2023年 2月

恋ひとつままならぬ世の儚さよ 季節は無情に過ぎ去りゆくなり


憧れの姫君の肌のたおやかさ 想像しつつ百合を手折りて


月光の明るさに彼女の細面を想う 静かなりや夜の草原


美しき心映えを重んじる 吾は池に手を浸さぬまま


清らかな鏡を貴方に贈る時 桜の花が紛れ込んだか



『チェンソーマン短歌』


三人で暮らすかけがえない日々は一夜のうちに過ぎたようで


もう二度とパワーのいびきも早パイの怒鳴り声も聞けない雪 降る


いつの間にこんなに大事になっていたのか思い出すことは難しい


人間を脅かす悪魔は嫌いなのに どうしてこんなに愛おしいのか


裏切ったはずなのにデンジというあんぽんたんはワシを受け入れ


にゃーこの眼覗き込んで考える 猫の宇宙と悪魔の宇宙


好きな子が私の心を離れてってもどかしさを胸に秘めてる


変な奴ほどよく生き残る地獄に生まれて生きるしかない


抱きしめたい抱きしめられたいこの体 どの生き物も私より弱い


救いというものがあるのなら悪魔にもそれ適用されるんですかね



28日 『春』


風鈴は別世界探知機 春の平行宇宙を撃ち抜きます


春のどか隘路に足を踏み入れるとふさふさの猫が出迎えてくれる


春の川ひとりぼっちのおじさんが所在なげに佇んでいる


ゆっくりと歩む人生の細い道赤い苹果が通り過ぎてく


雪ほどけ冬から春へと続いてく世界に膨らむ温かい空気


穏やかな春の太陽に暖められる電車ががたごと現在を走る



市役所の小さな小箱の窓口を一つずつ親指でつついていく仕事


一滴したたる社会の圧力が個人を溺死させていく罪


丁寧にやさしく柔らかく自己を触る するとほころぶ花束がある


赤ちゃんのぽわんぽわんな指先に透明の妖精が止まって休む


どうか幸せになってほしい 祈りをこめて帰路をたどる


たくさんの本をぽちって待つ間花が咲いてしぼんで咲いてしぼんで


空色の空はあの世を隠しておりこの世を優しく包んでいる


どの人もある時までは赤ちゃんで 実は心にまだ住んでいる

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