第6章 剣の記憶 ②
「くそっ!」
次から次へと現れるゴブリンたちに辟易しつつ、ジェイクは手にした剣を懸命に振る。
翌日、シスターフットの街壁をすぐそこに魔物の群れに襲われたまではまだよかった。しかしそこで交戦したオークの一匹がシスターフットに逃げ込み――そして現れたのはオークの群れと、オークキングだった。
昨日のハイオークに比べればオークは容易い相手だ。しかし数が多い上、その統率者足るオークキングの存在がジェイクを窮地に追い込んでいた。数が多く、必殺の弓も使えない戦況でジェイクは背後にシャルロットを隠し、防戦を強いられている。
「こんなところでやられてたまるかよ――」
目の前のオークを蹴飛ばし、力任せに振るった剣で胴を薙ぐ。精細を欠く剣筋ではあるが、ジェイクの膂力がそれを必殺の威力に変える。
目の前の数匹を蹴散らし、背後のシャルロットに声をかける。
「いけるか、ロッテ――」
「任せて!」
「キツイのを頼む!」
相棒の返事にジェイクは道を空けるように身を躱す。シャルロットの目の前にオークたちの――そして最奥のオークキングの巨体が見えた。
杖を振り上げ、叫ぶ。
「サンダーバースト!」
シャルロットの中魔法! 蒼く燃える稲妻がオークキングに向かって迸る! その余波でまとめてオークたちを焼きながら伸びた雷はオークキングを捉え、高熱を浴びせた!
「グギャァアアアッ!」
オークたちを倒した! オークキングに痛烈な一撃!
その間もジェイクはそれをただ眺めていたわけじゃない。魔法の範囲外にいるオークに剣をを叩きつけ、数を減らす。
「――駄目! ジェイク、手応えはあるけど倒しきれない!」
「俺の背後にまわれ! お前は狙わせない――また合図したら頼む!」
「わかった! けど――」
指示通り、少し距離を置いてジェイクの背後に回り込むシャルロット。もし回り込まれたら、と彼女が尋ねようとした途端、オークの一匹がジェイクを迂回してシャルロットに向かおうとする。
しかし、ジェイクはそれを許さない! 目の前のオークの攻撃を一旦無視――棍棒の一撃をその身に受けながら、シャルロットを狙おうとしたオークの頭に剣を振り下ろす!
――オークを倒した!
「お前はやらせない! 魔法の準備をしてろ!」
「うん――!」
ジェイクの献身に応えようと、シャルロットは力を溜める。
「グォオオオオオッ!」
魔法攻撃に耐え切ったオークキングが、目に怒りの炎を灯して進撃を開始する。
見上げるほどの巨体――だが、シャルロットの次弾まで彼女を守ればこっちの勝ちだ。
数が多く、オークの攻撃全てを捌ききれない。投石、防ぎきれない殴打――それらの痛みに耐えながらジェイクはまた一匹、オークの首を刎ねる。
「来いよ! 俺がお前らの敵――勇者だ!」
オークたち――そしてオークキングに向かってジェイクは叫んだ。
◇ ◇ ◇
オークキングの攻撃を《
それを何度も繰り返し、必中のタイミングを図ってシャルロットの中魔法をオークキングに命中させる。
それを、三度――最後の一発でオークキングの巨体が倒れ、物言わぬ骸になったことを見届けたジェイクは半ば力尽きたようにその場にへたり込んだ。
「――ジェイク! 大丈夫?」
自分を庇って何度も魔物の攻撃をその身に受けたジェイクが心配だったシャルロットは、駆け寄ると同時に懐から魔法の小瓶を取り出す。エルフの傷薬だ。だが――
「……防衛隊に分けてもらった物資に普通の傷薬もあったろ。そっちでいい。それはいざって時にとっておこうぜ」
当のジェイクがそれを使おうとするシャルロットを押し止める。しかし、とても普通の傷薬で間に合うような状態に見えない――ジェイクはそれほど疲弊しているように思えた。
「でも――」
「いいから」
ジェイクがそう言うと、シャルロットは口をへの字にして、それでも普通の傷薬――その小瓶の口を開け、中身をジェイクの体に振りかける。
――ジェイクの体力が少しだけ回復した!
「サンキュ。ロッテ、怪我はないか?」
「う、うん……ジェイクが庇ってくれたから」
「そうか――」
言ってジェイクは力を振り絞って立ち上がる。それだけで息が上がるジェイクを見てられず、シャルロットは休もうと提案するが、
「……シスターフットを見て回って、安全そうな所で休もう。ロッテも屋根があるところで寝たいだろ?」
「そうだけど――でもジェイク、本調子じゃないでしょ?」
「平気だ。それにそんなこと言ってる場合じゃないだろ」
そう言ってジェイクは歩き出す。しかし足元が定まらない! ふらついたジェイクをシャルロットが慌てて支える!
「ちょっと、全然平気じゃないじゃない!」
「立ちくらみだ」
そう言うジェイク――だが膝が笑っている!
「膝めっちゃガクガクしてるじゃん! 生まれたての子鹿みたいだよ!」
「そんな美味しそうな獲物みたいであってたまるか」
「言い方! 可愛いとかあるでしょ!」
「今そこら辺に子鹿がいたら獲って食うぞ、俺は。ロッテは食べないのか?」
「それは食べるよ! ……ってそうじゃなくて! 何を焦ってるの? ここまで来て焦ることないじゃん」
シャルロットの言葉にジェイクがはっとする。
「……焦ってるように見えるか?」
「見えるよ……何か気になることがあるなら話してよ。私聞くよ?」
「……………………」
シャルロットの言葉にジェイクは逡巡し、そして彼女に促される形でその場に座り込んだ。
「……日が暮れる前にはある程度シスターフットを見て回りたい。だからゆっくりはできないけど、少しだけ休もう」
「――うん!」
ジェイクの隣に膝を座り込み、シャルロットが尋ねる。
「で、何が気になってるの? お姉ちゃんに話して?」
「……や、今言おうとしてたけど急に話す気なくなったわ」
「なんで!?」
「そんな上から言われたら当然だろ」
「本気で心配してるのに!」
「あとお前の姉アピールが面倒くさいから調子づかせたくない」
「酷い!」
「冗談だ」
涙目のシャルロットに、ジェイクはぽつぽつと語り始めた。
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