8月6日 剣が出た!

「お、目が覚めたか?」


 目を開くとオルテガさんと小型パンダが、心配そうな顔をして俺を見つめていた。どうやら生きてはいたらしい。まぁ冒険者がこぞって狙いに来ているダンジョンを簡単に進めるわけはないから甘すぎたんだ。


「すいませんお手数おかけして」

「いや大したこたぁねぇよ! このちっこいのが頑張ってただけでよ!」


 オルテガさんに頭を撫でられ嬉しそうな小型パンダ。聞けば下から吹き飛ばされてこの階の天井に叩き付けられた瞬間、小型パンダが俺に抱き着いてベッドのミニチュアを取り出すと素早く下に投げてベッドを出現させ、ダメージを軽減してくれたらしい。


小型パンダ凄過ぎだろ……ベッドのミニチュアをポケットに入れてたなんて教えてないのに知ってるとかこの世界の神様か何かか?


「取り合えずこのままじゃ下に行くのは無理だな」

「ですね……姿を見るまでもなく吹き飛ばされて気を失ってたんじゃ話にならない」


「どこか痛みは無いか?」


 オルテガさんに問われて起き上がり、ストレッチをしてみるも全く痛みは出なかった。それを見て感心するオルテガさんが


「お前さんが頑丈なんだろうな。頭に俺の剣を叩き付けても凹んだくらいだし」


 そう初対面で殺害を試みた件を急に自供した。俺と小型パンダは無言でオルテガさんをジッと見ていると


「す、すまねぇ! 剣なんて使ったことなくてよ! 剣の腹っていうのか? この部分を思い切り……な?」


 剣を引き抜いて刃の部分ではなく、真ん中の部分を指さしながら慌てつつ説明した。剣腹だったから良かったものの、刃の部分を叩き付けられたらと思うとぞっとする。


話を聞いたり実際ダメージを受けてみた感じからして、身体能力が全体的にアップしているのはわかった。なにか特殊能力的なものは無いのだろうか。


「せ8あt4えrk、v7!」


 小型パンダは急に大きな声を上げる。なんかひらがなが混じったような発音が聞こえたが、それを繋ぎ合わせても理解出来ないから意味が無いんだろう。返答に困っていると、掌を合わせてから広げるという動作を繰り返していた。


「それを真似しろって言うのか?」


 俺の言葉に大きく頷く。やっぱ言葉が通じないのは大変だなぁ。そこはどうにかならないものかと思いながらも小型パンダの真似をしてみる。


「うぉ!? なんだそりゃ!」

「え……おわっ!?」


 掌を離した瞬間、青白い光が放たれた。掌を離し続けると光も伸び、両手を広げ終えるとそこには柄が青く剣身の半分も青い剣が宙に浮いていた。


「な、なんじゃこりゃ……」


 そう言いながらも吸い込まれるように柄を握る。剣は握ると同時に青白い光を強く放ちながら見えない何かを斬り払うかのように動き回った。


「っと……! なにがあるんだこれ!」


 何とか抑え込もうとするも拒否するかのように暴れまわる剣。小型パンダは楽しそうに真似しながら踊り、オルテガさんは遠くの角からコッソリこちらを見ていた。


「うわっ!」


 急に振り被ったところで止まり周りを覆い尽くす様に強い光を放つ。暫くして剣は自ら勢いをつけて地面に向かう。切っ先が地面に触れるとガラガラと音を立てて崩壊して行く。


崩壊はそれだけに止まらず、壁も天井も範囲を巻き込んで全てを消滅させ始めた。


「くっ……! 小型パンダ! オルテガさん!」


 なんとか柄から左手を離して浮いていた小型パンダに手を伸ばし掴むと体に付けた。オルテガさんは急いで上へ行く階段へ登り逃げて行く。上には行けるようだから崩壊を伝えに行ったのだろう。今ならまだ急いで逃げれば間に合うかもしれない。


「tgfgこぱt489みおぺr」


 笑顔でこちらを向いて何か言っている小型パンダ。不安しかないがこの笑顔を見てると大丈夫な気がして来た。そう言えば昔、こんなぬいぐるみを誰か持っていた気がするけど、誰だっけ。


「思い出せない……うわっ!?」


 崩壊を進めていた剣は強烈な青白い光を放ちそれに俺自身も飲み込まれ意識を持っていかれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る