第1章 覚醒~脱出 9 暴走 1

その日は朝から兵士達の動きが慌ただしくて、みんなも怯えて固まっていますし、ノルン先生も事情を聞きに行ったままです。


「準備を始めろ!」

兵士達によって広間に連れてこられた私達の前で指揮官が叫びます。

台座の下の空間にもその周囲にも、大量の機材が運び込まれています。

兵士達が私達を拘束し、みんなに注射がされていきます。

マリやネネちゃんが泣いて嫌がっていますが大人の兵士には逆らえません。

私にも何かの薬が注射されました。


「シェーンガルト少佐、馬鹿な真似は止めなさい。実験を終わりにする気かね?」


ノルン先生が抗議していますが、指揮官は意に介しません。

更に興奮した様に言い放ちます。


「噴進砲の開発で、浮島の神殿を破壊して中空の浮島の高度を下げられる様に成ったのだ。生け贄など幾らでも手に入れられる!」


何だって!

神殿の崩壊はこいつらがやったのか?


「し、神殿を破壊したのは・・」

「そうだ!新開発の噴進砲の前では一溜りも有るまい。我等が技術は世界一よ!いつまでも空の上に逃げられると思うなよ。ことごとく引きずり降ろしてやる!」


台座に引き摺られる途中で思わず声を上げれば、興奮した指揮官の怒鳴り声が叩きつけられました。


そうか、おまえ達が母様を・・・


台座の上で私は一人嗚咽を洩らし、心は結晶の中で怒りと憎しみを解き放っていました。

周りから襲い掛かる圧力は今までの倍以上ですが、私の憎しみはその圧力を跳ね退け、怒りは結晶全てに心を拡げて行きました。

みんなの心が私の激情に触れて縮こまるのを意識の片隅に捉えましたが構う余裕はありません。

気が付けば結晶と繋がっている酷く劣化した結晶モドキにまで心が届きました。

憎しみをぶつける様に結晶モドキにも心を拡げて行きます。

バラバラの配列を整えて取り込んで行く感じで心を拡げ続けると、今までの数倍の広さに私の激情もやや落ち着き、理性が効くように成ります。


結晶モドキ全体に心が拡がると判って来ましたが、あいつらは結晶モドキを塊で組み替えて飛行石の力を操作していて、飛行結晶に接続する事で同じ様に操作するつもりなんですね。

残念ですが、今は結晶モドキも私の支配下ですからね、思い通りにはさせませんよ。


怒りの矛先を見つけたくて、あいつらの様子を見たいと思い詰めると、霧が晴れるみたいにして周りの様子が心に浮かんできました。

制御出来ない事に慌てたのか、兵士達が台座に近づくのが見えました。


( 近づくな!!)


私の拒絶の意思と共に兵士達が吹き飛ばされるのが見えました。

更に台座やその周囲の兵士達も拒絶の意思で弾き飛ばします。


感情のままに行動していますが、この《力》は斥力でしょうかね?

重力即ち引力、なら反重力は斥力ですか。

周りの様子が目に映るのも、重力か反重力かのセンサーで周囲の変化を読み取って視覚で理解しているんだと思うけど、私の脳ってどうなっているのでしょうかね?


音は一切解らないけど、周囲の混乱は一目瞭然と言う奴ですね。

あの指揮官を吹き飛ばそうとして、ノルン先生も巻き込みそうになって慌てて自制したけど、堪えるのが大変。


集中すると斥力の方向を絞れるのが判りました。

台座の周りにある大量の機材に意識を合わせ、口をパクパクしながらこちらを指差す指揮官と周りに集まった兵士達に方向を合わせます。

広間の兵士達が、一斉にこちらに飛び出す瞬間に合わせて、今!


( ― ― !)


溢れる激情を思いっきり叩きつけた!











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暴走セラ。

斥力の《力》

セラのチート能力その1




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