第二章6話 この世界で初めての人間との邂逅




「初めまして。リルの主人のルークと言います」


「…あぁ。俺は疾風の牙のリーダー、ウルガだ。リルさんのお陰で命拾いした。ありがとう」


俺は目の前の重戦士の男に挨拶をする。この男はウルガという男だが、疾風の牙ってなんだ?恐らくパーティの名前かなんかだと思うんだが…聞いてみるか。


「あの疾風の牙ってなんですか?」


「あぁ、俺達は冒険者なんだ。俺達パーティの名前を疾風の牙って名前で活動してるんだ。でこっちの軽装備の男が…」


「ライだ。リルさんが助けてくれなかったら俺はここにいなかっただろう。助かった」


「私は弓使いのナーヤです。助けていただきありがとうございます」


「私の名前はレイスよ」


傭兵かと思ったら冒険者かよ!リーダーのウルガさんはしっかりしてるイメージだ。ライさんは戦士でいつも冷静そうだ。ナーヤさんは弓使いで礼儀が正しい。レイスさんは魔道士で自信家っぽいイメージ。


それにしても冒険者か!俺もなりたいんだよな!やっぱ冒険者ギルドとかあるのか?


「すまないが君達の事を教えてくれないか?別に無理なら構わないが」


ウルガさんがそう聞いてくる。なんか怪しまれているような…。まぁウルガさんは警戒しているだろう。場違いな服装が多いからだろう。だが俺達はこんな事もあろうかと国を出る前、皆と相談して口裏を合わせているのだ!


「あぁ俺達は旅人なんですよ。皆さんも知っての通りこちらの獣人がフェンリル」


「さっきも紹介したけどウチはフェンリル!よろしくな!」


「さっきルークさんの事をご主人様と呼んでたが珍しいな。人に仕えてる獣人は数えるぐらいしか見ない。奴隷で無理やり仕えてるのはよく見かけたことはあるのだがな」


この世界に奴隷はいるのか。まぁ前の世界にいた俺からしたらありえない事だが、やはり異世界だ。


「あぁ。フェンリルは小さい時に拾ったんだ。森の中で一人ぼっちだったからな」


拾ってはないがそういう設定だ。拾ってきましたエピソードは万能だからな。


「で、こっちのエルフがセレスだ。まぁ旅仲間だな」


「セレスです。以後お見知りおきを」


「はい!よろしくお願いします!」


「セレスー。このライって子、足に怪我してるんや。治してやって?」


「まぁ本当ねぇ。見せてもらうわね」


ライの足は矢は抜いたが、まだ血が止まっていない。布で縛って血が流れないようにしている。セレスはライに近付いて布を解いて手を翳す。


回癒ヒール。これでもう大丈夫よ」


ライの足に開いた穴がみるみる塞がっていく。それを見ていた、特にレイスが


「すごい…!」


「俺の傷がこうも簡単に…!」


「セレスは回復魔法が得意なんだよ」


「流石エルフね」


「お前だけずりぃ!俺も怪我してればなー!」


「天国だったよ!」


おいおい。ナーヤさんとレイスさんが冷たい目線をしているぞ。まぁこいつらは放っておいて


「あー…でこの子がセレスの子供でプリンだ」


「プ、プリンです。よろしくお願いしますなのです」


「すごく可愛いです!」


「よろしくねプリンちゃん」


「セレスさんの子供ならエルフだと思うんだがプリンちゃんはエルフじゃないぞ?」


「この子は拾ったのよ。この子も森の中で1人でいてね。ちなみにプリンは男の子よ?」


「えっ!?女の子かと…」


「女の子にしか見えないわね」


「よく間違えられるので気にしてないのです」


はいまた出ました!拾ってくるエピソード!相手は俺達の事情を知らないから、ぶっちゃけこれだけで納得するんだよ。まぁ拾ってきた違和感よりプリンの容姿に話題が行ってるってのもあるが。


