ同じく腹が減っているので歩きながら食料を探しに行く。勇者一行が来た時に近くのは収穫してしまったため少し離れて探さねばならず、小型パンダに護衛を頼んでイセリナと共にダンジョンの守りをお願いした。
こういう時に魔法で食事が出てくると便利だよなぁと思いながら歩いていると、凄い光景に出くわす。
「貴様ッ!」
「ほう……散歩かね?」
地獄のような光景が誕生した。右から勇者様、左から黒いプレートアーマーとまだ昼間なのに特大ホラーが始まる。夏休みと言えばお盆があるが、このホラーはそれに合わせて開催されたのだろうかと疑いたくなる。勇者様は違うかもだが黒いプレートアーマーは化けて出たと言われても違和感が仕事しないレベルだ。
「ぬぅん!」
こちらの回答も待たずに斬り掛かってくる黒いプレートアーマー。後ろ走りしながら後退しつつ両手を合わせてから横へ広げ、天星十字剣を召喚する。その柄を握ったと同時期斬りつけられ、天星十字剣が自動的にそれを防いでくれた。
「相変わらず進歩がないな。死にたいのか?」
「短期間でマスター出来る講座でもあれば受講したいもんだ!」
天星十字剣の動きに合わせ手を離さないようにするのがやっとで、しのげてはいるものの黒いプレートアーマーの攻撃の鋭さにずっと肝が冷えている。移動しながら戦っていると、黒いプレートアーマー越しに勇者様が見えたが小指で鼻を呑気に弄っていた。
「おい勇者様! 一般人が襲われているのに助けないのかっ……よ!」
「フン、愚か者め。勇者が戦うのは強敵のみ。お前たちのうち勝った方と手合わせしてやろう」
自分の剣を地面に突き刺し、その柄頭に肘を置いて余裕の表情で言う勇者様。この国の勇者があんなだとは国民が可哀想になってくる。
「面白い」
黒いプレートアーマーはそう言うと今までで一番強烈な一撃をこちらに放ってきた。天星十字剣はそれを剣の腹を向けて受けるが、勢いを殺しきれず後退りしてしまう。
なんとか踏ん張って手を離さず転ばず止まれたが、この体勢で攻撃を受けたらやられる! 歯を食いしばりなんとかなるよう祈りながら身構えてた。
「なぜこちらに来た! まだアイツは生きているぞ!?」
「死ね」
黒いプレートアーマーはこちらではなく勇者様へ標的を変えて斬りかかる。来ないと思って余裕でいたところを襲われたので、体勢が整わずよろけながら受ける勇者様。手加減など一切ない黒いプレートアーマーの一撃を勇者様は紙一重で避け続け、なんとか体勢を立て直してしまった姿に感嘆の声が漏れる。
「か、感心していないで手伝え!」
「ぬははは、貴様たち二人のうち勝った方と戦ってやろう」
「こ、この悪魔め!」
棒読みで勇者様のマネをしただけなのに悪魔呼ばわりされて辛い。だが見れば勇者様は文句を言いながらも捌き続けていて、割って入ると邪魔になりそうな気がして見ていることにした。
勇者様は決して綺麗なだけの剣さばきではない。それを見ると剣をこれまでちゃんと修行して来たんだなというのが素人にもわかる。中身が邪悪でなければ名実ともに勇者になれただろうに。
「おまっ! 本当に見てるつもりか!」
「え、勇者様は俺を助ける予定があったのですか!?」
「しゃい!」
答えに困ったのか勇者様は面白い言葉を発しながら黒いプレートアーマーの剣を弾く。本当に凄いな……あの黒いプレートアーマーと天星十字剣もないのに剣戟を交わせるんだもんな。
「お、おい! 真面目に頼む! ちょっとだけ手を貸せ!」
「良いですけど、そう言いつつ逃げるんじゃないでしょうね?」
「……そ、そんな真似を勇者がするのかね? 思わないだろう?」
いやもうそれするじゃん間違いなく。しどろもどろすぎるし正直か! とツッコミを入れたいところだが、ここで見捨てたら寝覚めが悪くなりそうなので割って入ることにする。
「二人でも構わないぞ? それで楽しませてくれるのならな!」
側面から斬り掛かるも素早く弾かれ、こちらへ攻撃が向いた隙を突いた勇者様の突きもあっさり避ける黒いプレートアーマー。先ほどよりも剣は速度を増し、勇者様との即席コンビネーションをあっさりと捌ききられてしまう。
天星十字剣はなぜかこの時は勝手に動かず俺に任せていた。勇者様や黒いプレートアーマーの斬り方を頭の中で反芻しながら真似つつ、勇者様の攻撃に合わせて斬りつけて行く。
「即席にしてはなかなかやるではないか」
「俺様が勇者だからだ!」
よくわからない返しをしながら攻撃を続ける。勇者様がスタミナお化けであるのはこないだ朝まで天星十字剣と立ち会っていた件からして知っていたが、自分もそれに付き合えるほどだったのは意外だった。
恐らく緊張感と複合的な要因でそうなんだろうし、これが終われば負けるにしろ退けられるにしろ倒れるのは間違いないから気にせず攻めていく。
「……ちぃっ、邪魔が入るか。仕方ない、お前たちの命預けておくぞ。ぬぅん!」
左右の側面から斬り下ろしたがそれをとんでもない速度で斬り払い、猛スピードで逃げて行く黒いプレートアーマー。なにが起こったのかと身構えていると、勇者様ご一行の声とイセリナの声が聞こえて来て、勇者様と見合うとホッとして力が抜けてそのまま倒れた。
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