第5話

「蒼い〇〇」5


 奇跡は皆が信じてると思う。でも起きた試しは無いから奇跡は信じることしか出来ないんだと決めつけちゃう。


 午前中からビリヤードをやりにプールバーへ顔を出すと親分がマスターとビールを飲みながら談笑していた。

「やっぱり来たか兄さん」

「おはようございます」

「兄さんにプレゼントがあるんだよ」

「え?」

「革ジャンも似合ってるじゃないか」

「ありがとうございます」

親分は俺に近付いて肩をポンと叩いて手招きしながら店を出て行った。マスターはアゴでついていけの合図をした。


 親分に着いていくとあのコインパーキングに着いた。

 其処には400ccのカフェレーサーのバイクが停まっていた。

「格好いいっすね」

「やるよ」

「え?」

「ほら」

親分は鍵を渡してきた。

「しばらく会えなくなるからよ。兄さんに預かって欲しいんだよ」

「マジっすか?何処に行くんですか?」

「携帯の電波が届かない所だよ。まぁとりあえずコイツに跨がってみろよ」

俺はヤマハSR400カフェレーサーカスタムに跨がった。カウルは着いていない小さめなライトでタコメーターも無いシンプルなカスタムである。マフラーは勿論シガータイプだった。

「じぁ俺はバーに戻るから兄さんはコイツと遊んでやってくれよ」

「本当に良いんですか?」

「あぁ」

親分はまた俺の肩をポンと叩いてバーの方へ行ってしまった。


 俺は久しぶりにキックをしてエンジンを掛けた。

 なんとも言えない短気筒のエンジン音が一気に胸を高ぶらせた。


 徐行で路地を抜けて団地街をゆっくりと走りあの公園を横切った。その時に横目でベンチを見るとあの女の子が小さく蹲っていたー。


 目を覚ますとずしりと重みを感じたが直ぐに革ジャンを掛けられているのに気付いた。

 周りを見渡すと1台のバイクが停まっていたが誰も居ない。

 ライダースジャケットを羽織りバイクに近付くと公衆トイレからあの男の人が出て来た。

「起きたか」

「あ、これありがとう」

「何でこんな所で寝てたんだ?」

「あ、え、眠かったから」

「そっか」

羽織ったジャケットを脱いで男に返した。

男はジャケットをそのままあたしに着させてきた。

「バイク乗るか?」

「え?良いの?」

「おう!後ろに乗れよ」

男はエンジンを掛けて微笑んだ。鋭い目つきがとろんと溶けて優しい笑顔だった。


 何にも考えずに男の腰に抱き付いて流れる景色も微かに見て男の背中の体温を頬に感じてあたしの命を男にあげた。


つづく

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