第二章2話 久しぶりの対面と実験



「ラガン俺はお前を殺したい程憎い」


「…なら殺せ」


「だがタダでは殺さん。お前も俺を弄んだだろ?苦痛を与えてやろう」


「…好きにしろ」


「文字通り苦痛をだ。その威勢が何処まで通じるか見物だな」


「この男をトワイライト王国に連れて監禁しててくれ」


………………


…………


……


俺は今恐らくトワイライト王国と言う国の牢にいる。この国の場所は分からない。というか本当にトワイライト王国という国があるのか?聞いたことがない。ここへ連れてこられる時は目隠しだったからな。


この牢に入れらる前に目隠しを外された。周りの壁は岩ではない。俺にも何で出来てるか分からない壁だが、掘って逃げれないようにしているだろう。掘ろうとしたが全く掘れないからな。辺りは暗いが見えない程でもない。


牢の近くに見張りがいる。そいつはエルフの男だ。こいつは回復魔法を使える。何故俺がそんな事知ってるか。俺は自殺を試みた。だがどれだけ壁に頭を打ちつけても回復魔法で回復させられる。じゃあ餓死しようとしたがこれもダメだ。縛られ無理やり食べさせられて栄養を取らせる。どうやら俺を死なせたくないようだ。


俺が捕まってもう5日ぐらいか?今日も同じ、何も無い日々と思っていたが…。


…足音が聞こえる。その足音はだんだん近付いてくる。近付いてはっきり分かるが、足音は二人。


やがてその足音は俺の牢の前に止まり二人の男が姿を見せる。


「ラガン元気そうだな」


「……」


一人は知っている。俺が戦ったエルフの女を連れていた男だ。だがもう一人の男は知らない。メガネをかけて黒のローブを羽織っている男。魔道士か?


「牢に入れられショックで言葉も失ったか?」


「……何をしに来た?」


「なんだ。ちゃんと喋れるじゃねーか。ラガン俺はお前を殺したい程憎い。今も少し理性が崩れるとお前を殺しそうだ」


「…ふん。なら殺せばいい」


「安心しろ。俺はお前を殺さない」


「…なに?」


「言っただろ?苦痛も与えてやると。苦痛を与えた上で殺さない」


「……好きにしろ」


「…威勢がいいな。そうだ、お前に紹介するよ。これから少しの間世話になる男だ」


「初めましてラガンだね?私は偉大なる王の守護王が一人タナトスなのだよ。宜しく頼むよ」


「…偉大なる王だと?」


「そうなのだよ?ここはトワイライト王国。そして私の隣にいるのがトワイライト王国の王ルーク様なのだよ」


俺は驚いた。国だと?やはり本当にトワイライト王国と言う国があるのか?いつ出来た?いや前からあったが隠している?何が目的だ?それにこの男がトワイライト王国とやらの王か。エルフの女ともう一人いた女の態度を思い出すと確かにこの男に慕っていた。納得はできる。


「いつからこの国が出来た?何を企んでいる?」


「そんな事はどうでもいいのだよ。君には実験体となってもらうのだよ」


「……実験体だと?」


「そうなのだよ。痛みの実験なのだよ。では行くとしようかね。君たち気絶させて袋に入れて私の研究室に運んでくれたまえ」


と見張り役にタナトスと名乗る男が言っている。見張り役は俺に近づき手刀で気絶させる。


俺は目の前が真っ暗になる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ここはトワイライト王国の南西エリア。田で言うなら左下のエリアで、鍛冶や魔術、モンスターの研究をする建物が建ち並んでいる。


この南西エリアでは更に3つのエリアに別れており、鍛冶エリアはトール、魔術などや魔道具の研究をするエリアはレイア、そして魔物等の研究するエリアはタナトスが管理している。


そしてそのタナトスが管理しているエリアに一際大きい建物がある。見た目は普通の大きな家なのだが実は地下に研究所がある。


この研究所にはタナトス以外にもタナトスの配下が何十人も働いている。


研究所は地下にあるから洞窟の様な研究所だ。その洞窟には色々な生き物が檻に閉じ込められている。


そしてその洞窟の先には実験室。タナトスが色んな生き物をアンデッド化させたりする場所なのだが、今日はその実験室に一人の男が実験台の上に仰向けに寝転がされている。両手両足と首を動けない様にする為の器具が装着されている。


そしてその男はようやく目覚める。


「気分はどうなのかね?」


その男、ラガンは首が動かないので目だけであたりを見回す。先程牢に来た男と見たことが無いエルフの女性、後は数人の、こちらも知らない人間。


実はこの人間はタナトスの精鋭の配下で人化できるスケルトンだ。ちなみにエルフの女はセレスの精鋭だ。


「…ここは何処だ?」


「ここは私の実験室なのだよ。今から痛みの実験をするのだよ。命乞いをしてもいいのだよ?」


「…ふん。誰がするかよ」


「君は何も分かってないのだよ。これは拷問ではないのだよ。拷問と同じだと考えているのなら、その考えを早く捨てたほうがいいのだよ。無様に命乞いをするなら実験を少しだけ軽くしてやってもいいのだよ?」


