8月8日 なるべくいいことはじめ

「うわはああああああん!」


 デジャヴだ。下に落ちて目を覚ました時と同じような鳴き声に目を覚ます。小型パンダが介抱してくれたのかベッドの上にいて、首をさらに上に向けると穴が見えたが昨日見た時より弱い光だった。


「少し寝た程度か」

「何日寝るつもりなのよもぉおおおおお!」


 横を向くと例の女の子がベッドにしがみ付きながら号泣していた。何日寝るつもりなのかと言われても寝たくて寝たわけではない。


「で、何日寝てた?」

「昨日倒れだ昼がら寝で今朝……」


 それってちょっと長いけど普通に寝てただけじゃね? と思ったが敢えてツッコミは入れない。相変わらずスンスン鼻を鳴らしながら泣いているので突っ込んだら余計酷くなるのが目に見えているからだ。


「お待たせしたみたいで悪かったよ。そっちは寝てないのか?」


 首を振る女の子。寝てるんかい! とツッコミたいのを堪えながら辺りを見回すと、小型パンダが瓦礫を退けていた。何を探しているのだろうか。


「もう良い?」

「何が?」


「体調、良い?」

「どうだろ……確かめてみる」


 ベッドから降りてラジオ体操を覚えている範囲でやってみる。あの剣は強力だけど使いすぎると気を失うから、使いどころを考えないといけないな。


謎の声の言う”なるべくいいこと”っていうのがなんなのかさっぱりわからないが、悪いことをしないが大前提だろう。その上で良いことをしていけばこの世界から抜け出せる……はずだ。


「ここどうやるの?」

「頑張って背伸びする感じで飛んで、足も手も横に思いっきり伸ばす」


 いつの間にか女の子と小型パンダまでラジオ体操に加わり、師ッてる範囲で教えながらゆっくりめで最後までやり切り、大きく深呼吸をして終了した。


「なにをしているんだお前たち」


 例の地上が見える穴からロープが下りて来て、少し間があって黒いローブの人物も降りて来た。体の調子を見るためにラジオ体操をしていたというと特大の溜息を吐かれ、近くの岩に腰かけると俺が倒れている間にしていたことを教えてくれる。


先ず地上に戻って勇者とか呼ばれていた連中を乗ってきた馬車に放り込み、ここから少し離れたところにある城へ連れて行ったそうだ。そして王様たちに時空転送魔法は最下層にいた魔王が苦し紛れにトラップを発動させ消滅したと説明したと言う。


それでよく収まったなというと、この穴をみせたら皆納得しここを閉鎖区域に指定させたので当分は近付かないだろうと黒いローブが言うと、女の子は歓喜の声を上げた。


勇者たちに関しては、名も知らない人間に負けたなんてことは口が裂けても言えないので、何も言わず抗議もなかったようだ。黒いローブの人物の御蔭でなんとか暫く平穏な日々が送れると思うと感謝しかない。思えば黒いローブの人物の名前も知らないし、こちらも名乗ってもいないから失礼だなと思い自己紹介をすることにした。


「お疲れさん、改めて自己紹介するよ。俺の名前は田中康矩だ宜しくな」

「宜しくしなくても良いが一応名乗っておこう。俺は嵐のヨーダだ」


「嵐のヨーダ……? ヨーダの嵐……? ノダ?」

「嵐のヨーダだ。ノダでは断じてないし勝手に名前を入れ替えるな。それより謎の声が言っていた話を詳しく教えろ」


 早口で名前の件を終了させられ謎の声の話に持っていかれてしまう。なんか名前が引っ掛かるんだよな……とはいえ今直ぐ思い出せないし、変なのを追っ払ってくれた恩もあるので謎の声について隠さず全て話す。


「多少手掛かりのようなものがあるだけマシか」

「まぁ良いことをなるべくしていけば、いつか戻れると信じて生きていくしかないよな」


「それしかないだろうな腹立たしいが」

「じゃあ早速いいことしてよ! ねぇ!」


「いいことって何すればいいの?」

「このダンジョン直して! 私のお家なの!」


 笑顔で頼む少女を見てから嵐のヨーダの方を見ると視線を逸らされた。幾ら他意は無いとしても少女の家を壊したのは事実だ。これを放置したのではなるべくいいことをしていこうっていう目標の真逆になってしまう。


こうしてこの日からダンジョン復旧に勤しむことになった。嵐のヨーダも関わってしまったからには手伝わないと俺も帰れないと言い、共に夜が来るまでこの場所の瓦礫撤去作業をし続け一日を終えた。



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