第二章5話 山賊との戦い



迷いの森の近くの街道を2頭立ての帆馬車が進んでいる。2頭立ての帆馬車の中には荷物がほとんどなく、男女4人が乗っている。


そして帆馬車を操縦する御者が1人。全員で男女5人が帆馬車に乗っていた。


「この護衛の依頼を疾風の牙の皆さんが引き受けてくれて助かりました」


御者の男がお礼の言葉を言う。御者の男の名はレナルドと言う名で、商人をしている。最近は少し名が知れ渡り、知名度が上がっているらしい。


「いいんですよ!これが俺たち冒険者の仕事ですから!」


そう言ったのは冒険者、疾風の牙のリーダーでウルガと言う男だ。重たい鎧を着て大きな盾を持っているウルガは前線で敵の攻撃を食い止める重戦士だ。


「それに俺たちもこの森が少し気になってたからな」


次に答えたのは軽装備の鎧を着ている男。ライと言う男だ。戦士でウルガが前線の攻撃を受け止めてライが隙をついて攻撃する役割だ。


「そうですか。ですが本当にこの森は……」


「はい。以前はこんな事になってなかったのですが」


今度は革の鎧を着ている女が答える。名前はナーヤ。弓使いで後方から援護する戦いで、索敵も彼女の役割だ。


「あの結界を解ける者はいないのでしょうか?」


「無理よ無理」


最後に答えたのはローブを纏った女。名をレイスという。見た目の通り魔道士で後方から強力な魔法で援護する。使える属性は風と水と火で魔道士の中ではなかなかの才能を持っている。


「やはり無理ですか」


「あんな結界見たことないわよ。一介の魔道士どころか一流でもあの結界を解くには無理だと思うわ」


「それほどですか…」


「やはりあの噂は本当だったのか…?」


リーダーのウルガが呟く。


「噂ですか?」


「あぁ。俺も聞いた話だがこの結界、Sランク冒険者でもどうにもならなかったって噂だ」


「あー。納得だわ。あんな高度な結界を張る魔道具を私は今まで見たことないわ」


「えっ…。魔法じゃないの?」


とナーヤが疑問をレイスに聞く。


「違うわ。魔法というのは自分の体内の魔力を消費して魔法を発動するの。あんな高度な結界を作る魔法をずっと維持なんて出来ないわ。あの結界は空気中の魔素を消費して維持してる。だから魔術か魔道具って訳ね」


「意味わかんねー!」


「ウルガはバカね。空気中に魔素があるってのは常識よ?」


「おれは魔道士じゃないんだよ!」


どうやら疾風の牙のリーダーウルガは考えることが苦手な様だ。ウルガとレイスのやり取りをいつもの事かのように流してライがレイスに疑問をぶつける。


「じゃあ何で魔道具って断定できるんだ?」


「魔術も魔法と同じよ。魔術ってのは空気中の魔素を消費して、空中に魔法陣を作るのよ。魔法陣を作る際に魔術文字ってのを魔法陣に入れないと駄目なんだけどね、まぁ火の魔法を使いたいなら火よ来たれとかね。…それは置いといて、つまり魔法も魔術と同じで効果を発揮したら魔法も魔術も消える訳」


「どういう事ですか?」


「んー…そうね。分かりやすく例えるなら闇魔法の盲目ブラインド。これは敵の目を闇で覆い、視界を奪う魔法だけどずっと効果は続くなんて事はないよね?もちろん、ずっと盲目ブラインドの魔法を掛け続けたら解ける事は無いのだけどね。魔術も空気中に魔法陣を形成して、魔術を発動しても、効果が終われば魔法陣は消えるのよ。でもあの結界は聞くところ、ずっと結界が消えていないらしい。あの規模の結界をずっと維持なんて無理よ。同じ魔術を使える者が何人もいたら分からないかもしれないけど、あの規模の魔術よ?あんな魔術を使える魔道士がそうそういるわけ無い。その点、魔道具は空気中の魔素を消費していればいいだけだからね。魔道具じゃないかってね」


「やっぱり俺にはわからーん!」


やはりウルガには難しい話のようだ。


「ウルガは黙ってて。…で、その魔道具って簡単に作れるの?」


ナーヤの質問にレイスは難しい顔をして、数秒考えて答える。


「……あの結界がもし魔道具で動いてるとするなら、魔導大国エクセリオンにいる賢者でも恐らくは無理。……はっきり言ってあんなの作れるなら大賢者を名乗っても不思議じゃない」


「レイスがそう言うなら俺たちには無理だなぁー」


と軽くウルガは話を流す。


「そうだな。ところでレイス。1つ気になったんだがなんで魔術はいま使われてないんだ?」


とライが気になったのでレイスに聞く。


「当たり前でしょ?戦闘中にあんな魔法陣書いてる暇ある?」


「…無いね。書いてる時に襲われでもしたら…」


「だから衰退したのよ。今は錬金術や魔道具作成に使われるぐらいね。魔道具に魔術文字を刻むの。あぁ、でも魔道具作成には魔石がいるんだよね。だから魔石は小さくても売れるのよ」