「やるならさっさとやれ!」


「そうか。威勢のいい事だよ」


タナトスは少し離れてすぐに戻って来た。タナトスの手には小さな箱を持っている。


「この箱の中には虫が入っているのだよ」


「…虫?」


「この虫を使って実験をするのだよ。人間に使うのは初めてなのだよ。いいデータが取れるといいのだよ」


そしてタナトスは小さな箱を開けてピンセット見たい物でその虫を掴む。その虫は小さいがムカデに似ている。


「この虫は脳喰百足ブレインピードと言うムカデなのだよ。このムカデは小さいが少し特殊でね、生き物の脳を食べるムカデなのだよ」


「……ま、まさかその虫を…」


「だから実験と言ったのだよ。あぁでも安心したまえ。自我が壊れても治せるエルフに協力してもらうのだよ」


「…や、やめろ!」


先程まで痛みの実験と聞いていたので拷問に似た事をするのかとラガンは思っていた。拷問の類なら痛いが我慢できない程ではない。


だがその理想は今、目の前の虫によって打ち砕かれる。この虫が俺の脳を食うだと?俺は少しずつ湧き上がる嫌悪感や拒否感が威勢と言う名の虚勢を吹き飛ばした。


ラガンもある程度の痛みには慣れているのだが流石に、虫に脳を食べられると聞かされれば正気ではいられない。


「おやおやさっきの威勢は何処にいったのだね?根を上げるには早過ぎなのだよ?それと私の部下に優秀な蟲使いがいるのだよ。その者に記憶が保管されている部分だけは喰うなと命令してもらってるのだよ。だから痛みの記憶もちゃんと覚えているのだよ」


そしてタナトスはラガンの耳から脳喰百足ブレインピードを1匹入れる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


自分の耳から虫が入ってくる。体に異物が入り嫌悪感がすぐに体を支配する。


「あっ…あっ…」


「自分の体に異物が入る感触というのは嫌なものなのだよ」


「い、今すぐ虫を出せっ…!」


「それは出来ないのだよ。実験と言ったのだよ?脳喰百足ブレインピードは脳に着くまで少し時間がかかるのだよ」


「グッ…あぁ…」


「気持ち悪いのだね?だがそれはやがて痛みに変わるだよ」


俺は恐怖した。今は痛みがない。虫が俺の体と言うより頭の近くで蠢いている。それは徐々に頭の上、脳に近付いているのが分かる。この虫が脳に辿り着いたら脳を食べる。今は移動しているだけだから痛みというより嫌悪感に支配されているがゆっくりそれは恐怖の感情へと変わっていく。体の震えは止まらない。


時間がゆっくりに思える。既に1時間は経っているんじゃないかと思えるぐらい時が遅い。そしていきなりやってきた。


「ぎゃぁあぁぁぁーー!!」


「おや。ようやく脳喰百足ブレインピードが脳に辿り着いて食べたのか。そうそう言い忘れてたが脳喰百足ブレインピードには毒があるのだよ。だが安心するのだよ。死ぬような毒じゃないのだよ。その毒は痛みを何倍にも増す毒なのだがね、同時に失神も出来ない毒も出すのだよ。怖いものだね」


「頭がぁあぁああぁーー!いだいぃいいぃぃ!」


「毒と相まって脳を食べられる痛みは想像を絶する痛みだろう?拷問なんて生易しいものと思わないかね?」


「やめろぉおおぉぉぉ!」


「ふむ。痛すぎてまともに会話できないみたいなのだね」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


30分が経った。ラガンは脳を食べられる感覚に絶叫し、動かない両手や両足、頭を動かそうとしてる。既に言葉のキャッチボールは出来ず、痛みで悶苦しんでいる。


声帯が壊れても治し、脳が傷ついても治し、精神が壊れかけても治す。終わらない地獄。脳喰百足ブレインピードの毒で失神すらできない。


痛みというのは同じ事を繰り返せば何れ耐性が付くものだ。いや、痛すぎて感覚が麻痺する事もある。だがこのムカデの毒は痛みに慣れる事は無い。つまりずっと激痛、頭が割れそうなぐらいの痛みがラガンを襲っていると事だ。


「彼はもし手足が動けるなら、迷わず自分の頭を何かで壊すだろうね」


そして30分過ぎた辺りで絶叫は止んだ。


ラガンの耳や目、鼻や口の穴という穴から血が出ている。そして耳から脳喰百足ブレインピードが出てくる。


「おや。お腹いっぱいみたいなのだね」


ラガンはぐったりしているが気絶している訳ではない。


「どうだったかね?」


「……も、もうやめて…くれ…」


「何を言ってるのだね?まだ30分しか経ってないのだよ?これを1週間続けるのだからそういう期待は持たない方がいいのだよ?」


そのタナトスの言葉にラガンは絶望した。あの痛みが1週間。精神が壊れればどれほど幸せなのか。でも精神が壊れないようにしているからそれは無理だ。


ラガンは心の底からこの言葉を言った。


「…こ、殺してくれ。…お願いだ。…お願いします」


「人間というのは脆いものなのだよ。私達魔物からすれば人間の心が分からないのも当然なのだよ。これはこれでいいデータが取れたのだよ」


「…頼む!あの痛みはもう嫌なんだ!何でもするからやめてくれ!」


「人間というのは自分の知らないものに恐怖する。だから人間は安心する為、自分を守ろうとする為、知らないものを知ろうとするのだよ。だが恐怖や絶望、痛みは違うのだよ。知らないから知ろうとしないのだよ。死んでいった妖精達はそれを知ったのに、君だけ知らないのに死んでいくのは都合が良すぎるのだよ?だからこうやって教えているのだよ」


