第3話 荒地の魔王 前編
◆◆◆
――連邦標準暦221年12月24日
連邦標準時10時25分
テロ騒ぎから2日。その事後処理に追われてようやく一段落ついたその日、私は大尉に呼ばれていた。
呼ばれたのが小隊執務室でなかったら喜んだのに……
開閉パネルに触れてからカメラに向かって敬礼する。
「リーラパラスト少尉、お呼びにより出頭しました!」
数瞬の後、扉が開いたので入り口て「失礼します!」と敬礼してから入室する。
今日の執務室は人が少ない。というか、大尉しかいない。
第2分隊はまだ帰還していないし、技術大尉とその部下は、次の任務で試用予定の装備の調整の為、連日連邦最高等研究院へ出向いていて、同じ分隊のゲンティアーナ中尉と双子ちゃん達は既に一週間の休暇に入っている。
私はというと、大尉と共に
流石に首都星エールデから目と鼻の先の惑星で敵の特務部隊に入り込まれたとなれば、軍の面子も潰れるし一般の連邦市民の不安を煽ってしまう為、報道機関には反政府組織のテロという事にしている。
それにしても、敵は虎の子だろう特務部隊まで送り込んで市街地でテロとか、何が目的だったのだろう?
「『推測だが、陽動だろうな。基地か研究院に諜報員を潜り込ませる為の。街にも紛れ込んでいるだろう』ですか。なるほど。司令に報告はされたんですか?」
16ある特務小隊の内、第9から第12の司令官、ウェリアーナ・グローサーティヒ少佐。
恐らく30歳前後の、私と同じ銀色の髪を
でも、印象とは裏腹に話してみると気さくな人で、配下の小隊の隊員達からは「ウェル姉さん」と呼ばれて親しまれている。
が、このウェル姉さん、侮ってはいけない。
ウェル姉さんの司令はとにかくどぎつい。
「普通死ぬよね、それ!?」と言いたくなるような司令をポンポン寄越してくる。
特に私達第11にはキツいのが回されているような気がする……
まぁ、それは大尉がいるからというのもあるかもしれないけど……
どんなどぎつい司令も、大尉なら人的損失なしで切り抜けられると思ってるからだろうし。
そんな司令に報告済みなら、私達のやれる事はないだろう。ないと思いたい。ないといいなぁ……
ともかく、面倒事も昨日で終わり、今日は個人的に呼び出されていた。何でも頼みたい事があるとか。
「それで、頼みたい事とは何でしょう? え? 『これをこの場所のこの人物に届けて欲しい。外出許可証も一緒に入れてある』ですか?」
大尉から手提げの付いた紙袋と住所と名前の書かれた覚書を渡された。
「この住所は家族向けの集合住宅のある辺りですね。渡す相手はユメ・プフラモーント? って! 女性じゃないですか!? 大尉の浮気者~!! え? 『違う。お前も知ってる相手だ』? 確かに聞き覚えがあるような……?」
つい最近聞いた覚えがある名前だ。どこだったかな……?
「『こらこら。忘れるのが早すぎるだろう』って? ああ! 思い出しました! テロの時にカフェーにいた子だ! 負傷した女性を庇っていた女の子! そういえば、
大尉がちょいちょいっと手招きして
大尉が端末を持ち上げて催促するので私も端末を取り出す。
ピッという電子音と共に私の端末に
「『個人的な用事を頼むのだから、お駄賃くらい渡さないとな』って、えぇ!? 50000
ああー! 大尉優しいー!
大尉はいつも私達を気遣ってくれる。
任務から帰還してみんなが揃うと、大抵は「何か旨いものでも食べてくるといい」といって副長とかにその資金を渡してくれたりする。
これも、いつものそれだとは思うけど、幸い、ここには私と大尉しかいない。私の行動を咎める者はいない。
それにこれは大尉からの個人的依頼。軍務じゃない。
滅多にないチャンス! これはもう、行動するしかない!