皆がなるほどー!と呟いている。どうやら商人のレナルドと冒険者の疾風の牙は迷いの森に突如発生した幻惑の結界を調査しに来たらしい。なんでも、少し森の奥に入るといつの間にか自分達が森に入った場所に辿り着くのだ。


この結界はかなり高度で、それなりの腕の魔道士ならこの辺りに何か(結界の境目)があると感じるのだが、結界に入った時の違和感等、何も感じさせないのでいつの間にか森の入り口に向かって歩いてるのだ。


とここでナーヤが突然立ち上がり御者の近くに行く。


「ナーヤどうした?」


「うん。嫌な予感がする。狙われてるかもしれない」


ナーヤは索敵や斥候等もする。ナーヤの直感は無視できないのだ。


「みんな戦闘の準備だ。何時でも戦えるようにしとけ」


とウルガが呟き御者の近くに移動する。今は依頼で御者のレナルドは守らなければならない対象だ。


「皆さんどうしたので―――」


―――ヒュンッ!…カキンッ!


突如飛来した矢をウルガの盾が弾く。


「ひっ!?」


「襲撃だ!恐らく山賊。数はまだわからん。馬車を止めて応戦する!」


ここで逃げなかったのは街道の進む道に既に山賊が待機していたからだ。そして迷いの森からぞろぞろと山賊が出てくる。街道の前と迷いの森から出てきた山賊は20人ぐらいいる。


「何でこんなに山賊がいるんですか!?」


「わからん。恐らく流れてきたのだろう。レナルドさんは馬車の中にいてください!お前ら行くぞ!馬車に敵を近付けさせるなよ!」


「チッ!やるしかねぇか!」


「後方から支援します!」


「私の魔法で切り刻んでやるわ!」


そして4人で馬車から降りる。


「迷いの森の中に恐らく弓使いがいる。弓には気をつけろ!」


「たったの4人でこの数を相手にするのか?大人しく諦めろ」


山賊のリーダーらしき男が声をかけてくる。


「生憎、諦めるという言葉は俺達にはない!」


「ほざけ!お前ら殺っちまえ!女は殺すなよ!」


「いつもの連携で行くぞ!」


と一斉に山賊達が襲いかかってくる。ウルガは盾を使い山賊達の攻撃を凌ぎ、その隙にライが仕留める。その連携は手慣れていて鮮やかに2人仕留める。


死角から攻撃しようとするがナーヤがそれを見逃さず弓矢で頭を確実に射抜く。そして街道の前の敵を牽制するのも忘れない。


「いくわよー!風よその刃で敵を切裂け!風刃ウィンドカッター!」


レイスの風の刃が山賊達を襲う。今のでまた2人、山賊達を仕留める。


「お頭!魔道士がいやすぜ!」


「お前らバカか!こっちは数が多いんだ!分断して片付けろ!」


その声に山賊達は動く。疾風の牙がいくら強くても数には勝てない。ウルガとライは分断されてライは1人で応戦し、ウルガは後方のナーヤとレイスを守りながら戦う。だがそれも長くは続かない。迷いの森から飛んできた矢がライの足を貫く。


「ぐあっ!」


「ライ!」


「くそっ!今助けるぞ!」


だがウルガ達の前には10人の山賊達。とてもじゃないがすぐには助けにはいけない。そして


「まず一人目だ!」


「やだ…やめてぇー!」


「くそぉー!」


レイスやウルガが叫ぶが、ライの目の前にいる山賊の剣は止まらない。ライはもう駄目かとおもい目を瞑り、数秒後に来るだろう痛みに歯を食いしばり構える。


心の中ですまないみんなと思いながら。


だが数秒経ってもやって来る筈の痛みが来ない。何故だ?とおもい目を開けると、そこにいたのは山賊ではなく青い髪で黒のローブを羽織った獣人が目の前にいた。


獣人だというのはすぐに分かった。頭には耳が付いてるからだ。そして目の前にいた山賊は何処に消えたのか分からない。目を瞑ってた間に何が起きたのだろうか。だが停止していたのは何もライだけでは無い。


その場の全員が何が起こったのか分からなかったのだ。そしていち早く我に返ったのは山賊のリーダーだ。


「お前は…何者だ!?一体どこから現れやがった!」


「煩いなぁー。死んでいく者に教えても意味ないやろ?」


「なに…?俺達を殺すだと?」


「そうやでー?ウチがあんた等を殺すんや」


「獣人風情が!この数の差が見えねぇのか?そんな事も分からねぇ獣人だとはな!」


「分かってないのはあんた等やで?逃げんくてもええの?殺しちゃうで?まぁ1人も逃さへんけどな」


と獣人女は狩りを愉しむ様にニヤッと笑い、獣人女の八重歯が見える。ライは、先程目の前にいた山賊を倒したのが、恐らくこの獣人女だと理解している。


山賊達は速すぎて何が起こったのか分からない為、目の前の獣人がそこまで驚異と感じられていない。だがナーヤの直感はこの獣人はヤバいと大音量で鳴っている。


とそこに迷いの森から矢が飛んできて、獣人女の顔に当たる!とおもわれたが


―――パシッ。


飛んできた矢をいとも簡単にキャッチする。


「な、なにぃ!?」


「やっぱり迷いの森の中にも潜んでるんや。まぁあっちは任せるか」


「く、くそぉ!お前ら殺っちまえ!数で畳み掛けろ!」


焦って正常な判断が出来てない山賊達のリーダー。その合図によって一斉に襲いかかってくる。山賊の1人が剣を振り下ろすが


―――――ガキンッ!


