蒼い〇〇

門前払 勝無

第1話

「蒼い〇〇」


 アイスピックじゃ人は死なねぇよー。


 理由なんて無かった。

 必死に貯めた金で買ったSRでクソみたいな奴を轢いてアイスピックを背中に突き刺した。

 誰々が何処其処の奴にボコられたとかどうでも良かった。

 生温い空気をなぞるように走りバックファイアの炎を確かめながら生きている実感を感じて居たかった。


 起床して本読んで鉄格子の向こうの空を眺めていた。


 落合のボロアパートから高田馬場のラーメン屋にチャリンコで通う。母親の弟のラーメン屋で働かせてもらっているがラーメン屋になる気は無い。

 毎日11時くらいになると俺と同じ歳位のチンピラが二人で飯を食いに来て12時位になると其奴らの親分みたいなのが金を払いにくる。


「親父さんいつも遅くに悪いなぁ!兄さんもガラが悪い奴に飯作ってくれてありがとな」

親分みたいなのはいつも叔父さんと俺にそう言って一万円を置いていくー。


 あの日はやたらと強い雨が降っていた。

 何時ものようにチンピラが飯を食って親分みたいなのが金を払っていった。叔父さんは俺に早めに帰っていいぞと言って俺は雨の中ビニール傘をさして帰路を歩いた。

 路地裏のコインパーキングに差し掛かるとあのヤクザ者が居た。若い奴が精算機に居てもう一人は親分に傘をさしていた。少し離れた所にある自動販売機から傘をささずに近付く人影を見つけたが三人のヤクザ者は気付いていない。俺は何故かビニール傘をたたんで三人に近づく奴の背後を取ったが遅かった。


 数発の銃声はこの強い雨に掻き消された。


 弾は傘をさしていた若い奴に当たりその場に倒れた。親分は若い奴を盾にして藻掻いていた。精算機の奴はびびって何も出来ないで居た。ヒットマンは藻掻く親分の頭に狙いを付けようとしていた。


 俺はビニール傘を両手で握りヒットマンの背後に体当たりするように突き刺した。狙い通りに腰の柔らかい所に刺さった。ヒットマンは転倒して俺もその上に転倒した。コルトっぽいオートマチックハンドガンが親分の方へ転がった。俺はヒットマンに馬乗りになって髪の毛を掴んで地面に頭を叩きつけた。


「どけ」


 俺が顔を上げると親分がヒットマンの頭に1911を押し当てて引き金を引いた。


 親分は俺を立たせて帰るように言った。

 俺は走ってその場から去った。


 数日後に親分は上機嫌で夕方にやって来た。

「親父さん!ちと兄さんを借りるぞ」

「え?あ、はい」

「兄さん!外の車に乗りな」

俺は白衣を脱いで叔父さんに頭を下げて店の目の前に停めてある白いベンツに乗った。


隣に親分が乗ってきた。

「おう!兄さん!こないだはありがとな!命の恩人だ」

「いえ…」

「お礼がしたいから何でも言ってくれ!」

「いや、そんな要らないっすよ」

「俺の気が済まねぇよ!なんか欲しい物でも良いよ!お礼をさしてくれよ!兄さんが居なかったら俺は死んでたんだからよ」

「欲しい物…」

「おう!あの雨でいつも着てる革ジャンダメになったんじゃないのか?新しいの買ってやるよ」

「え?いいんすか?」

「おう!じゃ新しい革ジャン買ってやる!」

親分はニコニコしながら原宿に車を向かわせた。

 運転手は見たこと無い人であった。撃たれた若い奴は死んだのかと思った。精算機に居たやつはどうなったのだろうか…。


 親分が連れてきてくれたのは原宿にある昔から憧れていた革ジャンの店であった。

「ここの革ジャン高いっすよ」

「お!知ってるのか?」

「はい」

「俺も昔から革ジャン好きでなぁ兄さんが着てるの見てロックかバイクが好きなのかと思ってたんだよ」

「そうだったんですか」

「ここのは一生物だからな!好きなの選べよ!遠慮したらダメだぞ!」

親分と店に入った。


 俺は先の事なんて何も考えて無くてただ捕まる前からここの革ジャンは欲しかった。ラーメン屋で金を貯めてここの革ジャンを買おうとしていた。その革ジャンを着て鏡の前に立っている。

 夢が叶ってしまった。


つづく

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