「た、大尉! あの! 私、大尉の事を……」
私は続きを言おうとした。でもそこで大尉に手を翳して制されてしまった。
「『済まないが、今は君の気持ちを受け取る事は出来ない』ですか……」
フラれた……
胸の奥から何かが込み上げてくる。
言わなければよかった……
勝手に期待したのは私だ。大尉にだって選ぶ権利はある。
気持ちがぐちゃぐちゃになって泣き出しそうになった。
でも、頭の片隅、ほんの僅かに冷静だった部分が、ある事に気付いた。
大尉は「
つまり、「今はそういう事をしていられない事情があるから、私の気持ちを受け取れない」という事!
そういえば、私がこの隊に来た時に副長が言っていたっけ……
「男女が別々の隊に配属される連邦軍において、大尉と私達が一緒の隊にいる意味を考えてから行動に移しなさいね」と。
軍の上層部は大尉の事情を知っているからこそ、女性の隊の隊長になる事を大尉に許可した。大尉が手を出さないと分かっているから。
そこまで思い至り、ぐちゃぐちゃだった心は急速に落ち着いていった。
今は受け入れてもらえなくても、受け入れてもらえるその日まで、私が大尉を慕い続けるのは私の自由。
なら、私の言う事はひとつ。
「大尉。私は私の気持ちを受け取ってもらえない事情が解消されるその日まで、お慕い申し上げております」
私の言葉に、困ったような笑みを浮かべる大尉。
「『この隊に来た者は、誰も彼も同じ事言うのな……』ですか」
そうかもしれない。副長なんていつもキリッとしているけど、真っ先に告白してそうな気がする。
そうだ。せっかくだから聞いておこう。
「もしよろしければ、大尉の"事情"というものをお聞かせ頂けると私も安心して任務に励めるのですが?」
私の言葉に、大尉はほんの少し目を見開いた。
おおー!? これは貴重な表情!!
この隊に来て一年、大尉の驚いたところなんて見たことなかった。これだけでも勇気を出して告白した甲斐はあったかも。
そして大尉の顔に嬉しそうでもあり楽しそうでもある笑みが浮かぶ。
「『そこまで突っ込んで聞いてきたのは君が初めてだ。本当に面白いな、君は』ですか! お褒め頂き光栄です!」
思わず敬礼を返した私を見て笑う大尉。
やっぱり大尉の笑顔サイコーーッ!(サイコーーッ! サイコーーッ!)
「えっ? 『それを届けて戻ってきたら、俺の部屋で食事でもしながら話そうか』? えっ? ええっ!? 大尉の部屋にお呼ばれ!? 大尉と2人っきりで食事!? きゃっはーーーっ!! あ……」
大尉がクックックと笑っている。大尉の笑顔本日2回目、頂きましたーー!
「『それじゃ、頼んだ。俺は購買で材料を買って準備しておく』って、ざ、材料? ま、まさか大尉自ら料理されるのですか!? 大尉の手作り料理……私、もう死んでもいい…… 『こらこら。料理程度で死んでくれるな。気を付けて行ってきてくれ』ですか。分かりました! 超特急で気を付けて行ってまいります!」
私は紙袋を掴むとモーレツな勢いで執務室を後にした。
背中に掛かる「フリじゃないぞー! 本当に気を付けて行ってこいー!」という大尉の声を置き去りにして。
◇◇◇
――連邦標準暦221年12月24日
連邦標準時10時45分
わたし、ユメ。
セルタシュタット宇宙港でのテロ事件の後、病院に検査入院させられて昨日退院。
幸い、縫う必要もない程度の切り傷だけで済んだ。
どちらかというと、知らせを受けて駆けつけてきたお姉ちゃんの抱き締め攻撃の方が危なかったかもしれない。お姉ちゃん、胸大きいんだから窒息するって~!
お
むしろ、運がよかったのかもしれない。
だって、魔王さんに出会えたから。
病院のベットで
どうやら反政府組織のテロだったらしい。
全部で16体のMRが暴れて、それを魔王さんが1人で全部やっつけたとあった。
魔王さんすごい! 報道にも、「
続けてわたしは魔王さんについて調べてみた。
なんかいろいろ書かれている。
曰く、1人で何百人もの敵を倒した連邦の英雄。
曰く、投降してきた敵兵士を虐殺し、部下にも殺させた、文字通りの魔王。
でもわたしは知っている。
あの人の手が温かい事を。
あの人が優しく抱きしめてくれた事を。
そしてその翌日、わたしは連邦軍セルタシュタット基地の門前に来ていた。
「だぁ~かぁ~らぁ~! 魔王さんに取り次いでくぅ~だぁ~さぁ~い~!」
「ダメだって。君は一般人だから基地に入れられない。あの方は規則によって基地から出られない。会いようがないんだから、取り次いでも意味がないだろう?」
「わたし調べてきました! 兵隊さんが家族と会う為の部屋があるんですよね!?」
「でも君はあの方の家族じゃないだろう? 軍の規則で家族以外はダメなんだ。諦めてくれ」
むぅ! 石頭の兵隊さんね! ちょっと会うくらいいいでしょ!
