8月12日 穴を塞ぐ作業が続く

「うぐ……」


 あまりの息苦しさに目を覚ますも前が真っ暗で見えない。このままでは窒息死してしまうと顔に手を置こうとすると何かに阻まれる。触ってみるともふもふしていて両端を手で掴み持ち上げると小型パンダがよだれを垂らしながら寝ていた。


背中の感触からしてベッドに寝かせてくれたようで感謝しかない。大きく深呼吸をした後、左へ寝返りを打つとそこにイセリナがいた。なにをいってるのかわからないと思うが、俺が一番わかってない。


小型パンダをイセリナの顔に押し付け現実逃避するべく反対側へ寝返りを打ちもう一度眠る。


「ふごっ」


 うとうとし始めた頃、隣から可笑しな声が聞こえもがき暴れ出した。見ると背を丸めた小型パンダのお尻が丁度鼻の辺りに当たっていて、イセリナはそれをどかそうとしているが寝ぼけて見当違いなところを触っている。


あまり意地悪するのもなんなので小型パンダを回収しベッドから起き上がる。周りを見ると暗くて通路ではないのだろうなと思った。足元の方角から光が漏れていてそこへ近付くと扉があり開けるといつものダンジョンに出る。


「起きたか」

「ヨーダ、悪いな一日修繕に加われなくて」


「急に剣を持って倒れていたが何かあったのか?」


 昨日二階であった話をするとヨーダは眉間に皺を寄せる。なにか知っているのかと尋ねると、どうやらその黒いプレートアーマーは冒険者の間では死神と呼ばれていて、ダンジョンで会うと無事では済まないという。


「目的は不明。ただ冒険者を襲っているならギルドから討伐依頼が出るんだが、モンスターも倒しているのでギルドとしては注意喚起しかしていない」

「いや冒険者が倒されてるならギルドは討伐依頼を出さないと不味いんじゃないのか?」


「お前は相対してどうだった? 倒せそうか?」


 ヨーダの問いに言葉が詰まる。確かにその通りだあれを倒せと言われたら全力で断る。あの凄い剣を持っても勝てる気がまるでしなかったし。


「参ったなぁ修繕が遅れそうだ」

「まぁ出会ったら逃げるのが正解だろう。それよりイセリナはまだ寝てるのか?」


「寝てる。てかなんで一緒に寝かせたんだ可笑しいだろ」

「流石のお前でも魔王には手を出さんだろう?」


「なんだその流石のお前って。含みがある言い方するじゃないかこちとら彼女いない歴イコール年齢だっていうのに」

「それはまた意外だな」


「全然意外でもなんでもないが」

「うぃーっす! 康矩起きたんか!」


 もう少しヨーダに対して尋ねたかったが、オルテガさんが来たので一旦中断し昨日のお詫びを告げると作業の状況を教えてくれた。どうやらヨーダとオルテガさんで材料を集めてイセリナの炎の魔法で水気を飛ばしてというのを続け、慣れもあって七階まで来たという。


粘土質の土がしっかり固まるまで時間がかかるので、先に粘土質の土で穴を埋めるのを優先しようとなったようだ。三人でイセリナが起きるまで材料を集めて床を固めてという地味な作業を続けていく。


最初に散らばった土を集めて行くが、あの剣は破壊するというより分解するという特殊な能力があるようで、足りなくなるかと思った材料は丁度あった。ヨーダは剣を使えば財宝を守っている扉も分解できるかもなと言われ、例の最下層にあると言われていた時空転送魔法を探そうかなと思い立ち一旦五十階に移動する。


「随分と気が早いな。そんなに死に急ぐ必要はなかろうに」


 悪夢である。五十階に着き歩いていると、黒いプレートアーマーがイセリナの部屋の近くに立っていた。見つかる前に逃げようとしたが気付かれたのか振り向いてしまう。丁度ヨーダと話していたので迷わず逃げるを選択し全力で上へ駆けのぼる。流石に大魔王ではないので逃げきれるだろうと考え死ぬ気で走った。


途中でヨーダたちにあったので逃げろと告げ、七階の部屋のイセリナと小型パンダを回収し地上へ出てまたしても気を失う。虚弱体質が恨めしい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る