2022年 笹井宏之賞応募作『青年の恋』
おはようからおやすみまで黙々と カラザの天蓋つまみ続ける
カラオケ店 マイクの奥の鮮やかな暗がりに鯉 僕は見ぬふり
飲食のバイト帰りに受信する給水塔のおばけの空腹
雨の日に冷やし中華をすする君 動物めいた指先をして
雨上がり 君と二人で歩く道 印象派めく街の喧騒
旧盆に家でアイスを食べている 抹茶味とか好きかな、先祖
墓参りすることの意味を考えて とりあえず窓辺に歩み寄り拭く
共感は大事とみんな言うけれど 宇宙人にも心はあるのか?
洗濯機回して気づく、色物に 現実的知恵未だに遥か
バイト服抱えて向かうランドリー お前に会ったら挨拶しよう
昼間からプールかよとぼやいてる たまには健全もいいものだよ君
紫のお菓子をたくさん買いこんで レイトショーに独りしけこむ
原始人 みんなどんな寝相だったの トーキー映画の洞窟の奥
赤い実をつけたソヨゴの木漏れ日を 踏んで歩く詩人がひとり
ポケットに二千円を忍ばせて 柔らかな足取りで美術展に行く
京劇を見たあとに飲むコーヒーは渋いねと言う君を観ている
風の吹く 寮の踊り場の薔薇園に寝そベりうたたね 3時に起こして
一眼レフ リング回してフォーカスする フランボワーズと君の横顔
ガーリック色の上着をさっそうと羽織って気づく 値札がひらり
貝殻を背負うとき貝は何色の請負契約書にサインしたの
高速を走る車窓のシティポップ 目指すは川辺 水底の国
自意識を溶かして食べるマロングラッセ ほのかに化粧の味がしたよな
シームレスに移り変わっていく生活 傍らにはくまの人形
君からのお下がりの服着こんでる 黄金の音色軽く響かせ
司法試験受ける君が跪き 六法全書を聖体拝領
島影の上空にふわり浮かんでる 楕円のガラス 徐々に傾き
ラップした高野豆腐に落ちている 暁の光手で拭って
陶磁器を選びながら考える 秋季の授業のシラバスのこと
2丁目の八百屋に置かれた和箪笥は 見かけるたびに昼寝している
彼の書く自由詩 メモから零れ出て シオンとなって床に咲いた
陽光の射し込む窓の十字架に あなたが静かに腰かけている
パイ生地を焼きつつ有名なイントロの コーラスエフェクト再現しあう
秋水の揺れる夕刻の祈祷台 子どもがたむける汽車のおもちゃ
小説の中の時代の習俗の 真似してマドレーヌ紅茶に浸す
終局の世界をまるっと抱きしめて 銀河の猫は塀からジャンプ
木のそばの中空に浮かぶ風船は シュルレアリスムと友達らしい
ゼミ発表 Yが机に置いたのは 玩具のひよこ 舞台装置か
樹間から顔出し笑う君の頬 古い戯曲の妖精のよう
朝明けの卵パックに整然と並ぶ白玉 カオスの粛正
うわさでは酒豪ばかりが集うという 飲み屋の裏に噴水広場
昼下り 猫が寝ている縁側に 忍び足で出撃する我
焼き芋を抱えて帰る頭上には 電線たちの弦楽器団
電卓を叩いて鳴らす音楽に マロニエの木がのってくれる朝
脳内地図 君の居場所を点滅させ 青信号になるよう念じる
ジレンマを振り払うよに封をして ポストに投函 僕は元気です
玄関に置かれたかばん背伸びして 僕の支度を待ってくれてる
早朝の出花の中に透明の羽が一枚沈んでいたっけ
アコーディオン 伸びて縮んであの中に 小人が棲んでいるらしいけど
君の手の中に収まる出刃包丁 陽光さえも吸い込んでしまい
文庫本 読んでいるとふと気づく 今まで静寂を見守っていた
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