まぁプリンは俺が男の娘にしてしまったからな。顔も服装も可愛い女の子だから間違えても仕方ない。


「そして最後にこっちの男がドラグだ」


「ドラグと申します。ご主人様の執事をしております」


「ルークさんは何処かの貴族なんですか?」


「あぁ、違いますよ?ドラグは代々俺の家に仕えていた執事なんだよ。貴族じゃないんで安心してください」


「そうか分かった」


好きな時に働いて好きな時に休む。そんな自由な冒険者になりたい。貴族なんて面倒くさそうなの死んでもゴメンだ。と色々な異世界小説を読んだ俺が思う。ちなみにヴィーナは俺の影に隠れている。目立つというか男を惹きつけてしまうから影の中で待機だ。


「それで俺達なんですが、旅人なんですよ。何分、人里の離れた場所に住んでいたのですが、見聞を広めるために旅であちこち巡ろうかと。なのでここの近くにどんな街があるのかあまり知らなくて」


敢えて森の奥に住んでいたとは言わない。迷いの森の奥から出てきたんじゃないのかと言われたり、思われたりしたら面倒だ。


「そうか。だがこんな小さい男の子も旅に連れて行くなんて危なくないか?」


「プリンはこれでも水4級まで魔法使えますから大丈夫ですよ」


本当は水10級まで使えるのだが、水10級まで使えます。なんてまず信じないだろうからな。なので敢えて水4級だ。この世界では水4級でもかなりの使い手だ。


「なっ!?こんなに小さいのに4級まで使えるの?」


「セレスは5級まで使えるから師匠が良かったんだろうな」


「なるほどね。確かにエルフは魔法が得意と言うからね。さっきの光魔法も相当なものだわ」


まぁセレスの回復魔法はユニークも付いてるから普通のヒールよりは段違いの回復性能だ。初級魔法ではない回復性能だ。だが何とか信じてもらえた。レイスという魔道士は先程から魔力視をちょくちょく使っている。


魔力視は使用すると目の色が紫になるんだよ。だからいま魔力を視られているというのは分かる。レイアが作った隠蔽の指輪が早速役にたったな。レイスも不審がってるところは無いし、大丈夫そうだ。


「そういえばどこか目的の街はあるのか?」


「はい。王都へ行く予定です」


「王都か。そういえばレナルドさんが王都へ行くそうだぞ?」


「レナルドさん?」


「あぁ、紹介がまだだったな。紹介するよ」


と言ってウルガさんは帆馬車の中に入り1人の男を連れてくる。


「こちらがレナルドさんだよ」


「初めまして。商人をしているレナルド・トリスタンと言います。王都へ行きたいそうですが?」


「初めまして。旅人のルークと言います。今のところ王都へ行く予定ですね」


レナルドさんは商人の癖なのか、こちらをちらちら伺っている。まぁ商人は信用が命みたいなもんだから仕方ないか?俺が信用できるのか伺っているのだろう。


「私も王都へ行く途中なのですよ」


「レナルドさんは王都では名の知れた商人なんだよ」


へぇー。レナルドさんは有名なのか。だが何故ここまできたんだ?


「名の知れたと言っても、そのうち名も聞かなくなりますよ」


アハハと笑っているがその笑いは何処か寂しげな笑いだった。少し気になってしまったので聞いてしまった。


「なぜ名も聞かなくなるんですか?」


「えぇ、実は…私はこの迷いの森から採れる希少な素材等を買い取って王都へ持って行き、王都で高く売っていたのですが、最近迷いの森に大きな結界が張られて奥まで行けないのです」


