2023年 6月
アリエルは思いの外コメディエンヌ可愛らしい少女のような
青い水を切り裂いてやってくる少年の面影
母親の懐に抱かれて眠りにつく子ども時代のような空気
悪役の、ただ真っ直ぐな悪事にひれ伏す そういう前世もあったはずで
温かい地面を頬にくっつけて地球の鼓動を聞いているナリ
口が重い自分を呪っていた青春時代の匂いが香って
いいことはいい行いから生まれるの 童話は大事なことを教えて
人生は素晴らしいと感じられることも増えてきたような気が
〈夏〉
薄幸のシャボンがひとつ浮かんでる君のサフラン色の瞳に
水色の夏が更地を均すように拡がっていく今日の体温
一粒の汗が雫となって落ちやがてラクダの涙となって
ざわざわとニュースが鳴っている奥で母があんこを煮ている匂い
暗い梅雨通過してからじゃないと俺らはヒーローになれないんだぜ
神様の落としたアイスの固まりを子どもが拾って食べている夏
実務的な言葉なんてみんなみんな葉っぱにして飛ばしてやるから
水彩画みたいな別荘に連れ立って避暑に行くよな世界線求む
ライオンはいつもあくびをしているの新しい風、新しい首
美しいみみずを一つつまみまして柔らかな土の上に降ろす
青い朝電車が一本通っていあまりにも赤い空が赤い
いつだってケセラセラと唱えれば甘い香りに包まれてるの
陰湿な陰口食べて大きくなる化け物を心に飼っているわ
藍色のスマホケースに貼っているE.T.のブロマイド可愛やかわい
美しい女の犯した罪一つ裁けないでは天使になれない
水槽の中で踊る黄緑の光撫でて口に入れる少しガチャガチャしていたわ
犬は喜びよく跳ねて夏の一つの染みとなりけり
少年が一夏を過ごす寄宿舎で起こる新しい関係性
肉親が頼りの小さい子どもたちほよほよとした声を上げて
お菓子を食べたいと願う心の欲は果たしてほんとにいいものでしょうか
白い花何も言わずに揺れておりそれを送った人を愛でる
母親の言語感覚ピンク色心の奥にしまっているよ
社会という怪獣に火を吐かれ私を必要としてほしいのに
集団に負けない強さがほしかった紫色の剣を貫く
笑ってる顔文字に癒やされるはずと思ってぽちぽち入力
妹と架空の弟や兄を空想してた子ども時代に
闇なんて吹き飛ばしちまえと言う人の太陽のような心のコロナ
受験期に好んで聞いていたラジオ水のような音楽たちは
天国と地獄どちらに転ぶだろう暴露療法に耐えられる人
恐竜と人は共存していたの歴史が知らないパラレルワールド
スキゾイド誰にも興味ないという盾を使って防衛してる
流行の言葉を使わないというブランドを纏い今を生き抜く
強がりを見抜かれていたかもしれない高校のコンクリートジャングルから
微笑んでくれた人の笑顔が侮蔑に見えた今でもなぞ
秀でることを許さないそういう人格が巣食っていて
下積みをこつこつと積んできたけれど光はどこに楽になりたい
精神を丸く優しくしていくのそれが今世の課題なのよ
拡散する感情たちは漆黒で重くてタールの匂いがするな
現実を離れて夢想する世界知らないうちに進行する時
恒久の知恵を得たくて本を読む勉強は苦手というか嫌い
惑星を生み出す女神の微笑みは廃墟の地球を腹に取り込み
賢くなければ生きられない美しくなければ歩けないかな
人を型にはめようとする圧力が苦手で最初の仕事を辞めた
共同体にいなきゃ不安な気持ちがあり勉強しなくていいよと祖父が言う
別に勉強しなくても生きていけるよ安心してね
本棚はカラフルな本でパンパンで一角は大層な本(手つかず)
存在意義賢くなくては価値がないそんな呪縛を解く必要がある
悪魔たち私の成長阻害して心の中でクスクス笑う
戦争は止まらないの始まれば神の大きな手によって
人間が人間だけが止められる平和を願って固く握って
大人にはなることができるいつでもねだから握ってそのステッキを
分かったかい? 誰かに主張をするときは間接的にするんだよ
信用はあったほうがいいいつだって言葉に重みを持たせるために
心にある不安を隠し生きてきたけれどそろそろ手放す時だ
手のひらの小さな自我を守るため火を吹いていた世界を溶かす
修羅の国血みどろの武士たちは殺すために生きているのか
短剣を握った天使宙に舞い人間界を裁いている冬
白い歯が健康的に光ってる妹の人生が明るくありますように
〈百合短歌〉
いじらしい胸を震わせ淡色のワンピースを脱いでいる君
同性を好きだというこの気持ち初夏の風に溶かしていくよ
ストローをそのままにして飲み物を渡してくる君の眼差し
可愛らしい君に話しかける人全員あたしの関所を通れ
花柄の笑顔を向けるその先にこれからもずっとあたしがいますように
レモネード傾け君が夏の中深緑と共に優しくなってく
携帯の着信音を君のだけ澄んだ鈴の音にしている
君のいない世界に色がないように晴れ間のない日はいつも憂鬱
石英を拾って小瓶に入れるなどしていた幼き日々を思う
爪の先いじめてめくったそれもまた自傷行為と最近知った
レモン色の歌を歌う温かい別れの歌だと思う歌詞は知らない
突き放すような人は周りにはおらず私だけが冷酷
毎日のように会っていた友の嫌な面を思い出し笑う
無条件に可愛がられていた頃の揺り籠に戻って指を吸いたくはない
感情の欠落を補うように無闇に笑っていた時期もあった
言語化のできない感情を抱くこれはいいほうのかんじょう
この秩序立った世界をカオスへと変容させたい私は刺客
タロットの指し示す方向に未来があるようには思えないせいぜい現在
『世界』
温かい世界の水を引いてきて毛布に包まり眠っている
静かなる眠けを群青色に割り世界の糸をそこに垂らす
イメージの世界で卵を取り出して額で割ると宇宙に行ける
甘やかな殻に座って一人遊ぶチョコレート色の王子様はどこ
蓮の葉が浮かんでいる世界に行きたいと思っていた時代の残り香
『水』
愛ゆえに満ち溢れる光あり水の上の明るいあなた
水色のペットボトルを空中に放り投げて宇宙を作る
さぁさぁと水流の音聞こえてい あの子の命を救ってください
水道の蛇口をひっくり返し少年は噴水を次々飲み込み
苦い水甘い水に恋をして神は二人を混ざり合わせて
石を洗う水は清流上流に命の玉を抱えて祈る
生き物が求める水の体には知識が刻まれ眠っている
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