2023年 笹井宏之賞応募作『少年と少女のロンド』
聖天のきらびやかな夢降り注ぎ少女はいつしか大人になりき
少女の夢は花屋になること鮮やかな薔薇を手折りしあのころ
少年の愛を夢見た少女の胸の裡に宿る星々たちよ
大理石の床に広がる花弁の中央に倒るる美少年二人
透明の城に閉じこもる少年の手を取りたいと少女はゆかん
清らかな躰をそのまま抱き眠る少年の頬に落ちる花影
往き暮らす人らの合間にお互いを守り合う少年少女を見守る神の愛
少年は少年を愛す父の影遠ざかるように祈りながら
聖地などいらない君がいるのなら君の腕の中が神の国だ
少女は母となりぬあの頃の面影を天使の羽としながら
美しい人と云われることを拒み微笑んだ少年の艶やかな紅の頬
少年を愛でる青年のフェティシズム薔薇を凍らせ保存したいと
頬を寄せ眠る少年少女よ幸いあれ月光が二人を導かんことを
柑橘類の甘い香りを漂わせ少年の耳朶は永遠にそよぐ
碧い夢は硬質の音を立ててきしきしと少年の心を形造っていく
銀の針少年の愛を縫っていくいつか出会う少女のために
人形の城に茨を這わせつつ恒久の愛を夢見る少女
細密な装飾のある鏡の虜となる少年の吐息が映る
少年はまだ見ぬ母の慈悲深き面を想像し白いシィツに包まれり
温かき千手観音の指先をすり抜け少年は少年と駆ける
真珠の喜びを少年は知らず指をさす星の悲しみもまた知らず
ビロォドの滑り台を流れゆく少年の笑い声廊下に響けり
惑星の震えを耳を澄ませて聴く少女のか細き指先の動き
花冠を贈与し笑う少女の眼美しき三日月のごとく弧となり
バイブルを繰る少年の横顔を少女は静かに見つめているなり
生殖を知らぬ少女は青空を飛ぶ白い鳥に大きく手を振り
シロナガスクジラと泳ぐ妖精の幻視をする少年のまなこ
少年は裁ち鋏を手に切り裂かれ紙吹雪の矢に打たれているなり
決闘を申し込まれし少年の背に宿る白木
少女の心臓を内蔵した人の恥じらうかんばせに花を
鈴の音に跳ねる心臓の柔らかき少年は高い窓を仰ぐ
読経の声を寝耳に響かせて少年は寝間に微睡んでいる
妖精を見たとうそぶく少女達耳に口寄せ笑い合うなり
百合色の微笑みを浮かべ少年は母性からの離陸を試みるなり
つややかな指先を胸に向けながら自我の萌芽を喜んでいる
少年は未だ少女と出会うことなく静やかな月の光と会話しており
孤城には冷たい冬しか訪れず少年の踵を氷のごとする
薄暗き隅に座り少年は竜の骨のオカリナを吹く
蜘蛛の糸登ることもなかりけり暖かな地獄を少女は歩く
いつの日かやってくるはずの少年と踊るためのトゥシューズ
赤色の遣いは月からやってくる少女の躰は天のものなり
夜は突然投げ込まれ拡がる黒曜石少年の瞳
鱗粉を零す蝶は少年を目覚めさせ口づけをする
金雲母の野原を踏んで少年はついに少女を探す旅に出る
一人歩く少年の後ろに伸びる影は光と和やかに挨拶交わし
暗闇に座る少女の纏う衣は月光さえも通さざりけり
少女はただ少年の面影を追い求め光る胸を隠しており
夏過ぎた蛍の行き交う十字路を二人は手を取り歩いていくなり
星は夜明けを受け入れて徐々に光を弱めてゆくなり
太陽の光を浴びて少年と少女の影は伸びゆく
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