8月14日 勇者のお供たちと雑談を
「おいっす」
「どうもー」
イセリナは珍しく自分の部屋で寝るというので、小型パンダと共に一階の通路にベッドを出して二人で寝ていた。が、いつの間にかイセリナが潜り込んで来た挙句、寝相の悪さに何度も攻撃を受ける。鎧を着て無いのに魔王の攻撃に耐えるとか、俺の学校の制服って凄いなと感心してしまう。
「なにか好き嫌いはありますか?」
「いや俺はないが、お前たちは?」
「俺も無いよ。イセリナは……無いらしい。オルテガさんは?」
「おらぁコーヒーがあれば良いし自分でひいて来るよ」
「が、骸骨でもご飯食べられるんですかっ!」
勇者一行を起こしに行くと寝ぼけて時空転送魔法があったとか言ってたが、目が完全に醒めると笑い話になった。そして地上に出て彼らが持参した食料で朝食を頂く。ガタイの良いおっさんことガムンは大きい金属製の土鍋蓋なしを背負って来ていて、火を起こしそれでシチューを作り始めた。
女性陣二人の包丁さばきも見事で、ゲームの中だとあっさりついてしまうけど実際は遠い場所へ行く時は野宿もあるだろう。そういう場合はこうして過ごしていたのだろうなと思うし、間近で生きている冒険者を見れてなんとなく嬉しかった。
「そう言えば魔王であるイセリナと仲良くして良いのか?」
「会話が成立するのは貴重なのさ。別に殺し合いをしたいわけじゃないからなこっちは。あえて戦いたいならそうするが、そんなこともないだろう?」
ガムンの問いにイセリナは出来上がったシチューを受け取り、ふーふーと冷ましながら頷いた。勇者たちがこのダンジョンを捜索しに来たのも例の時空転送魔法が敵対する魔族に渡ってしまった場合の被害を考えてのことだという。
魔王にもピンからキリまであり、中には不可侵条約を結んでいる国もあるようだ。それを聞いてほっとする。イセリナを倒さなければならないと言われたら、彼らと殺し合わなければならないし、それは元の世界に帰るチャンスを失うことになるだろう。
「モンスターはそういう意味じゃ会話が成立しないし、ダンジョンで出会った時に躊躇すればこっちが死ぬ。最初に会った時にああだったのは覚悟を決めてたからだ。一度死んだら御終いだし」
「回復魔法は?」
「神の御加護がありますので可能ですが、死に近い者は回復できませんし遺伝による病などは難しいです」
戦争で傷付いたり部位を損傷した場合は元があれば戻せるという。ただ時間が経ち過ぎていたりすると失った部位側が死んでいるので無理になるので、この世界でも義手や義足は存在しているらしい。
「なんにしても平和が一番だ。俺たち冒険者もモンスター討伐ばかりじゃなく他の依頼もあるし、食うのに困らない。今回の場合、国からの依頼でな」
「なっ……なにをしているんだお前たちっ!」
ヨーダが買って来た毛布に包み近くに寝かせていた勇者様が目を覚まし上半身を起こす。あたりを見回してから俺たちを発見し茫然としながら見ていたが、意識がはっきりすると目を見開いて立ち上がる。のっしのっしとこちらに歩いて来て仁王立ちしながら言うその姿を見て、皆で目を合わせ首を傾げた。
「なにか問題でも?」
「問題だっ! こいつらは敵だぞ!? 時空転送魔法を護る魔族の一員だっ!」
「その問題なら解決した。最下層に行って精神を削りながら探したがなにもなかったぞ? 魔法で探知したが引っ掛からなかったし隠し部屋もなかったんだ」
「そんなものはこいつらの罠だ! 嘘に決まってる!」
「あるってなれば何度も私たちがここに来るんだから、彼らに得はないと思うけどね」
「なぜこんな連中を信じるんだ!」
「信じるもなにも私たち自身で探しましたので。本当に恐ろしい目に遭いながら探したんです……あんな場所以外に隠すのに適した場所はないでしょう……」
聖職者の格好をした人物こと僧侶のマリアはそう言いながら身を震わせ俯いた。イセリナの部屋は凝視するだけでも辛かっただろうに、あんな中を探したとか拷問以外のなにものでもない。
ヨーダもオルテガさんも沈痛な面持ちで俯き、犯人のイセリナはうまうましていた。腹立たしい。
「お前たちの気合が足りないんだ! ちゃんと探せばある!」
「じゃあ行け。案内してやる」
「ジョー! 裏切ったと思ったがやはり違うんだな!」
「いや元々お前らとは仕事で組んだだけだ仲間面するな」
斬り捨てるジョーことヨーダさん。なんで偽名だったのかと聞くとなぜか教えてくれなかった。ジョーと二度と呼ぶなと俺に念押しして勇者の襟首をつかんでダンジョンへ降りて行った。
「ジョーは最近俺たちの国に来たんだ。冒険者ギルドで頭角を現したんで国から御指名で今回の任務を受けている。お前たちはジョーの知り合いか?」
「いや、急に俺たちに力を貸してくれるって言ってくれたんだ」
異世界人ぽいというのは伏せておいた方が正解だろうと考えそうした。俺のことも聞かれたが目覚めるとダンジョンにいて記憶がないという設定で話をすると、なにかあれば力になると親切で言ってもらい少しバツが悪い。
今のところ体が丈夫なのと天星十字剣以外は異世界人であることで得した点はない。新しく見つかるのかもしれないが、ここから元の世界に帰るために変な行動はなるべくしないのが身のためだろう。
それからガムンたちは自分たちの国であるホージョの話をしてくれた。港が大きく内陸の国への貿易都市となっており、冒険者の仕事も荷受けをしたり荷物運びの警護をしたりする仕事が多いようだ。
最近はその荷物を狙って魔族以外にも盗賊が多く、討伐の任務も多いらしい。時空転送魔法の噂はかなり広がっていてそれらに渡るのは不味いと王様が勇者様たちをしめいしたという。
「勇者は祖先が国を救った功労者でな。王様も勇者のいとこだ。最近は没落していたから王様が気にかけて依頼を回したんだよ。アイルも家の再興と勇者の矜持っていうのかな、そういうのを何とかしたくて気合が入ってたんだ」
そこへきてこの有様だったので執着したという。王様としては時空転送魔法自体がなくなればそれでよく、外向きには勇者の功績だと讃えて面目は保ったそうだ。
「まぁいずれ面目躍如の機会もあるだろう。平和が一番だがそうならないのが今の時代だしな。それより迷惑かけた詫びに俺たちも作業を手伝うよ」
「え!? いいの!?」
「ああ構わない。お前が俺たちに対して敵意はないのはわかったし、今後も互いに嫌なことをしなければ友好的にしていきたいからな。上にもそう報告しておくよ」
僧侶のマリアやもう一人の女性のお供、狩人のハンナも同意して俺たちはダンジョンに入り床の修繕作業に移る。暫くしてヨーダも合流し、この日はなんと三十階まで到達することが出来た!
オルテガさんは自分の部屋で久し振りに眠れると喜び、皆に握手をして小躍りした。ガムンたちはイセリナに頼んで勇者を引き摺って来てもらい、地上でテントを張り寝て翌朝帰るという。夜になり皆作業を終え、夕食後に解散となり各自就寝となった。
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