8月11日 闇よりの使者

 布団でなければ寝れない人間だったが、疲れているからなのかあっさり眠れた。寝起きは可もなく不可もなく。疲れはないから眠れてはいるんだろうけど少し不安になる。


昨日は床を埋めたので天井は開いたまま。見れば陽の光が差し込んおり、今日も蒸し暑くなりそうだなと感じる湿度だ。他の四人はまだ寝ているようなので一人二階に下りて残骸を広い準備をする。


「おや、動く者がまだいたのか」


 声に驚き素早く振り向くと、暗闇よりも深い漆黒のプレートアーマーを着た人物が剣を振り被り立っていた。ぞくっとして鳥肌総立ちだったが迷わず組み付くべく飛び掛かる。


「ほう……迷いがない。命知らずか冷静なのか」

 

 プレートアーマーは渋い声で冷静に言いながら俺の右肩に触れた。このまま掴まれたら逃げられない! 急いで股を潜り後ろに回る。


「馬鹿にはできない芸当だ。だがそれだけで私の剣から逃れられるかな?」


 ゆっくりと振り向く黒いプレートアーマーの男。凄まじい威圧感に気圧されるがそれでも奮い立たせ立ち上がる。自分にも剣があればと思った瞬間、初めてあの剣を出した時の動作を思い出し、掌を合わせて念じながら離していく。


「これは面白い」


 光の粒子を放ちながら空間を歪ませ、柄が青く剣身も半分青い剣が出現する。柄を握り切っ先を相手に向けて構えたが、相手は切っ先を下に向けて仁王立ちしていた。


「剣の名前は?」

「知らない」


「それはもったいない。ちまたに数ある剣とは違い、君だけの剣だろう? ならば名前くらい付けてやらねば可哀想だ。命を預ける者にあれとかこれとか日頃から言うのは答えてくれるとは思えんがな」

「余裕だな」


「当然だ。これでも剣にのみ生きてだいぶ経つ。刻んだ命を数えるのも止めたし倒した強敵の名前ももう覚えていない。だが相棒の名前だけは忘れないものだ。そうだな、剣の交差する部分に星も付いていることだし天星十字剣とでも名付けるがいい」


 相手は余裕があるだろうがこっちは全くない。向き合ってるだけで斬られるイメージが頭の中に浮かんでは消えていく。正直足も手も震えていて黙らせるのに全力だ。元の世界に帰るまでは絶対に死ねない。なんとかこの場を切り抜けないと。


だが相手は百戦錬磨のようだし、剣術素人の俺が勝てる可能性があるとすればこの剣だけ。恐らく二撃目を迎えればさっきみたいに不意を突く以外は確実に斬られる。


一撃目に全てを賭ける、そう覚悟を決めて柄を両手で握り力を込めた。気迫で負けないよう歯を食いしばり足も踏ん張る。


「良い気迫だ、それだけで私の剣を受ける資格がある。だがどうやら君の仲間も起きたようだし勝負はお預けだ。また来るのでそれまでに腕を磨いておくがいい」


 黒いプレートアーマーはそう言うと剣を思い切り斬り上げた。衝撃波がこちらに飛んで来てそれを弾くべく天星十字剣で思い切り斬りつける。


「素人にしてはよくやる……だがそれだけだ。剣の御蔭で助かったのをゆめ忘れるな」


 威圧感と共に闇に消えていったが、またどこかから出て来るんじゃないかと思って構えを解けずにいる。本当に死ぬと思ったし運が良かったというか相手が見逃してくれたとしか思えない。


仲間が起きたからと引いて行ったが、ヨーダたちが下に来たのはだいぶ時間が経ってからで間違いなく見逃されたと理解した。


皆が来てくれてほっとしたのもあり意識が遠のいて行く。それは海の中に沈んで行くような不思議な感覚がした。

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