ヒユーーン……
なにか基地から出ていこうとする車が来たけど、わたしには関係ない。
「いいじゃないですかー! わたし、タウ・シータスからわざわざ来たんです! 一目でいいから会いたいんですぅーー!!」
「だから、規則でダメなんだって。遠くから来てもらって悪いが諦めてくれ」
その車に背中を向けてわたしが更に言いつのろうとした時、わたしの背中に声が掛かった。
「貴女、ユメ・プフラモーントさん?」
◆◆◆
――連邦標準暦221年12月24日
連邦標準時10時46分
執務室から超速で自室に戻り、肩掛け鞄をひっ掴んで小隊の格納庫へと向かい、小隊共用の電気自動車の使用前点検をする。
これは補給大隊にいた頃からの癖というか、学校で教わった事を馬鹿真面目にやり続けているだけだけど。
実際、補給任務に赴いている時にたまに車両の故障とかもあったから、自分が困らないように、今でもそうしている。
車輪よーし! 前照灯よーし! 方向指示器よーし!
乗り込んで座席の位置を調整し、
起動釦を押して、
ヒユーーン……
門の手前で止まり、守衛に外出許可証を確認してもらう。確認が済むと車止めが収納され門が開いた。
「いいじゃないですかー! わたし、タウ・シータスからわざわざ来たんです! 一目でいいから会いたいんですぅーー!!」
「だから、規則でダメなんだって。遠くから来てもらって悪いが諦めてくれ」
私が車を出そうとした時、守衛と言い争う女の子の声が聞こえてきた。その声に聞き覚えのあるような気がする。
あ! この声! テロの時の女の子!
私は門を出て路側帯に車を停めると、彼女の背後から声を掛けた。
「貴女、ユメ・プフラモーントさん?」
◇◇◇
わたしは名前を呼ばれて思わず振り向いた。
そこにいたのは、銀色の短髪がきれいな女性。
その顔に見覚えはない。
「え~と、どなたですか?」
「私はシア・リーラパラスト。階級は少尉よ。あなたに分かるように言うと、魔王の部下ね」
「魔王さんの!?」
身分証を見せながら、その女の人、シア・リーラパラストさんはそう言った。確かに身分証にもその名前が書いてある。
「あなたの言う『魔王さん』からのお願いで、これをあなたに渡しに行くところだったのよ」
シアさんは携えていた手提げ付き紙袋をわたしに手渡した。わたしが受け取ってシアさんの顔を見ると頷いてくれたから中身を確認する。
紙袋の中には透明な袋に入った
透明な袋を手にとって確かめる。色や柄、刺繍は確かにわたしのタッシェントゥーフだ。
「あの、ありがとうございます」
「任務完了~! それじゃ、私はこれで!
なにかものすごく浮かれた感じで車の方に戻っていくシアさん。
それより、あの人が魔王さんの部下ならお願い聞いてくれるかも?
わたしは大急ぎでその人の車に駆け寄った。
「あ、あの! 魔王さんに会わせて下さい!」
「わぁ!? ビックリした……ちょっと! 車運転しようとしてる時に危ないでしょ!」
「あ、すいません……でも、あの!」
「取り敢えず乗って。こんな往来で魔王魔王って連呼されるのも困るし」
「わ、分かりました。失礼します」
わたしはシアさんの運転する車に乗り込んだ。
わたしが
「あ、あの!」
「守衛に言われたんでしょ? 規則だから出来ないって。でも、あなたの気持ちも分かるわ。だから大尉に聞いてあげる。大尉がダメだと言ったらダメだからね?」
やった! 魔王さんの部下だけあって話の分かる人みたいだ。
「ありがとうございます! えと、魔王さんって、タイイさんっていうお名前なんですか?」
わたしの問いに「ぷっ!」と吹き出すシアさん。あー? 馬鹿にしたなぁー?
