君の名前を呼ぶ頃に

縦槍ゴメン/高橋悠一

第一話 君の名前を知らない頃





 退屈だ。





 時期は11月中旬。文化祭、体育祭も終わり、中間テストも終わった。期末テストが12月末にあるがそれまでは特に学校行事もなく、同じような毎日が繰り返される。


 僕は普段、特に学校で目立つことなく生活している。僕は友達が少ないどころが僕に友達はいない。授業が終われば自分の席で小説を読んでいるか、寝ていることが多い。いわゆる陰キャというやつだ。だから、学校には行きたいとは思っていない。ただ、勉強するためだけに行っている。


 だるいな。また同じような授業あるだけだし。けど、今日は小テストとかはないから、0限はゆっくり読書できるな。


 僕は今日の学校での過ごし方を考えながら、学校へ登校した。






 だが、僕が考えていた学校での過ごし方ができたのは今日が最後だった。






 キンコーンカーンコーン



 学校のチャイムが鳴ったタイミングで僕は教室の中に入った。教室の中には友達同士で喋っている者、椅子に座って寝ている者、日直当番のため黒板をきれいにしている者などすでにクラスのほとんどの人が登校してきていた。僕は誰とも挨拶することなく自分の席に座った。


 「じゃあ、今日も授業頑張っていきましょう。まだ、中間テストは終わったばっかりだけど気を抜かずしっかり先生の話を聞くこと」


 「はーい」


 「はい、これで朝のHRを終わります」


 「起立、気を付け、礼」


 「「ありがとうございました」」

 


 朝のHRが終わり日直の号令に合わせて挨拶をした。これから、1限の準備をして僕は昨日発売された新しい小説を自分の席で読み始めた。


 昨日の夜は、忙しくて読む暇がなかったんだよな。それにしても、このシリーズはめちゃくちゃ面白い。スライムに転生したのに最強ってのが今までの価値観と違っていいんだよな~


 「・・・・・」




 その後、授業もいつも通り行われ、僕も朝考えていた通りの生活を行った。


 「はい、じゃあこれで帰りのHRを終わろうと思います。さようなら」


 「「さようなら」」


 さて、僕も帰るか。


 帰りのHRも終わり、部活の準備をする者、帰るためにリュックを背負う者などがちらほら見られた。


 まだ、読み終えてないし早く家に帰って続き読も。


 僕は荷物を持ち教室を後にした。



 「・・・・・」




 僕は家に帰った後、自分の部屋に行き本の続きを読んだ。一回読み終えた後、ご飯を食べ風呂に入った。その後部屋に戻り展開が面白かったため、もう一周してしまった。もう一周した頃には夜も遅くなっていたので布団に入り眠った。



 日が出てすっかり朝になった。また、今日も昨日と変わらない日々がやってくる。僕はそう思いながら学校の準備をして家を出た。



 学校に着いてからも昨日と同じような感じで朝のHRは終わった。その後も昨日と同じように過ごした。



 昼休みになり僕は昼ご飯を食べに屋上に向かった。屋上といっても屋上は鍵が閉まっているため入ることはできない。だから僕は屋上の前の階段に座り、一人でご飯を食べている。ここならだれにも邪魔されずに静かにご飯を食べて本を読むことができる。



 僕はご飯を食べ終わり、昨日買った本と同じシリーズの何巻か前の本を持ってきていたので読み始めた。が、本を読む時間はそう長くはなかった。


 「あ、ここにいたんだ」


 「え、」


 僕は誰も来るはずのないところに人が来ただけでなく自分に対して喋りかけてきたことに驚いた。


 え、なんだろ。確かこの人は同じクラスの人だよな。えっと名前は...わからないや。けど、よく女子に囲まれているのは見たことがある。そんな人がどうしたんだ。え、ほんと何だろ。何か怖いんだけど。


