第一章20話 間違いの答えと本当の家族
俺がテントに戻ったのはかなり遅い時間だった。ララはフリージアさんの所へ行っているから今日はいない。
俺はセレスとヴィーナが料理をしている間は特に何もせず、ぼぉーっとして頭では色々考えていた。まぁ人間の命を俺の手で奪ったのだ。命を奪った後は嫌悪感で吐いたが、今は嫌悪感すら無くなっている。
俺の体はもう慣れたのか?いやまさかな…。俺はホムンクルスという魔物になったから、命を奪うという行為になんの抵抗も無くなったとか?あの時は冷静でいたつもりだが頭に血が昇っていたんだろう。躊躇なく命を奪っていた。
今、冷静に考えるとよくあんな事が出来たものだと思いたいが今は命を奪った事に何も感じていない。これは完全に人間をやめたな。とそこに
「できたわよぉ!」
「お前様の為に胃に優しい食事を作ったでありんす」
よく出来た配下達だ。ほんといつも助けられてるな。俺はセレスやヴィーナがいなかったら何も出来なかったと、何も出来ないとつくづく思う。そう思いながら椅子に座る。
「いただきます」
美味しい。今日は肉ではなく野菜メインの夕食だ。正直あまり食欲は無いのだが、せっかく作ってくれたのだ。俺は頑張って食べ、そして食べ終わり
「セレス、ヴィーナ。俺は少し疲れたから今日は早めに寝る」
「分かったわぁ」
「おやすみでありんす」
俺はベットに横になる。俺は自分の右手を見ながら握ったり開いたりする。首の骨を断ち切る感触、心臓に剣を突き刺し、肉を抉る感触はまだ俺の手に残ってる。
だがやはり嫌悪感はもう無いし、人を殺した事に後悔はない。俺はこの世界では心も弱かったんだなと自覚する。後戻りは出来ない。本当の意味で人間をやめてしまったんだと俺はおもった。
そして俺はもう、甘さや優しさを捨て迷わない事にする。いや、迷っていられない。迷っていたらまた大切な物が俺の手の中からこぼれ落ちてしまう。それに俺が迷っていたら配下達が心配する。
さっきもセレスやヴィーナは何も言わなかったが気づいていただろうな。酷い顔をしてたと自分でも思う。鏡で見たわけじゃないが。明日セレスやヴィーナに謝るか。そろそろ寝よう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ルーク様、大丈夫かしら?」
「無理もないでありんす。お前様の前の世界は人殺しなんてほとんど出来ないような世界でありんす」
「もちろんルーク様は人を殺した事なんてないよねぇ」
「お前様の顔を見ればわかりんす」
「そうよねぇ。私達が産まれた時は『げーむ』?で作られたらしいし、それに『げーむ』と言えど人間は攻めて来るし。私達は守る為に人を殺してたから、人を殺すことに対して何とも思わないけれど。ルーク様からしてみたら自我のない人形同士の戦いだったんでしょうけど」
「お前様がいた世界は命が何よりも高い世界でありんす。そんな世界で何十年も生きて、一時の感情で人を殺したらあんな顔にもなりんす」
「酷い顔をしてたわぁ。可哀想に」
「こう言う時に支えるのがわっちら守護王でありんす」
「そうねぇ。そう考えれば今の私達は凄く光栄ね」
「確かにそうでありんす。その『げーむ』とやらでは、わっちらは感情が無かったでありんすぇ。言うなれば人形でありんす。わっちらに魂を入れてくださった女神様には感謝でありんす」
側近や守護王達、民達もそうだが日本のゲームから産まれたので、ある程度の日本の知識はある。だが、ゲーム等の単語は守護王達は知らない。
理由は簡単でゲームプレイ中にここはゲームの中ですと、メタい事を言われたらつまらなくなるから、ゲームという単語はルークだけしか知らないのだ。
ちなみに民達が自我や感情が芽生えたのは女神が魂を入れたからである。側近や守護王達は、データがそのまま魂に吸い取られて急速に成長し自我や感情、性格まで形成したのだ。だが側近や守護王達はそこまで知らず、ただ女神様に魂を入れられたから自我や感情など芽生えたんだとしか思ってない。
「もし魂を入れてもらえなかったら今頃、私達は何故ルーク様があんな酷い顔をしていたのかも気づいていないし、心配すらも出来なかったでしょうね」
「そう考えるとゾッとするでありんす」
「ルーク様は感情のない私達に10年も話しかけてくれたわよねぇ」
「そうでありんすね。特に『おかえりを言ってくれるのはお前達だけだよ』とよく言っていたでありんす」
「それってルーク様はいつも一人だったって事かしら?」
ルークは違う世界から女神によってこちらの世界にきた事等は話したが、ルークもとい新道龍也がどういう生活していたのかは話していない。
ちなみに側近や守護王達は10年の記憶と言うよりデータは残ってるのでゲームプレイ中の出来事は覚えている。
「そうかもしれないでありんす」
「そう。なら尚更私達が支えないといけないわねっ!」