「大尉は名前じゃなくて階級ね。大尉の名前も容姿も口調も、何もかも軍事機密で勝手には喋られないの。喋ると営倉、牢屋に入れられちゃうし。そもそも貴女達を助ける為に
「そう、なんですか……」
シアさんの言う事が本当なら、わたしが会う事は難しいし、無理に会おうとすれば魔王さんに迷惑が掛かるかもしれない……
でも、わたしは魔王さんに会わなければならない。どうしてかは分からないけど、そう思う。
シアさんの運転する車は、幹線道路沿いの洋菓子店の駐車場へと滑り込んだ。ここで買い物だろうか?
「ここのショコラーデトルテが絶品なの! 中でちょっとお茶してかない? 大尉にも買っていってあげたいし。もちろん、貴女にもご馳走してあげるわ。と、その前に……」
シアさんがPMTを操作し始めた。魔王さんに連絡してくれているのだろうか?
程なくしてPMTに着信があり、シアさんが応答する。
「シアです。……はい、分かりました。ユメさん、大尉が貴女に代わってって」
「魔王さんが!?」
シアさんのPMTを受け取って耳に当てがう。き、緊張するぅ……
「あ、あの、わたし、ユメです!」
『ユメ・プフラモーント。率直に聞く。何故俺に会いたい? 俺を知る事に因って、君自身が危険に晒されるかもしれないぞ?』
あの時は機械を通されいたからかよく分からなかった声。
PMTから聞こえてきた声は明らかに若い。もしかすると、わたしとそんなに違わない歳かも?
うぅん、そんな筈ない。
魔王さんの事が報道され出したのは数年前から。わたしと同じくらいなら、魔王さんは初等学院くらいの歳でたくさんの戦果をあげた事になる。
そして魔王さんの率直な言葉。わたしは言葉に窮する。
どう言えば分かってもらえる?
どう返せば会える?
「……何故かはわたしにも分かりません。でも、あなたに会わなければならない。わたしの心がそう言ってます。だから……」
結局、思った通りに伝えた。こういう場合、素直になった方が結果としていい方向に転がる事が多いと、大して長くない今まで人生で学んだ。
『俺と会ってしまった事で人生や運命が変わってしまうかもしれない。それでもか?』
あなたに会う事がそこまでの事を引き起こすというの? 魔王さん……
うぅん。本当はわたしも分かってる。
このまま諦めて帰れば、お義兄ちゃんやお姉ちゃん、両親、友だちと変わらず過ごしていけるだろう。
でも、魔王さんに会えば、それとは違う未来へと向かっていく……そう確信めいた何かがある。
「……それでもわたしはあなたに会いたいと思います」
『……そうか。君が基地に入られるよう手配しよう。少尉に代わって欲しい』
◆◆◆
『……そうか。君が基地に入られるよう手配しよう。少尉に代わって欲しい』
ヘッドセットを着けているから今までの会話は聞こえていたしそのまま話せるけど、一応PMTをユメさんから返してもらってから大尉に話し掛ける。
「大尉、本当によろしいのですか? え? 『これ以上基地の前で魔王魔王と連呼されても困るだろう?』ですか。それはそうなんですけどね……『少佐には俺から話して許可を出してもらっておく』と。分かりました。指示に従います。え? 『街に出たついでに甘い物を2、3個買っておいてくれ。少佐に渡す』ですか。ウェル姉さんも甘いもの大好きですもんね。了解です」
なら、精々美味しそうなものを見繕っていきますか。
「それじゃ、中に入りましょうか。大尉にお使いを頼まれたからいくつか買って帰るけど、どうせなら大尉と一緒にお茶、する?」
◇◇◇
「それじゃ、中に入りましょうか。大尉にお使いを頼まれたからいくつか買って帰るけど、どうせなら大尉と一緒にお茶、する?」
ええっ!? 魔王さんとお茶!?
