8月7日<後編> 黒いローブ
「おいてめぇ、なにしやがる」
「なにしやがるじゃねぇよ。こんなちびっこに対しておっさんが剣で攻撃しようとしてるんだぞ? 斬られたって仕方ないだろうが」
「……なんだその剣は」
おっさんは素早く飛び退いたが、来ていた鎧の腹が横に切れていた。傘で剣術の真似事をした程度で本格的に学んだ覚えはない。斬れないだろうと踏んで牽制で薙いだが、攻撃範囲が広い剣なのだろうか。
「気を付けろ、そいつの剣はお前らとは違う」
「知ってるのか? ジョー」
おっさんの後ろにいる四人のうちの一人が前に出てそうアドバイスをした。目元以外は黒いローブで覆われていてわからないが、凄い睨まれている。
「そこのあなた退きなさい、そいつは魔族よ?」
「魔族だから子どもでも大人の人間が寄ってたかって殺しても良いって言うのか?」
仲間の一人で聖職者の格好をした女性がそう言って来たが、俺の言葉に対して思うところがあるのかそれ以上何も言わなかった。
「そいつはここのボスだからな。俺たちが寄ってたかってかかったところで倒せるかどうか」
「もうよせ。面倒だからソイツごと倒してしまおう」
おっさんたちの中で一番高そうな装備をしている、金髪で二枚目の男がこちらに近付きながら剣を抜き放ちつつそう言った。俺は迷うことなく剣を弾き飛ばすべく思い切り薙ぐ。余裕の表情でこちらの攻撃を受け止めた次の瞬間、左側へ吹っ飛んで行った。
「勇者! くっ……クソっ!」
俺の力ではなく剣の力だろうと思いながら、再度襲い掛かってきたおっさんの剣に対して思い切り斬りつけた。剣はキン! と音を放ちながら折れ切っ先は天井に突き刺さる。
「どけ!」
おっさんは茫然としながら立ち尽くしていたが、俺たちに向かって来ようとしていた他の仲間たちを突き飛ばし、目元以外黒のローブで覆われた男が飛び掛かってきた。剣で払おうとしたが、持っている手の手首を強打され剣を落としてしまう。顔面を殴られると思いガードしようとしたが、何故か両手を掴まれ力比べの体勢になる。
「つっ!」
「流石だな俺に力負けしないだけアイツらよりはマシだ。一つ聞きたい」
「なんだ?」
「時空転送魔法が欲しくないのか?」
「欲しかったが要らなくなった」
「何故だ?」
「時空転送魔法が元の世界に戻る為には意味がないって言われたからだよ」
「誰に言われた?」
「気を失っている時に声が聞こえて来て」
「……くっ!」
黒ローブの人物はそう言うと自ら手を離し距離を取ってから地面に拳を叩き付けた。俺の話に悔しがる点があるのだろうか。
「おいお前どうしたんだ!? もう少しでアイツを倒せたのに!」
「うるさい! 消え失せろ雑魚どもが」
立ち上がり掌を仲間たちへ向ける黒ローブの人物。なにがあるのかと思って見ていると、黒ローブの人物の仲間たちは宙へ浮き始める。そしてそのまま地上まで開いてしまった穴の方へと向かい、その真下に来るとあっという間に見えなくなってしまった。
「時空転送魔法を見つければ終わりと思ったが甘かったな」
「お前も別の世界から来たのか!?」
「とにかくこのままだとここに馬鹿どもが押し寄せて来てしまうこれ以上来ないよう適当にあしらってからまた来る」
こちらを見ずにそう告げ、地上へ戻るべく穴に向かい去っていく黒いローブの人物。それを見届けてから急に体の力が抜けて地面に突っ伏し気を失った。
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