第4章 囚われの娘 ⑥
「なんでよ!!」
「どうしたロッテ。そんな大声だして」
「あの子の時は断ったじゃん! なんでイールギットさんはオッケーなの?」
「あのガキか? 言ったろ、初対面の印象が最悪だ。連れてくわけないだろ」
「じゃあイールギットさんは印象いいわけ?」
「そりゃあ、なあ?」
「顔! 顔なんだ! イールギットさんが美人だから!」
「……なくはない」
――ジェイクは正直者だ!
「~~つ! ほら、私たち魔物と戦う旅をしてるわけじゃん! 素人を連れてっても危ないっていうか!」
「や、回復魔法を使えるって言ってたろ? 完全に素人ってわけじゃ――俺もお前も回復魔法は使えないし」
「っていうか、理由! どうしてイールギットさんが旅に着いて来たいのか聞こう? それから考えたらいいじゃん!」
「なんでそんな必死なんだよ……わかったから好きにしろよ」
あまりの剣幕にジェイクが折れると、シャルロットはイールギットに向き合って尋ねた。
「――あのね? イールギットさんが嫌とかじゃないんですよ? でも、一応勇者の生まれ変わりと勇者の直系の子孫のパーティっていうか、どうして私たちに着いてきたいのか知りたいかな、なんて」
ジェイクの前で理由が嫉妬からくるものとは言いづらいシャルロットは、そんな風に誤魔化――せてはいないが取り繕うとしながら尋ねる。
そんな彼女の心境を知ってか知らずか、イールギットはぽつりぽつりと語った。
「……先も申し上げた通り、私は――その、自分で言うのはおこがましいですが、男性に好かれすぎてしまうのです。断っても断っても求婚されてしまって、最近ではもう家から出るのも困るほどで……このままあの村で暮らすのは難しいと思うのです」
「あの剣幕じゃね……」
「……俺も一度そのくらいモテてみたいもんだけど」
「――ジェイクは黙ってて!」
「あっはい」
シャルロットの恫喝! ジェイクは頷くことしかできない!
「そんな風に思っていたところ、村を襲った魔物たちに攫われてしまって――正直に申し上げますと、魔物に囚われたのは怖ろしかったのですが、こうして縛られている分には……男性から解放されて気が楽だと思う部分もありました。そしてそんな私を救ってくださったのが、私に惑わされない勇者様なのです」
「……認めるのは癪だが、美人は
言い方は酷い。酷いが――美しいと言われていることに変わりない。シャルロットの心境は複雑だ!
「きっと勇者様についていくことこそが、私が救われる道なのではないかと思うのです。父も、村の男たちも、私が勇者様に着いて行くというのなら村を出ることを止めることはしないでしょう。ですから勇者様、王女様、是非私を」
「……つまりイールギットさん。あなたは必要以上に男性に求められることがない平穏な生活がしたいと。それでジェイクと一緒ならそれが叶うんじゃないかと。そういうことですか?」
「はい――勿論勇者様と王女様にご迷惑をおかけしません。ですから何卒」
王女として、そして同じ女性として懇願する彼女についてこられるのは嫌だとは言えないシャルロット! しかしシャルロットはイールギットの言い分に勝機を見いだしていた!
「私たちの魔将軍討伐の旅じゃなくても、それが叶う道があるなら? 魔物と戦う危険がなくて、村を離れることができるとしたら? イールギットさんはどうする?」
「そんなことが――? 勇者様と王女様にご迷惑をおかけせずにそれが叶うなら、是非」
――勝った! シャルロットは胸中で喝采した!
「え? 回復魔法は……?」
「そんなに回復魔法が欲しいならいずれ私が覚えてあげるからジェイクは黙ってて!」
未練の声を上げるジェイクを一喝し、シャルロットは王女の――そして勝利の微笑みをイールギットに向ける。
「お母様――アストラ王国王妃の寝殿勤めなら男子禁制よ。住み込みだから普段の生活で男の人に会うことはないわ。回復魔法が使えるなら兵士の回復に駆り出されることがあるかもしれないけど、その時は顔を隠せばいい。お母様付の女中は行儀見習いの娘もいるのだけれど、そういう娘が人前に出るときはそうしてるわ」
「なんと――でも王女様、私に王城で働くことなんて……」
「やる気があるのなら私が口を利いてあげる」
「ああ、王女様。このご恩は一生忘れません――」
◇ ◇ ◇
翌日、ジェイクとシャルロットは村を出て北へ進路をとっていた。
二人で、である。
イールギットの救出に成功した二人は、彼女の救助と魔物の討伐の報告の為村へ戻った。
そしてそんな三人を迎えた村長や村の若い男は、彼女を救ったジェイクとシャルロットに礼を伝えることも忘れイールギットの生還を喜んだ。
事情を知らなければイールギットが攫われたことに胸を痛め、その生還を心から喜ぶ村人たちの図式に見えただろう――しかし事情を知ってしまった以上、ジェイクとシャルロットにはその光景が底気味悪いもの見えた。
そしてその場でシャルロットの口添えの元、イールギットは村を出て王城で働くことになった旨を伝えた。シャルロットが一筆したためると、イールギットはそれを手に逃げるように王都へと向かい――
それとともに、とばっちりを受けないようジェイクとシャルロットも村を後にした。
――ともあれ、二人旅――シャルロットは上機嫌だ!
「♪」
「……楽しそうな」
「ソンナコトナイヨ?」
思わず出てしまう鼻歌を誤魔化し、話題を変えようとシャルロットは口を開く。
「それにしても凄かったねー……モテすぎても大変なんだね。生まれ故郷で生活できなくなるなんて」
「……お前も元は国一番の美女ってお触れだったろ? あれぐらいモテたことはないのか」
「元じゃないし! 私はほら、王女って立場があるから。しつこかったのはビリーくらいかな」
まあそうだよな……ジェイクはシャルロットの言葉に胸中でそう頷く。
どれだけ親しくとも――自分とシャルロットでは身分が違う。彼女は王女で、自分は農民だ。どんなに想ってもその出自から彼女と添い遂げる資格がない。
だから、彼女にいつか相応しい相手ができるまで――かつて彼女が望んだただのジェイクとシャルロットでいよう――そして、彼女がその相手に出会う日まで彼女を守ろう。ジェイクはそう決めていた。
「俺も一度でいいからあんなレベルでモテてみたい」
「まだ言ってる……私がいるじゃん。国一番の美少女がお姉ちゃんでなにが不満なわけ?」
「だからお前は
「また言った! 酷い!!」
「あとお前、国一番の美女だってそれイールギットさんの前で言えるか?」
「ぐっ……!」
ジェイクの会心の一撃! しかし、シャルロットはそれに耐えた!
「~~っ、ジェイクは私とイールギットさん、どっちが美人だと思うの?」
「え? 言っていいの?」
「!?」
「お前の顔なんてこの十年毎日のように見てるしなぁ」
「!!?」
「どんまい」
「どんまいじゃないよ! もう、ジェイクのバカ!」
曲がりなりにも魔王軍の尖兵隊を圧倒するほどの力をつけた二人だったが、その関係性は王都を旅立ってからあまり変わっていなかった。
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