8月5日<後編> ダンジョン探索

 時計も日差しも無い中で目を覚ます。自分の中で翌日としているが本当のところはわからない。体を起こしベッドに腰かけて見ると、相変わらず小型パンダたちは水晶を見つめていた。


採掘自体していないようなので、こないだのように反応するのを待っているように見える。試しに彼らに近付き目の前の水晶に触れるとこないだのように反応し小型パンダは飛び跳ねあちこちから集まって採掘を始めた。


俺はそれを見届けてからベッドの足を蹴り小さくすると、制服の上着のポケットにしまい、彼らに一礼してその場を後にした。


「おう、よく来たな!」

「おはようございます骸骨さん、お世話になります!」


 昨日と同じように鍾乳洞から石のブロックで床壁天井が埋め尽くされた通路に入り、ボロい木の扉のところまでくるとノックをした。中からどうぞと言われたので入ると、昨日と同じような格好で骸骨が座っていた。


流石に呼び捨ては不味いだろうと思い骸骨さんと言うと、自分はスケルトンソルジャーという種族のオルテガ・ガンドと名乗ってくれた。それを聞いて人間のような名前だなと思ったが、敢えて触れない。骨のまま生まれたわけではないだろうし、聞かれても困るだろうと思ったからだ。


「それにしてもソレはお前さんのペットか何かか?」


 オルテガさんが俺の足元を指さしてそう言うので見ると、足元に小型パンダが歯を剥き出しにして微笑みながらサムズアップしていた。


「ペットじゃないんです。目を覚ました時からお世話になりっぱなしで。何か目的があるようなので、彼らの邪魔にならないよう一人でこちらにきたんですが」


 クシシシシと笑う小型パンダ。大勢いたうちの一人だけ付いて来てくれた理由はわからないが、少しホッとしている。誰も知らない中で多少知っている者といられるのは案外安心感があるんだなと思った。


学校でも好んでつるんだりはしなかったが、仲間が一人でもいるのは悪くないなと感じている。妙に敵視してくる奴が一人いたのをふと思い出すくらいしか思い出がないボッチだからかもしれないな。


「そっか。まぁ悪い生き物じゃなさそうだし問題無いだろう。改めてここがどこだか説明すると、ロマルトキアのダンジョンだ。どれくらい古いかはわからない。なにしろ陽の光も射さない場所だしな。俺は勝手に五百年くらい経ってると思っている」


 親指で壁を刺すオルテガさん。見ると壁の模様かと思ったそれは何かで傷つけられたもので、恐らく一日過ぎる毎につけられたのだろうと察した。


「ここはそのダンジョンの地下三十一階。なんでわかったかって言うと、下へ行く階段のところに書いてあったからだ」


 なんて親切設計なダンジョンなんだ。オルテガさんは外がどうなってるか知りたくて登ったことがあるそうだが、三十階にボスがいるらしく諦めて帰って来たという。


「このダンジョンに挑みに来た冒険者の色々な落とし物も見つかってな。それによるとこのダンジョンの一番最下層に居るボスが時空転送魔法を持っているって話らしくて、それを狙って来ていると最近知った」


 その言葉にハッとなり小型パンダを見ると両手でサムズアップした。どうやら元の世界に帰るにはその魔法を手に入れる必要があるようだ。そうとわかればオルテガさんに事情を話して協力を得られないか聞いてみよう。


「オルテガさん、実は自分は記憶喪失では無いんです」

「というと?」


「別の世界からやってきたんです。この世界を全く知らない」


 そこから一生懸命居た世界の話をしていく。オルテガさんは腕を組みながらジッと話を聞き入っていた。


「そういう世界もあるんだなぁ……俺の記憶にある世界はそれとは違うがここでもないんだ」


 オルテガさんの言葉に驚き胃の辺りが冷たくなるのを感じる。教えてくれたのは元の世界とも全然違う世界だった。ドームと呼ばれる場所で生活し、そこから外へ出るには体全てを覆う防護服を着ずには出れない世界だと教えてくれる。


「武器も頭にコードを差し込み連携しているから攻撃したいと思えば勝手に攻撃してくれるような仕組みでな。俺は他のドームを攻撃しに仲間と出たってところまでしか記憶が無い。気付けばここにこの姿で居てずっと壁に傷を付けていた」


 元の世界の記憶はその程度で、細かい知識や歴史は覚えていないらしい。そう言われれば俺も今思い出そうとしても細かい歴史とか思い出せない。体が勝手に震えて来てしまう。


「まぁでもお前さんは俺とは違い人間の姿をしているから希望があるかもしれん」

「協力してもらえますか?」


「協力するのは構わないが、恐らく俺はこの階から下にはいけない。何度か試してみたが足が動かなくなるんだ」


 それを聞いて嫌な予感がした。まさか自分もそうなんじゃないかって気がして。試しに行ってみようとオルテガさんに案内されてダンジョンを進んで行くと、暫く行ったところに下へ続く階段と三十一階と書かれた看板があるのが見えた。若干愛嬌のある文字で書かれていて、ダンジョンの雰囲気と合わない気がする。


「ほらな」


 オルテガさんが下りようとすると足が手前で止まる。力を入れて前に進もうとしても飛び込もうとしても、足が地面にくっついたかのように動かなくなる。


「行きます」


 覚悟を決めて降りていくと、なんとか進めてホッとした。やがて三十二階と書かれた看板を見つけ喜んでいると


「ウォアアアアア!」


 凄まじい咆哮と共に突風が吹いて来て吹き飛ばされ気を失った。


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