「そうでありんすね」
「ルーク様が元気になられるように頑張るわよ!」
とルークが寝てる間にこういう話がされていたのは勿論ルークは知らない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
昨日は少し早く寝たせいか今日は起きるのが早かった。うん?なんか暑苦しい。俺は両腕に違和感を覚えて見てみるとセレスが左腕を、ヴィーナが右腕を抱きしめて寝ている。どちらも胸がでかいから幸せなのだがエロい。無防備だぞ。だがエロいと思うが襲おうとは全く思わない。
まぁ俺より見た目は年上だが、俺の娘みたいなもんだ。俺の手で産まれたようなもんだからなぁ。
だがどうやって抜け出そうか。起きそうだから慎重に抜くか…。いや無理やり抜くか、と少し力を入れてまず左手を抜く。
だが力を入れすぎたのかセレスの柔らかい胸を刺激してしまう。
「あんっ…」
セレスの艶めかしい声が出る。やはり大人のエロスがある!と変な事を考えるがまだ手が抜けてないから一気に引き抜くことにします。
「あぁんっ!……ルーク様?おはようございます」
「あ、あぁ。おはよう」
セレスが起きてしまった。セレスの顔を見てみると何故か熱い視線をこちらに向けているセレス。
「セ、セレスどうした?」
「夜這いですよね?ヴィーナには黙っておくのでどうぞ?」
「違うぞ?」
「えっ…でもさっき胸を…」
「い、いやあれはセレスが俺の腕を抱きしめて寝てたからでな!」
と必死に説得してようやく理解してもらえた。煩かったのか、その頃にはヴィーナも起きてきた。
「おはようでありんす」
「あぁ。ヴィーナおはよう。…で、なんでお前達は俺の布団で一緒に寝ているんだ?」
そう。何故か今日は二人とも、俺の布団で寝ているのだ。寂しいとか言うんじゃないだろなと思っていたらセレスがいきなり抱きしめてくる。大きい胸が自己主張してくる。幸せだがいきなりどうした!
「ど、ど、どうしたいきなり!?」
「ルーク様。いつでも甘えてもいいのよ?」
「お、おぅ。ありがとう?」
そしてヴィーナも抱きついてくる。
「お前様、わっちらはいつでも側にいるでありんす。いつでも頼ってくんなんし」
「あ、あぁ。ありがとう」
そりゃいつも頼りにしてるし感謝してる。しかしなんだ?二人ともやけに今日は優しいような。何かあったのか?
「二人とも、どうした?熱でもあるんか?」
「なんでもありません!」
「気にしなくてもいいでありんす」
んー?よくわからんな。まぁいいか。俺は二人の腕を優しく振りほどきゆっくり布団から立ち上がる。そしてセレスとヴィーナに体を向ける。
「どうしたの?」
「なんでありんすかぇ?」
「二人とも、昨日はすまん。二人を心配させて。一国の王があんな顔したら王失格だよな。でも俺は迷わない。何があっても大切な物は守る。だからこれからもついてきてくれ!」
俺は二人に言った。俺の決意を言った。セレスとヴィーナはお互い顔を見合わせているがこちらに向き直し俺に笑顔を向けてくる。そして
「迷ってもいいんじゃないのかしら?」
「……え?いやでも王からしたら格好悪いし…」
「確かに王としたら格好悪いのかもしれません……でもルーク様は王である前に一人の人間です。迷う時もありますよ」
「そうでありんすぇ。王だからと一人で抱え込み過ぎでありんす。もしまた迷ったら、わっちらに相談してくんなんし?わっちらは家族でありんしょう?」
「……家族?」
「違うのですか?少なくともイーリスちゃんや守護王達は家族と思っていますよ?」
「あ、あぁ。そうだな。家族だな」
「ルーク様の大切な物を、そして守りたい者がいるなら私達にも一緒に守らせてください」
「もしお前様の大切な物が危ないなら、守りたい者が狙われているのなら、わっちらが始末するでありんす。だから迷ってもいいでありんす」
「そのかわり一緒に考えさせてくださいね。ルーク様は私達の王である前に大切な家族なんですから」
俺はいつの間にか泣いていた。本当に俺は駄目だな。頼ると言っといて本当に頼ってなかったのは俺の方だ。戦闘だけ当てにして、一人の人間の前に王であると考えて頼ってなかった。
俺の中での王の在り方は皆に頼る、それがどれだけ格好悪くても頭を下げる。そうじゃなかったのかよ!人に手を掛けて王の在り方を見失ったか?なにが迷ってたら王は格好悪いだ。そんな俺を殴ってやりたい。そんな俺に反吐が出る。
何でもかんでも俺一人で決めるのは違う。
いつか絶対にまた迷ってしまうから、もう迷わないと決めた。情けない王を見せない為にだ。
でもそれは違った。どれだけ考えても答えは見つからなかったのに、こんなにも近くに答えがあった。信頼できる仲間……いや家族達が答えを持っていた。王である前に一人の人間。そうだ。人間なら誰だって迷う。
