8月5日<前編> 気絶から目を覚ます。

「うぅ……」


 自分の呻き声に驚き目を覚ます。悪い夢を見たんだ……何か洞窟の中に置かれたベッドで目が覚め、小型パンダとつるはしで洞窟を掘り進むと言う夢を。額の汗を拭いながら上半身を起こし横を向くと、そこには家族ではなく骸骨いて椅子に座りこちらを見ていた。


「おぉ起きたかアンチャン!」


 ……悲鳴を上げようとしても上げられない。口をパクパクするだけしか出来なかったし顎が外れそうになった。


「おいおいしっかりしろよ、もう朝だぜ?」


 しっかりしろって言われても、この状況でしっかり出来る人間がいるなら見てみたい。年季の入った机の上に置かれた、ボロッとしたカップにコーヒーを注ぎながら骸骨が喋りかけてきている状況なんてないだろ普通。理解が追い付かないので脳がショートしても可笑しくないだろうに気を失わずにいる不幸。お母さん頑丈に生んでくれてありがとう。


「それに駄目だぞ? 他人の家に何にも言わずに入って来たらよ……強盗と勘違いするじゃねぇか、な!?」


 もうどこから突っ込んで良いのか分からない。腰に佩いていると思われる剣は骸骨の腰骨に見えない力でくっついているようにしか見えないし、コーヒーを淹れ終えてからそれを抜き差ししつつ喋ってるのを見るに、ひょっとしたら斬ろうとしたっていうか斬ってないか!?


慌てて頭を擦ったり背中を届く範囲で手を後ろに回して触ったりしたが、怪我がなくて安心した。なにか白い小石が頭を触った時に落ちたがこれは前に岩が落ちて来たアレだろう、きっとそうに違いない。


「す、すみません」

「いやいや良いんだよ謝ってくれりゃあさぁ! ほら安い豆だが案外イケるぜ?」


 骸骨は若干慌てた感じで剣から手を離し、カップを俺に差し出してくれたので頭を下げて受け取り一口飲んでみる。


「美味しいですね」

「だろ? おめぇさんお子様見てぇだから砂糖多めでミルクたっぷりよ!」

 

 ガハハ……と言うかカタカタと音を立てて笑う骸骨。味なんかわかるわけもないが怒らせても意味がないのでそういってみた。骸骨はカップを手に取り口に運んで飲み始める。が、床にも垂れず何処か異次元にでも繋がっているのか口に入れたコーヒーは消えていた。


「で、どうした? こんなところに子供が一人で」


 子どもって言うほど子どもじゃないがと言いたかったが、骸骨からしたら確実に子どもなのでそこは放置して事情を説明する。


勿論異世界から来ましたーなんて話は出来ないので、ありがちだけど記憶喪失って線で話をしてみる。


すると骸骨は話が終わると固まったまま動かず、成仏されたのかと焦ったものの、暫くしてから目の辺りからコーヒーが出て来て驚いた。


「い、いけねぇいけねぇ。オラぁ年だからよ涙脆くていけねぇや」


 ……涙脆いって言うかさっき飲んだコーヒーが異次元から出て来てるんですが、涙?


「ま、まぁ何だ……何か困ったらいつでもオジサンのところに来て良いからな!? 迷わず来いよ! これ今日の食糧だ」

「え、でも悪いですよ」


「良いから良いから! 今日は休んでまた明日にでも顔出せや! オジサンが案内してやっからよ!」


 強引に果物を幾つか渡され部屋を追い出される。どうしようもないので言われた通り明日また来ようと考えベッドに戻ろうとすると、オジサンがすすり泣く声が聞こえてなにがそんなに心を打ったのかと疑問を抱きつつ、ベッドのあったところに戻り就寝した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る