8月13日 勇者ご一行再訪。
「おい起きろ!」
がくんがくん揺らされ首がもげるかと思い目を覚ますと、ヨーダが俺の肩をつかんで揺さぶっていた。そしてオルテガさんとイセリナが俺を隠すように立っている。なにが起こったのか戸惑いながら起き上がった。
見れば森の中にいて前には例の勇者様ご一行が得物を手に立ちはだかっていた。そう言えば例の黒いプレートアーマーに見つかって逃げて来て外に出たんだったと思い出す。
「また来たのかこいつら」
「貴様のせいでこの俺は笑い者だ!」
「魔王が苦し紛れにトラップ発動魔法消滅では?」
「そういうことにしてやったが、俺たちは真実を知っている!」
「え、勇者様は仲間に笑いものにされてるの?」
俺の発言に何故か勇者御一考全員目を逸らす。こっちも気付いてオルテガさんやヨーダ、それにイセリナに小型パンダまで目を逸らした。なんか気まずくなって俺も目を逸らす他無くなってしまう。
「あーっと……で、何か用?」
「用はただひとぉおおおおつ! お前をぶっ倒し時空転送魔法を手に入れるっ! そして俺の威信を取り戻す!」
「全然一つじゃないじゃん」
激昂しながら叫ぶ勇者様に対し、冷静にそして食い気味にツッコミを入れてしまった。皆ツッコミを聞き終えると体をビクンとさせ、徐々にぷるぷる振え始める。勇者様は別の意味で体を震わせていたが
「最早問答無用ぶち殺ず!」
と唾をまき散らしながら剣を向て叫んだ。
「ぶち殺ずってなんですか?」
「キェエエエエエ!」
三角飛びでもするのかってくらいの叫び声を上げながら斬り掛かってくる勇者様。イセリナの肩を引きバランスを崩させ倒れたところを右手で腰をつかみ飛びのく。元いた場所の地面に剣を叩き付けた勇者様は狂戦士のような顔をしてこちらをみた。
どこが勇者なんだと思いながらイセリナを後ろへ移動させ、掌を合わせてから離して天星十字剣を呼ぶ。柄を握ろうとしたが勇者様は凄い速度で振り被りながら飛び込んで来て間に合わない。
「ちぃっ!」
天星十字剣は意思があるのか向かって突っ込んで行き、勇者様はそれを斬り払うと下がり着地した。そこから勇者様は俺を攻撃しようとするも、天星十字剣に阻まれ目の前に来ることすら叶わない。
「お前ら時空転送魔法手に入れたのか?」
「いいや? 時空転送魔法なんて本当にあるのか?」
「わからない。お父さんが埋めたかもしれないけど、私は見たことないよ?」
「あなたはこのダンジョンの主なの?」
「うん。ここ私の家。穴が開いたから康矩たちに直して貰ってるの」
「直してるんだが人手が足らんくてなぁ」
「……あなたは生きているのですか?」
「わかんね。気付いたらこのダンジョンに居たんだよ俺」
「神を信じますか?」
「信じない」
皆暇になったのか勇者様と天星十字剣から離れ、こっちで雑談を始めた。暫くするとさらに飽きたのかダンジョンの修繕を見たいというので中に移動して修繕の状況を説明し、五十階まで移動して実際に確認して貰った。
どうやら最下層に宝物庫があってそこにあると噂が広がっていたようだ。一番奥にイセリナの部屋があるので興味があるならどうぞ、というと向こうの女性陣とおっさんはキャッキャしながら移動する。
「そう言えば黒いプレートアーマーは?」
「お前が気を失って皆で引き摺りここで隠れてみていたが、だいぶ時間が経ってから出て来てどっか行ったぞ」
「ホントおっそろしかったな。アイツここになにしに来たんだろうな」
黒いプレートアーマーがいないのを確認し、勇者のお付きご一行と共に地下へと向うべく後を追う。イセリナの部屋へはご本人とご一行のみで行ってもらった。その後のことは多く語らない。
一つ言えるのは彼らは気付いたら翌日で”時空転送魔法は実在した!”と起き抜けに言って暫く笑い話になったということだ。ちなみに勇者様は無駄に体力と忍耐力が凄まじく、翌朝まで天星十字剣とやりあい倒れる。
俺たちは勇者一行を七階の部屋で休ませたあと修繕に移り、最初に十四階まで床を修繕。次に乾燥したであろう一階部分の天井と床に岩を嵌めて間に粘土質の土を噛ませ熱するという作業を遅くまで続けて就寝した。
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