「分かりました!知りました!だからもうやめてください!」


「ふむ。チャンスをやろう。1週間耐えたらもうやめるのだよ。それまで耐えるのだよ。私は他の研究をするのだよ。後は頼んだよ」


「まて!待ってくれ!」


と必死に訴えるがタナトスは振り返ることは無かった。そしてタナトスの配下達によってまた耳に脳喰百足ブレインピードを入れられて絶叫する日々が始まる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


俺はタナトスにラガンを渡した後、北西エリアの大木、妖精の家に来ていた。フリージアさんに会いに来たのだ。


この大木の植物は本当に生きている訳ではなく、ただの置物みたいな物だ。国を作る時に拠点宝珠の忠誠ポイントを使い、大木を買ったのだ。ゲーム時代の運営の説明によると妖精達が好む大木の家と言うコンセプトで追加したらしい。


大木の所々に穴が空いておりそこから妖精達が出たり入ったりしている。一番下に扉があるんだがそれは人間用の扉らしい。


そんな妖精達が俺に気づいて近付いてくる。


「あっルーク様!どうしたのー?」


「フリージアさんに会いに来たんだ。呼んできてくれるか?」


「わかったー!」


妖精は元気よく大木の中に入っていく。そして数分後フリージアさんが出てくる。


「お待たせしました!」


「あぁ。悪いな時間を取らせてしまって」


「いえルーク様なら幾らでも。どうぞ中に」


「ありがとう」


大木の中はツリーハウスに似て、家具やベット等、殆どが木で出来ている。大木は10階に別れており、一番上が謁見の間や女王の部屋にしているんだとか。妖精達は飛んで上にいけるのだが人間はどうするのかと言うとエレベーターがあるのだ。


もちろん機械ではない。植物のエレベーター、プラントエレベーターだ。行きたい階の蔦を引っ張ると植物のエレベーターが引っ張り上げる。こういうのは本当にファンタジーだ。


そして着いたのは9階の客室がある階だ。客室に向かって歩いてると


「ルーク様ー!」


と一人の妖精が抱きついてくる。ララだ。


「おっ!ララ元気だったか?」


「寂しかったー!」


「こら!またルーク様に迷惑かけて!」


「しらなーい!」


と定位置の肩に座る。


「もぉ…申し訳ありません。ララが」


「いやいいよ。俺も会いたかったし。」


そして客室に着いてお互いが座る。少し経つと妖精がお茶を運んでくる。リリ、ルルではないなと考えていると


「リリとルルは今、他の妖精達に連れられてこの国を探検している頃でしょう」


とニコニコして言う。ララはついていかなかったみたいだ。何でも今日は家にいたほうがいいと直感で残ったらしい。俺が来ると直感で分かったのか?凄い。


「それでルーク様、私に何か用があるのではないでしょうか?」


「あぁ。それなんだがとある人物に手紙を書いてほしい」


「手紙…ですか?」


俺は誰に手紙を出すか、そしてどういった目的で手紙を出すのかをフリージアに説明する。


「なるほど…。分かりました。協力しましょう」


「助かる。あとその手紙が間違いなく妖精の女王から送られたと相手に分からせたいのだが出来るか?」


「はい。簡単ですよ?」


「簡単なのか?」


「はい!妖精鱗粉フェアリーパウダーをその手紙に掛ければいいのです」


「フェアリーパウダー?」


「まぁ簡単に言えば私達の鱗粉です」


妖精鱗粉フェアリーパウダー、つまり鱗粉を手紙に振り掛ければいいだけだ。鱗粉は女王ではなく普通の妖精でも出るらしいのだが、普段は鱗粉が落ちないように飛んでいるらしい。そして鱗粉を使うのは妖精女王だけで相手に本物の妖精の女王ですよ、と証明させる為に使う事が昔から行われてた。


「なるほど。では手紙が書けたら俺に渡してくれ。俺の配下に任せてその者に届けてもらう」


「分かりました」


と話が終わり少し雑談してから帰ることにする。どうやらフリージアさんは妖精一族が作る服などを売ろうと考えているらしい。フェアリーローブもそうだが妖精の服は着心地が良い。だからもし売られたら買いたいものだ。そして俺は妖精の家を後にする。


さて後は王都出発まで待つだけだ。楽しみだ。俺はワクワクしている気持ちを抑えながら城へ戻るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る