第2話

「蒼い〇〇」2


 あれから店が終わると親分がよく行っているプールバーに顔を出すようになった。

 店からの帰り道にあるので気軽にいけたからである。常連客やマスターとも顔なじみになって親分が居なくても行くようになった。ビリヤードにもはまりひたすらジンライムを呑みながらナインボールを一人でプレイしていた。


 ナインボールをしていると見るからに不良な男女がが数人入ってきた。俺は目を合わせないようにしてビリヤードを続けた。

 赤い髪の小柄な女が近づいてきて俺の革ジャンを見て目を輝かせていた。

「これは貴男のルイス?」

「あぁ」

「めっちゃ格好いいね!ライトニング?」

俺は頷いた。

 女の後を見るとB系の男達がビリヤードを始めていた。

「貴男はバイカー?」

「今は乗ってない」

「音楽は何聴くの?」

「今は何も聴いていない」

連れの男が一人近くに来た。

「この女気に入った?一晩五万だけど払える?」

俺は意味が解らなかった。

「払えねぇなら喋ってんじゃねぇよ」

男がいきんできた。

 直ぐにマスターが間に入った。

「ゴメンね!マサシさん!彼は何も知らないから勘弁してあげて」

「コイツ俺らの事知らないの?マスターちゃんと説明しといてね」

「ゴメンね!」

男は女の手を掴んで自分達の席へ連れて行った。

 女は振り返りウインクしてきた。


「マスターあれは?」

「彼等は女の子売ってたり薬売ってたりね…あんまり関わらないようにしてね」

「そうなんですか、解りました」

この日はビリヤードを少しやって直ぐに帰ることにした。


 革ジャンを着てSRに乗って大通りを走ってる夢を見た。あの生温い空気を感じながら短気筒のエンジン音にシガーマフラーから出る細いバックファイア。

 何処へ向かってるかなんて解らないし考えもしない。向かう場所等は何処でもいい。ルイスの革ジャンを着てSRに乗ってマーチンのブーツ履いてるだけで満足だ。このまま夢の中でバイクに跨がっていたい。


 店に着くとシャッターが閉まっていた。

 いつもは叔父さんが仕込みをしているのに今日はシャッターすら開いていない。俺はタバコを加えてシャッターの前で待つことにした。


 しばらくすると親分が白いベンツで現れた。

「あれ兄さんどうした?」

「叔父さんが遅れてるんです」

「知らないのか?ギックリ腰やっちゃったから三日間休むって言ってたぞ」

「え?」

「だからか!ほらよ」

親分は俺に封筒を渡してきた。

 給料であった。

「兄さん携帯電話持ってないのか?」

「持ってないです」

「今時珍しいな」

「必要ないですから」

「そっか、そういえばビリヤードの店には行ってるのか?」

「はい!行かせてもらってます」

「変な奴等見なかったか?」

「変な奴等?」

「黒人みたいな格好したガキ達」

「女の人を連れて歩いてる人達ですか?」

「知ってるのか?」

「昨日居ました」

「今日も来るか?」

「解らないです」

「見掛けたら教えてくれ」

「解りました」

親分は自分の財布から三万を俺に渡してきた。

「美味いもんでも食べろよ」

そう言って二階へ上がっていった。


 俺はやることも無くコンビニでアイスを買って人気の無い公園のブランコでアイスを食べていた。

「やっぱルイスは格好いいね!貴男にも似合ってる」

女に声を掛けられた。あの女であった。

「五万は払えないよ」

「今は大丈夫だよ」

「口…」

唇が腫れ血が滲んでいた。

「転んじゃって」

「気を付けないとな」

「優しいのね」

俺は食べかけのアイスを女に渡した。

「食べかけだけど冷やしておけよ」

「え?ありがとう」

女はアイスを口元に付けて冷やしている。

 しばらく無言で二人並んでブランコを漕いだ。


つづく

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