8月7日<前編> ???

――康矩、こんにちは。


 誰かの声が聞こえる。目を開けて確認しようにも目が開かないし、体も全く動かない。あの剣のせいなのだろうか。


――ここは次元の隙間、生と死の狭間。


 え、次元の隙間はまだいいけど生と死の狭間ってなんだ? 俺まだ夏休み入って数日しか経ってないのに生と死の狭間にいるの!? なんで!?


――あなたがこの世界から抜け出す為に、なるべくいいことをしてください。


 いいことってなんだ。人による部分もあるだろうに。


――それで察して頂けると助かります。ではご武運を。


 察して頂けるとってまた人任せな……なるべくいいことってまさか俺が今いる世界のことは知っていても、俺が元の世界へ帰る具体的な方法を知らないってことなんじゃないのか? 

生と死の狭間でそうだと……。


「うわはああああああん!」


 耳をつんざく鳴き声と叫び声が合わさったものに驚き目を開けようとすると、さっきまでと違い難なく目が開く。前を見ると、恐らく落ちて来たであろう方向には大きな穴が開いていて、なんと陽の光が見えるではないか。


これで朝昼晩くらいはわかるなと思いながら左右に首を動かしながら周りを見ると瓦礫の中だった。小型パンダは俺の腹の上で気持ち良さそうに寝息を立てている。


起こさないよう腕で抱えながら上半身を起こすと、前の方で瓦礫を手で退けている人物がいた。どうやら泣き叫んでいるのはその人物らしい。近寄って見ると、頭の両端から角が頭の中心に弧を描くように生えていて明らかに人間ではない者だった。


恰好はマントに黒い鎧を着ていて背中に斧を背負っている。どうしたものかと考えたが、そっとしておこうと元の場所に戻ろうとした。


「どこいぐの……」


 が、足首を掴まれてしまう。振り返ると涙とかもろもろでぐちゃぐちゃになった、童顔の女の子が恨めしそうにこちらを見上げていた。


「え、いや……そっとしておこうかと思って」

「あなだでじょ壊じだの!!」


「心当たりがあると言えばあるけど故意ではない」

「おまえのぜいだ!」


 彼女の指さす方向を見ると、例の剣が地面に突き刺さっている。どうやら大人しくなったようでホッとしつつ、勝手に動く機能も停止しているようなのでここは知らないと誤魔化そう。


「俺のじゃないよ」

「うわはああああん! ひっ!?」


 なんとか足から手を離させようとするもめっちゃ力が強くて離れない。よく自分の足も潰れないなと思いながら奮闘していると、さっきまで遠くの方で地面に突き刺さっていた剣が飛んで来て切っ先を女の子に向けた。


「おいやったぞ! 最下層まで穴が開いてるラッキーだ!」


 切っ先を向けられても負けずに睨みながら足首を掴んでいる女の子から、なんとか手を離させようと奮闘していると誰かが下りて来た。


「誰かいるな……なんだてめぇら。さてはモンスターだなぶっ殺せ!」


 モンスター並みに野蛮な感じの無精ひげを生やして汚らしい鎧を着たおっさんが、剣で斬りかかってきた。骸骨の次は人間に斬りかかられるとは。


「おいちびっこ、動くなよ?」

「うえ?」


 声を掛けてから女の子に切っ先を突き付けていた剣の柄を手に取り、襲い掛かってきたおっさんへ向けて薙いだ。

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