と鳴って獣人女の爪だけで受け止める。獣人女の爪は先が尖っているが長くはない。


「爪だけで剣を止めただと!?」


「ウチの爪は硬いんやで?それになんでも切り裂くで?」


そう言って剣ごと山賊の体を切り裂く。まるで豆腐を切ったかの様に抵抗もなく切り裂く。


間髪をいれずに他の山賊が襲いかかってくるが、獣人女は爪だけでなく格闘も使う。攻撃を避けて山賊の顔面を殴る。そこまで力を入れてないのだが、山賊の首は向いてはいけない方向に向いており、簡単に首の骨が折れた。それを見た山賊達は


「ひぃー!化け物…!」


「酷いなー。ウチは獣人やで?化け物ちゃうわ!」


とまるで踊るかのように山賊達を殺していく。その獣人女の顔は笑っていた。退屈だった子供に玩具を与えたかの様に。首を爪で跳ねたり、心臓を貫いたり、山賊の頭を握り潰したりと、見ている者からしたら何方が悪者かわからない。そして瞬く間に山賊のリーダーだけになる。山賊のリーダーは腰を抜かして


「た、助けてくれ!何でもする!だからお願いだ!もう悪さはしねぇ!」


「その言葉はウチのご主人様が最も嫌う言葉なんよ。その言葉を信じて傷付いた。それにその話を聞いてウチも怒ってるんや。そう言う者は信じられへん。もう悪さをしないと言って罪が消える訳ないねんで?」


「そ、そんな…待ってく―――」


山賊のリーダーの首から上は宙を舞い、残った体から大量の血飛沫が舞う。そして山賊のリーダーは事切れた。その間、誰も声を発していなかったのだが、獣人女はバッと疾風の牙がいる方向に顔を向けて


「あんた等…」


顔を向けられて声もかけてきた獣人女に疾風の牙の皆はビクッ!として我に返り身構える。獣人女も続きを言おうとしたがそれに気付き警戒を解くように説得する。


「安心し。ウチはあんた等を助けに来たんや」


「俺達を?」


疾風の牙のリーダーウルガが答える。


「そうや。あんた等が襲われてるの見えたからな」


「そ、そうか。ありがとう。助かった」


「礼はいらんで。ウチは頼まれただけやからな」


「頼まれた?誰にだ?」


「それはウチのご主人様にや」


「ご主人様?近くにいるのか?」


「もうすぐ来るで」


どうやらこの獣人女に敵意は無いようだ。心からホッとする。そして獣人女はライに向き


「あんた足怪我したんやな。もうすぐうちの仲間が来るから治してもらい?」


「回復魔法を使えるのか?」


「そやで!」


「申し訳ないが俺達の命の恩人、貴方の名前を教えてくれないか?」


「ウチか?ウチはフェンリル。皆からはリルって呼ばれてるな。ところでこの死体どうするんや?」


「あぁ。この死体は魔物が寄って来ないように燃やすか埋めるんだ。武器などは売れるから持って帰るんだけど今回はリルさんの手柄だ。持っていってくれ」


「そう言われてもなぁ。ウチが決めて良いことではないからなー。ご主人様が来たら決めるわ!」


「分かった」


そして獣人女、フェンリルのリルさんと俺達疾風の牙で死体処理を済ませながらリルさんのご主人様を待つ。リルさんはかなりお喋りで疾風の牙の皆や商人のレナルドさんとも打ち解けている。


「ウチのご主人様きたで」


そうリルさんが言うと、街とは逆の街道からリルさんのお仲間が歩いてくる。その姿に驚いた。先頭にいる若い男は緑のローブを着ている。


そして隣には小さな少女。12歳ぐらいか?鎧などは着てなくて、黒のローブを着ている。魔道士かな?


その後ろには緑のワンピースを着ているエルフの女性でかなり美人だ。その隣には何処からどう見ても執事しか見えない男。鎧なんて全くつけてない。


そもそも子供を同行させている。何者なんだ?そしてその男は近づいてきて。


「リルお疲れ様」


「ご主人様、山賊はもういないで!」


「そうだね」


そしてその男は俺に向いて言葉を掛ける。


「初めまして。リルの主人のルークと言います」


「…あぁ。俺は疾風の牙のリーダーウルガだ。リルさんのお陰で命拾いした。ありがとう」


この男がどういう男なのかまだ分からないが少し警戒しておく事にする。

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