すごく魅力的な提案だけど、食べた物の味が分からなくなりそう……
「えぇと、魔王さんの前だと緊張して食べられなくなりそうなので……」
「そう? そんなに恐い人じゃないけど……まぁ、いいわ。ここで食べていきましょうか。上司に許可を貰うのに多少時間が掛かると思うし」
「はい、ありがとうございます。でも、ほんとにご馳走してもらっていいんですか?」
「だいじょぶだいじょぶ♪ さっき大尉からお小遣いたくさん貰ったし♪ って、もしかして大尉、こうなる事が分かってて……?」
言葉の後半、シアさんの顔がふと真剣なものになる。何だろう?
「あの……?」
「あぁ、ごめんなさい。中にいきましょうか。あ、それと、人のいるところでは”魔王”の名前は出さないでね? 反政府の奴らに聞かれたら危ないの。あいつら、”魔王”を目の敵にしてるから」
そっか……今の政府にとっての「英雄」なんだから、反政府の人たちからしたら一番の邪魔者だもんね……
「分かりました、リーラパラストさん」
「シアでいいわ。私もユメさんって呼ばせてもらうから」
「分かりました、シアさん」
「それじゃ、お店に入りましょう。話はおやつ食べながらでも出来るしね」
「はい」
お店に入り、席に案内されて椅子に掛け、飲み物とお菓子をいくつか注文する。
「そういえば、シアさんって、わたしの事『ちゃん』付けで呼ばないんですね?」
胸はあっても童顔なので、たいてい「ちゃん」付けされる事の多いわたし。
「あら? 子供扱いされたかった?」
「逆です。子供扱いされなくて嬉しかったというか……」
「あれだけの勇気を見せられる人に子供扱いは失礼でしょ? それに私も、入隊したての頃は『ちゃん』付けされててイラっとしてたし」
同志発見! シアさん、女のわたしから見ても小柄だし、若く見られるんだろうなぁ……
でも、話してる感じは落ち着いた大人のもの。いくつなんだろう?
「貴女の考えてる事分かるわよぉ~? 見た目の割りに落ち着いてるとか思ってるんでしょ? 『あの人』の戦闘管制官なんてやってると、驚いたり慌てたりなんてしてられなくなるのよねぇ……」
そう言って遠い目をするシアさん。な、何があったんだろ……?
「お待たせ致しました」
ちょうど話が途切れたところで注文した飲み物とお菓子が届いた。
「待ってました~♪ さ、食べましょ、ユメさん」
「はい! いただきます! んぐんぐんぐ……あまおいひ~♪」
おいしいトルテを楽しむ。
ふと、"カフェーいるか"を思い出した。
マイスターさん、大丈夫だったのかな……?
「あの、シアさん、教えて欲しいんですけど……」
「体重と胸囲は内緒!!」
「誰もそんな事聞いてません!! テロ事件の時にわたしがいた、"カフェーいるか"という喫茶店のマイスターさんなんですけど、大丈夫だったかな? と思って……」
「調べてあげるわ」
シアさんがPMTをささっと操作する。さすがに指の動きが速い。
「そうね……あのカフェーにいた人達は全員無事よ。一番重傷だった、貴女が庇った女性も、あの人の応急処置のお蔭で軽傷に収まったし。お店も、ちゃんと損害補償金が出たようだから、修繕がおわったら営業出来ると思うわ」
「よかった……シアさん、あそこのトルテもここのに負けないくらいおいしかったですよ! 特に砂梨のが!」
「砂梨の季節ももう終わりだから、それは来年の楽しみにしておくわ」
「わたしも、お姉ちゃんに教えておきます」
「さ、これを食べたらあの人のところに行きましょうか」
「はい!!」
おいしいおやつを堪能してから店を出るわたしたち。
出る前にシアさんはお持ち帰りのお菓子を2箱購入していた。1つは魔王、大尉さんの分として、もう1つは隊の人たちの分かな?
「ユメさん、車に乗ったらグーテルをしっかり締めて。少し荒っぽい事になりそうだから」
「えっ? シアさん?」
今までとは違う硬い声でそう言ったシアさんは、後部座席の足元にあった箱に2箱のお菓子を仕舞うと、素早く運転席に座った。わたしも慌てて助手席に座って、言われた通りシッシャーハイトグーテルをしっかり締める。
「シアです。『野良犬にじゃれつかれそう』です」
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