8月15日 修繕と記憶のカケラ

「はざいまーす」

「……おはよう」


 三十階まで修繕したんだから最下層にある自分の部屋で寝ると言っていたイセリナが、三十階の通路のベッドで寝ている俺の横にいる上に右手で顔を強打して来て目が覚めた。なにをいっているのか以下略。


挨拶している本人は寝たままで起きる気配もない。小型パンダもぐっすり寝たままで仕方ないので抱えながら起き上がり下の階へ移動する。


「おう、起きたのか」

「おはよう」


 オルテガさんとヨーダは既に起きていて丁度合流したところらしい。三人で三十一階から修繕を始めていく。材料も減っていないし慣れもあって、丁寧に気を付けながらも初日からくらべて修繕のスピードは上がり続けていた。


ヨーダも材料が減っていないのが一番大きな要因だろうと言い、オルテガさんも作業の道具がなくてもそこら辺の木の板で間に合うのが良いなと同意した。当初人員不足を嘆いていたが、慣れと勇者たちの助太刀もありとてもスムーズに進んでいる。


三十五階で修繕していると、傍で寝かせていた小型パンダが起き上がりとてとてとどこかへ行ってしまった。三十七階修繕中にイセリナを連れ立って戻ってくる。どうやらイセリナが起きたのに反応し連れて来てくれたらしい。


そこから一旦三十一階に戻り、イセリナの火の魔法弱火で粘土質の土を乾かしてもらい、岩を敷き詰め間に粘土質の土を詰めというのを繰り返して三十七階まで戻ってくる。


「いよいよ修繕も終わるな」

「そうだな。このダンジョンはストレートで罠も無いし、俺からするとダンジョンてよりマンション? 的な感じがするぜ」


「え、終わんないよ?」

「え?」


 イセリナ以外の三人は同じタイミングでイセリナを見る。どういうことなのか事情説明を求めると、モンスターがいないのでダンジョンになってないからだそうだ。そう言えば確かに最初にここに来た時にオルテガさんが言っていたモンスターも、俺が下の階に移動した時襲って来たモンスターもいない。


二人の顔を見ると、オルテガさんは首を竦めヨーダは溜息を吐きながら腕を組み俯く。モンスターってどうやって集めていくのかはわからないが、壊してしまった責任は取らなければなるべくいいことからズレてしまうのでやる他無い。


「わかったよ。その代わり協力してくれよな」

「もちろん!」


「ありがとうな。そうしている間にイセリナのお父さんが見つかるといいけど」

「お父さんはいなくても大丈夫! 康矩たちがいるから!」


 イセリナの言葉にオルテガさんやヨーダは目頭を熱くし視線を逸らした。だがイセリナの顔をみると強がりでもなんでもなく本当にそう言っているように見える。


――俺が護らなくちゃ……もういないんだから。


 頭の中に急にチリチリとした音と共に幼い子供の声が聞こえ驚き周囲を見渡すが誰もいない。また変な敵が出てこないと良いなと思いながらも、どこかで聞き覚えのある声だが思い出せないのが気持ち悪い感じだった。


そのまま皆で床も天井も修繕し、四十階まで到達すると今日はここまでとして作業を切り上げた。ヨーダは町に買い出しに出掛け、残りは外に出て果物などを探す。外に出ると夕方になっていて、夜にはヨーダが荷車を引いて帰ってきた。食材を下ろし皆で調理をして夕食を取った後、就寝する。

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