 僕はなんだか関わりたくないと思い弁当と本を持ち、その場を去ろうとした。


 「し、失礼します」


 「え、あ、ちょっと」


 僕は逃げ去るように彼女の前を通った。


 「悪いスライムじゃないよ」


 「え?」


 彼女の思わぬ発言に僕は彼女の方を振り向いた。


 「えっと...ただ、待ってって言っても止まってくれなさそうだったし、言葉借りちゃったw君が読んでた小説ね、私も読んでるんだ。面白いよねそれ」


 僕は「待って」と言われただけでは無視して去っていったと思う。この人から思いもよらない発言が出たことに驚き止まってしまった。そして、僕は頭が追い付かなかった。この人は何を言っているんだ...


『悪いスライムじゃないよ』か。確かこれは小説で自分は悪い人じゃないよってことを言うために言った文だけど、どういうことだ。小説を読んでるってほんとに読んでるのか。僕のことをからかっているんじゃないのか。


「ぼ、僕の事からかってるんですか。陰キャだからって」


「別にそういうわけではないけどwただ同じクラスでずっとそのシリーズの小説読んでる人がいたから話してみようと思って」


 なんなんだ。からっかてるんじゃないのか。こんな子(見た目はとても可愛く陽キャの中心にいるような人物)がとてもラノベを読むとか想像できないんだけど。


 「まあ、座って話そうよ。昼休みはまだ長いんだし」


 僕は彼女からそう言われ、何も言わず彼女の前に座った。



 「君が持ってる本あるじゃん。実はそれ私も今までに発売された巻は全部持ってるんだ。それ、好きなんだよね。けど、周りに読んでる人いなくてさ、話せる人がいなかったんだよね。そしたら、君が読んでるの見ちゃったから話そうかなって思ったの」


 ん、つまりはこの人もこの本を読んでてこの本のことを好きだけど周りには話す友達がいないから僕に話しかけに来たと?


 「だからね~私とその本の感想とか話そうよ」


 まさか、同じクラスでこんな人がこの本を読んでたんだな。確かに他の人がこの本をどう思っているのかについては興味がある。けど、

 

「僕みたいなのと話したらあなたの友達から変に思われますよ?」


「言ってることがあまりよくわからないけど、変には思われるとかはないと思うけどな。クラスメイトと話すんだし」


 え?この人何言ってるんだ。クラスメイトといっても一回も話したことないし何より僕は


「僕は友達もいないような陰キャなんですよ。あなたみたいな陽キャと釣り合うわけがないじゃないですか」


「あ~そういうことか。私、そういうのあまり気にしてないんだよね。別に陽とか陰とか関係なくない?人付き合いの上手さとか趣味って人それぞれなんだし」


「それでも、学校のクラスメイトからは変な目で見られますよ。なんであんなやつなんかと一緒にいるんだって」


「私は全然そんなの気にしないけどな~」


あなたが気にしなくても僕は気にするんだが...


「で、でも」


 「あーもう、わかったよ」


 よかった、やっと引き下がってくれるのかな。


 「これから昼休みに私もここに一人で来るよ。そしたら誰にも見られることなく話せるでしょ?」


 え?ここに来るの?


 「それは、つまり昼休みはここに来て小説について話すってことですか?」


 「そゆこと!」


 おいおい、まじかよ。一人が良くてここでご飯食べていたのに。


 「え、そんな勝手に...」


 キンコンカンコーンと予鈴のチャイムが鳴った。


 「お、予鈴が鳴ったね。そしたらまた明日ね」


 「え、あ、ちょっと」


 僕は彼女を呼び止めようとしたが、階段を下りて去っていった。


 なんなんだ、あの人はほんと。ほんとに明日来るのか...どうしよ。


 僕は彼女の行動に戸惑いながら、次の授業があるため階段を下りて教室へと向かった。


 その後、五限、掃除、六限、七限と学校生活を送り、特に予定とかもなかったため、一人で家に帰った。


 夜、ベットに入り俺は今日のことを考えていた。


 ほんとに明日来るのか、明日別の場所でご飯食べようかな。そしたら喋らなくて済みそうだし。けど、そしたらまたしつこく来そうだし...はあ、なんでこんなに考えなきゃいけないんだろ。