「それに迷いの森は駆け出しの冒険者には丁度良く、それなりに儲かるからな。迷いの森に入れなくなった冒険者達は違う街に移動して行ったよ」


結界を張ってそういう事態になっているのか。まぁだからと言って解くわけにはいかない。だけどレナルドさんには申し訳ない事をしてしまった。


「そんな事になっていたのですか」


「その話を聞いて、いても立ってもいられなくてね。私の目で確認するまで信じたくなかったんだよ」


「それでここまで護衛を連れて来たと言う訳ですか」


「えぇ。ですが徒労に終わりましたが…」


はぁ…。何かそこまで落ち込まれると助けてあげたい。いや俺のせいでレナルドさんは落ち込んでいるのか。


「……レナルドさん。もしよければ王都まで護衛しましょうか?」


「えっ?君達がですか?」


「えぇ。俺達、腕はそれなりに自信はあります。それに俺達も目的は王都なので。もちろん報酬等は入りません」


「それはすごく有り難いが本当にいいのかい?」


「はい。ここで会ったのも何かの縁ですし」


レナルドさんは数秒考えて笑顔で答える。


「分かりました。お言葉に甘えて、王都までお願いするよ」


「こちらこそよろしくお願いします」


「よぉし!そうと決まれば早速出発するぞ!」


そして馬車は王都へ向けて進みだす。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


帆馬車の中に全員入らないので、プリンと女性達は馬車の荷台へ入る。疾風の牙だけなら馬車はもう少し早く進むのだが、歩いてる俺達に馬車のスピードは合わせているのでかなり遅い。


「今は何処を目指しているのですか?」


「この先に村があるんだが、その村を2つ越えたら見えてくる街がある。アクス男爵が治める街カトラスという」


アクス男爵。アクス男爵には用はないがその息子に用がある。まぁアクス男爵には申し訳ないが出来の悪い息子がやらかした事だ。ちゃんとキツいお仕置きはする。巻き込まれてもらおう。


「ちなみにそのカトラスと言う街はここからどれぐらいで着くのですか?」


「そうだな…早くて4日、遅くて5日だな」


「まぁ何日か野営はすると思ってくれ」


「慣れてますから大丈夫ですよ」


今日は村に泊まるらしい。まだかなり歩かないと駄目なんだが。とここで俺のフードがゴソゴソ動く。やべぇーすっかり忘れてたよ!怒らないかな?


と考えているとひょっこり顔を出した可愛い顔。ララだ。


「……ルーク様おはよぉー」


「あ、あぁ。ララおはよう」


「……ドラグもおはようぉー」


「えぇ。ララおはようございます」


まだ眠い目を擦っているララは肩に乗るが、辺りを見回して不思議に思う。まぁ仕方ない。今まで寝てて、起きたら知らない人がいっぱい居るんだ。そりゃ不思議に思うわ。


「…誰?この人達?」


「安心しろ。悪い人達じゃないぞ。ララが寝てる間に知り合ったんだ」


と言った瞬間ララの頬は膨らむ。そうだよなぁ。ララもお喋り好きだもんな。というか好奇心の塊みたいなもんだ。


「なんで起こしてくれなかったの!」


「悪かったよララ」


忘れてたなんて死んでも言えない。言った時には1日中拗ねる。可愛いのだがそれは避けたい。


「本当は忘れてたんでしょ!」


「まさか。起こしたよ?でもララ起きてこなかったからな」


「本当に…?」


「本当だとも」


とララはドラグの顔をちらりと見る。ドラグは俺の言ってる事に肯定して頷く。


ナイスだドラグ!後で褒美をやろう!だがすまんララ!許してくれ。と思っていたらウルガから声が掛かった。


「どうしたルーク?さっきからなに騒いで……おっ!?こいつは妖精かぁ!?本物かよ!?」


「あ、あぁ。俺の旅仲間だな」


「どうしたウルガ。煩い……妖精だ!!俺初めて見たぞ!」


「妖精ですと!?ほ、本物だ!」


レナルドさんは拝んでいる。そこまでの事か!?いや御者に集中してくださいよ!


「だがさっき最後の仲間でドラグさんを紹介していたが……いや隠すのも納得か」


「そうですね」


「だな」


いやなんかみんな勝手に納得しちゃってるよ。何が隠すのも納得なのか?


