第7章 運命を切り拓く剣 ②
翌日――昼前に霊峰の麓に着いた二人は、そのままルチア聖殿への参道となっている山道を進んだ。
――襲い来る魔物たちを撃退しながら。
「はあっ!」
ジェイクの連続斬り! 迫る二匹の魔物――左のオークを袈裟斬りに、返す刃で右の
――魔物たちを倒した!
「ジェイク、上!」
シャルロットの声にジェイクは顔を上げる。上空に
「ロッテ、頼めるか――」
「任せて――サンダーバースト!」
シャルロットの中魔法! シャルロットが放った雷が空を裂き、
「うおおおおっ!」
ジェイクはそれを見届けなかった。たとえハーハペス級の
「グオオオオッ!」
振り下ろされるハイオークの石斧を紙一重で躱し、振りかぶっていた剣を叩きつけるように斬りつける。
ジェイクの突進斬り! ハイオークは断末魔を上げる間もなく絶命した!
――……そして、ハイオークの死体の上に何かが降ってきた。黒焦げになった
魔物の群れを倒した!
「ふいー、一段落かな?」
一撃で
「そうみたいだな」
ジェイクは剣を振り、刃についた血脂を振り払って鞘に収める。
「おおー、なんか達人っぽい! かっこつけてる?」
「……あ? そんなんじゃねえよ。血や脂で汚したままだと剣が痛むんだよ」
からかう調子のシャルロットにジェイクがそう返す。
「そういや前から剣を使った後はそれやってたかも」
「だろ?」
「――……それにしても強くなったよね、ジェイク」
「ありがたいことにな」
シャルロットの言葉に頷くジェイク。シスターフットでアネット家に伝わる勇者の剣――その記憶を体感したことで剣の才能を開花させたジェイクの腕は目覚ましい成長を見せていた。今では複数の敵を相手にしても存分に戦えるし、ハイオークほどの強敵を相手にしても先の通りだ。
「……今のジェイクなら勝てるかな」
もういくばくもない――進む道のさきにあるルチア聖殿を見上げてシャルロットが呟く。
「どうかな。でもなんとかしないとな」
ジェイクもシャルロットに倣ってルチア聖殿を見上げる。以前は静謐でアストラの聖地だったルチア聖殿――しかし今は瘴気が立ちこめ、異様な空気が漂っている。
「……行くか」
「うん」
お互いにうなずき合って、二人は足を踏み出した。
◇ ◇ ◇
門番の役目でも仰せつかっていたのか、聖堂の入り口前に見張りと思しき魔物が二匹立っていた。ハイオークだ――他の個体より強力なのか、門番だからこそか――粗末な鎧を身につけていることが多いハイオークだが、見栄えがする鎧を身につけ手には石斧ではなくポールアクスを持っている。
とは言え、ハイオークはハイオークだ。ジェイクは木陰に隠れたまま矢をつがえると、弦を引いて狙いをつける。そして――
――ジェイクの狙い撃ち! 会心の一撃! 矢はハイオークの眼窩を貫いた!
「!!」
もう一匹のハイオークは頭部を射貫かれ倒れた仲間に驚いて身構えるが、既にジェイクは取り矢にしていた二の矢をつがえ、狙っている。
――ジェイクの連射! 会心の一撃! 二射目も狙いを違えず二匹目のハイオークの頭を捉える!
「やった!」
「しっ! 静かにしてろ――」
歓声を上げるシャルロットを窘め、様子を見る――見張りが倒れても、新たな魔物の気配は現れない。
聖殿の門番を倒した!
「……他の魔物はいないみたいだな」
「怒られ損……」
「お前が迂闊だから悪い」
二人は木陰から参道に戻り、ハイオークの死体の近く――つまり聖殿の入り口に歩み寄る。
「ルチア聖殿……」
遙か昔――いにしえの勇者ジェイク・アストラが晩年に人類の守護精霊とでもいうべき精霊ルチアを祀るために霊峰に築いた神殿。建造から数百年経っているはずだが、しかしルチア聖殿は朽ちることなく今なおここに在る。
しかし、今は魔将軍の一人、魔人ゲイルに占領されている。シャルロットはそのルチア聖殿を前に感嘆、怖れ――なんとも言えない呟きを発する。
「この魔物の瘴気がなければ神聖で厳かなんだろうな」
「うん……昔来たことがあるけど、こんな不気味な雰囲気じゃなかった」
「……魔王が復活する前か」
「当たり前でしょ――魔王軍に占拠されてから人間が訪れたのは初めてじゃない?」
「いや――」
シャルロットの言葉にジェイクは首を横にする。
「父さんが――父さんたちが来たはずだ」
「そっか、討伐隊……」
「ああ」
ジェイクは頷き、決戦を前に握る拳に力が入る。その拳にシャルロットがそっと手を添えた。
「――……ジェイクにとってはおじさまの仇でもあるけど、でも差し違えても仇をとるなんて考えちゃだめだよ。そんなのおじさまは絶対喜ばないし、おばさまも悲しむんだから」
「ああ……そうだな」
「だからさ、魔将軍があんまり強かったらゴメンナサイして逃げちゃおう。それで二人で強くなってまたやり返しに来たらいい。生きてればやり直せるよ――だから命を大事に。いい?」
「お母さんか」
「お姉ちゃんだよ」
「妹のくせに」
「や、私の方がお姉さんだからね?」
げんなりと否定するシャルロットにジェイクが静かに言う。
「ロッテ」
「ん?」
「お前が一緒じゃなきゃここまで来ることはできなかったかも知れない。一緒に来てくれてありがとうな」
ジェイクの言葉に、シャルロットは目を丸くして――そして頬を赤らめたかと思うと直ぐさま目を吊り上げた!
「表情筋が忙しそうだな。大丈夫か?」
「は!? や、そうじゃなくて――何言ってるの! そんな今生の別れみたいなこと――」
「違うよ。そんなつもりじゃない――感謝してるし頼りにしてるってことを言いたかったんだ」
「ジェイク……」
ジェイクの言葉にシャルロットは感激している!
「魔将軍を倒して、無事に王都へ帰ろう」
「――うん! 私たちならできるよ!」
シャルロットは頷いた――二人の士気は十分だ!
「心の準備はいいか」
「いつでも。ジェイクは?」
「行ける。行こう」
二人は互いの覚悟を確認し合い――そしてジェイクは聖堂の扉に手をかけた。
聖堂の中に繋がる重厚な扉が開かれる。石造りの大きな扉が重い音を立て、中から強烈な瘴気が漏れ出てきた。質量があるのかと錯覚するほど濃い瘴気に気圧されないよう一歩踏み出すジェイク――視界に映るのは、魔物の気配のせいでまるで魔王の居城のように見える礼拝堂。
そして――
「ようこそ、勇者」
礼拝堂の奥で玉座のような絢爛な椅子に腰掛ける人型の魔物。
――魔将軍、魔人ゲイルが現れた!
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