 めんどくさ






 カーテンの隙間から陽光がさしたことで僕は目が覚めた。が、体は重く感じていた。僕はそんな中、学校へ行く準備をして学校へ行った。




 学校に着き、僕は一限、二限、三限、四限といつも通りの生活を送った。


 てっきり喋りかけてくると思っていたけど、全然喋ってこないや。周りに人がいるから配慮して喋りかけてこないのかな。


 僕はそんなこと思いながらいつもの場所に昼ごはんを食べに行った。


 いつもの場所に行ったのはほかの場所に行って、彼女から「なんでいなかったの?」など聞かれるとめんどくさく、それが嫌だったためである。


 十分くらいだろうか、僕はそれくらいで昼ご飯を食べ終わった。そのタイミングで


 ドタドタ


 下から足音が聞こえて来た。


 「お、いたいた。違う場所に行かれて逃げられてたらどうしよって思ってたよ」


 来た。これから、めんどくさいんだろうな。


 「こんにちは」


 「そんな堅くしなくていいのに。もっと気楽にいこうよ」


 「は、はい」


 「さて、何から話そうか。ん~じゃあ好きな話ってあったりする?」


 なんか、いきなりだな。そうだな、


 「えっと、僕が好きなところは精霊を体に取り込んでいてその不可に体が耐えられず、死んでしまいそうな女の子を主人公のスライムが救ってあげるってシーンかな。で、そこの何がいいかっていいと…






  て訳でそのシーンが好きかな。     あ、」


 あ、やらかしたああ。


 僕は話すうちについ夢中になり、たくさんのことをオタクのように長く語ってしまった。


 絶対引かれたよな。めちゃくちゃ長く話してたし。


 キモがられたと思いながら彼女の方を見ると、無言のまま下を向いていた。


 やっぱり、そうだよな。こんなに長く話してたんだし。


 しかし、次の瞬間。


 「わかる!! そのシーンめっちゃいいよね。なんかこう心に空いた穴を主人公のスライムが埋めてあげたっていうか、女の子は死んだけど、その思いや形はスライムに受け継がれた感じがいいよね」


 「え、」


 彼女は引くどころか僕の話に笑顔で反応してくれた。


 「うん、そこがいいんだよね! 他にもさ、」


 僕は初めて話を真面目に聞いてくれたことに嬉しくなり、またその小説について語った。その度に彼女は真剣に話を聞いてくれて笑って、反応してくれてた。


 僕はなんだかその空間のその時間が






 楽しく思えた。




 


 そして、予鈴が鳴るまで二人で話していた。その時間はとても短く感じ、今までの昼休みより一番短かった。


 「じゃあ、私は行くね。楽しかったよ。また明日」


 「こちらこそありがとう。こんなに話を真剣に聞いてもらえてよかった。ありがと」


 そう言い終えると彼女は階段を下りて行った。


 僕も片づけをして階段を降り教室に向かった。





 「また明日」か。




 こんな昼休みも






 悪くはない






 とそう思えた。






 それから毎日、昼休みを限定してだが、彼女は僕の下に会いに来て、同じ趣味の話をした。他にも読んでる小説があるらしくその話もした。




 そんな日々を、日常を僕は楽しいと思いながら毎日を過ごしていた。





 しかし、そんな日常はいきなり終わってしまった。僕はあの日から長い夢を見ていたように感じる。嬉しかったこと、楽しかったこと。たくさんの思い出があの日常に残っている。





 あんな日常をずっと続けばいいのにと思っていたのに...






 いきなりだった。いきなりすぎた






 出会った日からほんの一か月しか経っていないのに






 彼女は死んだ。

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