「そんなに珍しいですか?」


「当たり前だろ!妖精だぞ!」


「妖精を見たら幸福が訪れるなんて言われてるからな!人前には滅多に姿を現さないんだよ」


「だけど希少だからこそ妖精を狙う者もいる。だから気を付けた方がいい」


「皆さんは安全だと思ったから見せたのですよ」


と、適当な事を言っておく。この世界では妖精がかなり珍しいらしい。俺の国にも妖精がいたのでそこまで珍しくないとはおもっていたのだが。


ララは軽く挨拶している。見せた理由なのだが本当は違う。こんな好奇心の塊がずっとフードの中なんて耐えられる訳がない。だからこそ見せるんだが。もちろん何があってもララは守るし、狙う者がいるなら排除するまで。


「ちょっと!何騒いでるのよ!煩いわよ!」


と帆馬車の中から顔を出して注意してくるレイス。ララは基本俺から離れないように約束している。だからララが帆馬車の中に行きたいと言うなら俺が向かわないといけない。案の定ララは帆馬車の中に行きたいようだ。


俺は帆馬車の中にいるセレスにララを預ける。俺から離れる時は守護王の誰かに渡す時だけだ。守護王達が近くにいるならララも安心だろ。俺のシールドはそれなりに鉄壁だが、守護王達は俺以上に安全だ。だがまぁ、ララはいつも俺の肩に座る。俺の肩がお気に入りだ。


「セレスー!リルー!プリンー!」


ララに旅立つ前に呼び捨てでいいよと言ったが、何故か俺だけずっと様をつけている。ララがそれでいいならいいんだけど。


「あらまぁ。ララ起きたのね?おはようララ」


「ララおはようや!」


「おはようなのです!」


「おはようー!起きた!」


ララは俺以外だとプリンがお気に入りらしい。よく頭の上に座っている。すごく可愛い絵面だ。と俺は心のアルバムに今の光景をしまっておく。


「きゃー!なにこの娘!すっごく可愛いよ!」


「この娘…まさか妖精!?」


とナーヤとレイスはララを見てビックリしている。


「そうよ?私達の旅仲間なのよ。ルークさんに懐いちゃって」


セレスは旅仲間の設定なので、俺にさんを付けている。プリンは何故か様だけど。俺はララをセレス達に任せて馬車から降りる。そして俺は念話の指輪で心の中で喋る。念話の指輪は喋らずとも心の中で会話ができる。


『ヴィーナすまないな』


『仕方ないでありんす。わっちの魅了は抑える事ができないでありんす。無意識に男を魅了するので仕方ないでありんす』


『宿やテントの中では出てきていいからな』


『楽しみでありんす』


あまり話していると不審に思われるかもしれないのでヴィーナとの会話は最小限にする。そしてセレスが近付いてくる。


「ララはやはりルークさんの所がいいみたい。モテモテね」


「ルーク様すきー!」


「ありがとうな。俺も好きだぞ?」


えへへと言って笑顔なララ。やはり子供の笑顔は何よりの癒やしだ。ララの好きは恋愛とかそういうのじゃなくて親の事が好きという感情だろう。


だからこそ俺も普通に受け答えできる。これがヴィーナやセレスなら目を見れない自身がある。家族とは思ってるが流石に俺も意識しちゃうからな。チキンだし俺…。


そうしてみんなで話しながら、特に魔物等が襲ってくる事もなく村に着いた。休んで明日の朝早くには出発するらしいから早めに寝る。


宿屋ではレナルドさんがお金を出してくれた。王都への護衛をタダと言うのはやはり商人として納得がいかなかったようだ。商人は信用が命とはよく言ったものだ。


その宿では俺とドラグとプリンの2人部屋。リルとセレスの2人部屋になった。プリンは俺に抱きついて寝るようだ。まぁ一緒に寝るって約束したから問題ない。


もちろん妖精は1人と数えられない。タダだ。そしてもう1人タダがいる。ヴィーナだ。


ヴィーナは俺の2人部屋に野営用のテント中からベットだけ出して2人部屋に置く。2人部屋なのでぎりぎりだが。2人部屋に4人か……いやララも入れたら5人だ。ヴィーナもずっと影の中は可哀想だからこれぐらいはな。


そして俺はプリンに抱きしめられて深い眠りにつく。


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