題詠『青年』

儚げな青年はピアノを前にして咳を何度も手のひらに落とす


青年の兄は頑強な男で粗暴で演劇を愛していて


青年が愛した人は実の兄許されざる恋に胸を病んでいく


両親に修道士になり家を出たいと伝える賑やかな春昼下り


白壁の修道院に入ってく彼の面影払い除けながら


生真面目な青年はあまりに生真面目にキリストの教えを守っており


可憐なる芍薬を活け恋人の夢を何度も視ている


群青の秘密を抱えた青年は磔刑の人の前で苦悩する


真夜中に詩を口ずさむ青年の頬を照らす暖色の焔


短剣を忍ばせ歩く青年は級友に呼び止められて微笑む


物言わぬイエス・キリストの像に向かい青年は級友に告解をして


深々と胸に刺さった銀色の刃を見せて青年は祈る


凍てついた空気が窓から侵入し青年の亡骸をこおらせていく


青年の想いはイエスさえ救うことはできずでも幸せだった



薄っぺらい胸の真ん中を短剣で突く やぶれかぶれの愛の終わり


宗教も愛も達成できなかった 道半ばで死ぬことの痛み


一回の命をどう使うか 俺は無駄死にしたのかもしれない


生きてさえいればあの人と結ばれた可能性を考えている


実の兄は荒々しい人だった 僕の初恋相手なんだ


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