8月9日 魔王イセリナと共に

「凄いなぁ……改めて見ると」


 目を覚ますと既に女の子と嵐のヨーダが起きていたので挨拶をする。嵐のヨーダは雑魚寝するには辛すぎると言ってさっさと町に買い出しに出掛けてしまった。


初期装備でベッドがあるのは素晴らしいなと思いながらベッドの足を蹴りミニチュアに変えてぽっけに入れる。まだ寝ぼけ眼の小型パンダを抱えながら周囲を見渡す。


両方の土壁に沿うように石を積み上げて、天井は石と石の間に何か噛ませてくっつけて固定していたようだ。このダンジョンを作った人たちは凄い人たちなんだろうなと感心する。


こんな地下で崩落事故が起れば一溜まりもないだろうから、細心の注意を払いながらの仕事だったろう。苦労を考えると壊してしまったのは申し訳ないなと改めて思う。


「そんなに凄い?」

「凄いよ。ただの洞穴じゃなくてとても手が込んでる凄いダンジョンだ」


 後ろから付いて来た女の子は嬉しそうに微笑む。そう言えば私のお家と言っていたからこの子の家族がこのダンジョンを作ったんだろうか。


「君のお父さんがここを?」

「お父さんと皆がここを作ったの!」


「皆はまだここに居る?」

「いると思う。でも皆それぞれの階から出られないと思う。お父さんからそう聞いてたし」


 どうやら詳しい事情はわからないが、指定された階層からは出られないルールのようなものが設けられていたようだ。取り合えず誰かいないか確認しようと呼びかけるも、誰も返事がない。


小型パンダと女の子と顔を見合い、再度大声で三人で呼びかけてみる。俺たちの声だけがダンジョンに響き渡るだけだった。しょんぼりしている女の子に対して変顔したりして慰めていると、上の方から聞き覚えのある声が聞こえて来る。


「よっ! まだ生きてたみたいだな!」

「オルテガさん!」


「え、あなた誰?」


 オルテガさんはどこから持ってきたのかロープを垂らして下まで来てくれた。再会の握手をかわそうと近寄ると女の子がそう尋ね足を止めてそちらを見てしまう。


「お前こそ誰だよ」

「な!? 私はこのダンジョンの主! 魔王イセリナよ!」


「はぁ!? お嬢ちゃんがダンジョンの主!? 魔王!? なぁ康矩、これってお前の世界のジョークか? それともこの世界特有のジョークなのか?」

「えーっとこの子の名前は今初めて知りましたけど、ここ最下層みたいですし彼女の家だといっているので間違いないかと」


 イセリナにこのダンジョンの成り立ちなどを、改めてオルテガさんに話して貰う。オルテガさんは真面目に聞いてくれたが最後の方沈痛な面持ちになっていた。


何故かと問うと、とても言い辛そうにして口をつぐんでいる。イセリナがどうしても教えて欲しいと頼むと重い口を開いた。


「それがな……こないだの崩落であちこちいたモンスターたちが出て行っちまってよ……もう誰も居ないんだ。俺も丁度他所へ移ろうとしたところでよ」


 言い辛いのも無理はない。イセリナはこちらを涙目で見ている。なんとか知恵と力を貸して貰えないかとオルテガさんに言うと、少し考えてから目的も無いし乗り掛かった舟だからと協力してくれることになった。


イセリナとしてはなんとかここを直したいと言うが、地下五十階というダンジョンに地上まで開いた穴を直すのは時間と人員と御金が要るのは間違いない。


「第一よ、やっぱダンジョンて暗くてジメジメしててよ……その、言い辛いけど働き手が居ないんよな実際」

「そういうのが好きな層もいるんじゃないかと」


「居るには居るけど地下五十階を気持ちだけで埋め尽くすのは何十年かかるかわからんぜ? 勝手な推測だがよ、イセリナの親父さんもわかっててそうしたんじゃないかなと思うぜ?」


 言葉を選んでオルテガさんは言う。そうした、というのは何か手段を使ってここに留めておいたことをいっているのだろう。イセリナはしょんぼりして地面に座ってしまった。


「こういうのはどうです? いっそ穴は開けたままでテーマパークとして改装するとか」

「悪くない案だけどイセリナ、お前さん資金は?」


 首を何度も横に振るイセリナ。どうやって生きて来たんだ。


「おいまたなにか問題か?」


 オルテガさんと試行錯誤していると、ロープが垂れて来て少し間があってから嵐のヨーダが下りて来た。早速説明しようとしたが、地上で購入したものを配送を頼んだ人に下ろして貰うので手伝ってくれ、と言われオルテガさんやイセリナも加わり下ろしていく。


寝袋や食料などだいぶ買い込んでいて、りんごをわけてくれた。皆でりんごを食べ終えてからオルテガさんを紹介し事情を説明すると大きな溜息を吐く。


「人手も大きな問題だが資金もデカいな」

「なにか良い手はないだろうか」


「やっぱ地道に冒険者として稼ぎつつ他のダンジョンとか城襲うしかなくね?」

「そうなるとなるべくいいことっていう前提が崩れる。降りかかってくる火の粉を払うならいいが、こっちから攻めたら元も子もない」


 ヨーダも目的は同じで別の世界から来たようだし、前提であるなるべくいいことを崩さないよう行動しつつなんとかしないとならない。この辺りの気候についてヨーダが調べた限りでは、降水量は多くないようだがなるべく一階の天井だけでも先に直した方がいいだろうとなり、明日は上がって修復作業を行うとなった。


この日は皆で五十階を見て回り終える。一番左奥にあったイセリナの部屋を開いて直ぐ閉じて記憶から消しておく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る