俺の手はもう悪に染まったかも知れない。俺は人間ではなく、魔物の種族かも知れない。だが家族を思う気持ちは人間と変わらない。俺の守りたい者が、大切な物があるなら家族で守る。敵がいるなら皆で排除する。迷っているなら皆で考える。
なんだ。こんなにも簡単な答えじゃないか。俺はこんな簡単な答えも分からない馬鹿だ。一人では絶対に分からなかった。けど俺は一人じゃない。
「あぁ…。一緒に守りたい者を、大切な物を守ってくれ。一緒に俺から、俺達から奪おうとする者を倒す力を貸してくれ。一緒に迷ったら考えてくれ」
「ルーク様の家族、セレナの名に誓って」
「お前様の家族、ヴィーナの名に誓って」
俺はようやく本当の意味での家族を手に入れた。イーリスや守護王達を入れると大家族だなとフッと笑う。
「あぁー!いまルーク様笑ったわよ!」
「えぇ!わっちも見たでありんす!」
「いや人間だから笑う事もあるだろ」
「ルーク様こっちに来てから全然笑ってなかったから心配してたのよ!」
そう言われるとそうかもしれない。こっちにきて全然笑ってなかったかも…な。笑える状況でも無かったし。俺は涙を拭いて
「お前達のおかげだよ。ありがとうな。さてこれからの事だが二人に相談したい」
「えぇ!」
「なんでありんすかぇ?」
と笑顔で相談に乗るセレナとヴィーナであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は二人に相談した後、フリージアさんの家に向かう。フェアリーガーデンの広場は、花が広場一面に咲いてたのに今はもうほとんど咲いていない。ラガンの野郎に燃やされたのだ。
フリージアさんの家にララもいるだろうけど最近ずっとララがいたから、いないと少し寂しい。扉をノックし、
「フリージアさんいますか?」
俺は扉の前でフリージアさんを呼ぶ。勢い良く扉が開かれ
「ルーク様ー!おかえりー!」
とララが抱きついてくる。小さいから可愛い。俺はララの頭を撫でながら
「おぅ!ララただいま!」
「こら!ララ!ルーク様に失礼でしょう!」
フリージアさんも出てくる。
「ルーク様おはようございます!今日はどうしましたか?」
「今日は今後のお話をしたいのです」
「今後ですか?分かりました。客室に案内しますね」
俺達は客室に案内され席に座る。席に座ると妖精3人組がお茶を持ってくる。
「お茶持ってきたー!」
「どうぞー!」
「美味しいよー!」
「ありがとう」
そしてお茶を少し飲んでフリージアさんと話をする。
「それで今後のお話とは?」
「えぇ。フリージアさん達妖精はラガンみたいな奴等からこの迷いの森まで逃げてきたんですよね?」
「えぇ。ですがこの集落は見つかりました。またラガンみたいな人達がここに来ないとは言い切れませんので、またこの集落から離れようかと」
「ルーク様と離れるの、やー!」
とララが叫ぶ。この集落から離れる事はつまり俺と離れ離れになるという事だ。それをララは嫌がったのだ。
「ララ、そんなに我儘いっても仕方ありません」
「嫌なのー!」
「もうララったら…すいませんルーク様」
「いえ。ララの気持ちは嬉しいです。それでその集落を離れる事なんですが、もしよければ俺の国に来ませんか?勿論、住む所は用意します」
そもそも俺が甘かったせいでこの集落はこれ程までにボロボロになったのだ。住む所を用意するのは当たり前だ。
「えっ!?それは……願ってもない事なのですがいいのでしょうか?私達は妖精族ですのでまた悪い人達が来るかもしれませんよ?」
「えぇ。大丈夫ですよ。俺の国にも妖精はいるので少し増えた所で変わりませんよ。それに俺の国はラガン程度なら手も足も出ないと思いますよ?」
「それは心強いですね!ですが私達には何も渡せる物がありません」
「それは気にしないでください。妖精達を、ララの約束を守れなかったのです。その償いぐらいはさせてください」
「あれはルーク様のせいではありません」
「そうだよー!」
「むしろ助けてもらった方が大きいです」
フリージアさんとララは否定する。まぁでも実際ララとの約束を守れなかったのは心残りでもある。
「それとここまで仲良くなったのです。大切な人を守るのは当然です。それに俺の国の妖精達も喜ぶと思いますよ?」
フリージアさんは少し考えた後、答えを出す。
「分かりました。私達妖精一族もルーク様の配下になります」
「配下って…まぁでも俺の国に来てもらえるようで良かったです。近い内に俺も国に戻るのでその時に一緒に行きましょう。出発の準備は何日ぐらい掛かりますか?」
「2日もあれば大丈夫かと」
「では3日後に出発しましょうか」
「分かりました。その方向で他の皆にも伝えますね。良かったですねララ?」
「うん!」
ララは満面の笑みで頷く。
そして俺は色々雑談してテントに戻る。当然の様にララもついてくるのであった。
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