第一章19話 俺の後悔と決意
戦闘というよりセレスの蹂躙が終わってから数時間。ラガンという魔道士と手下共が目を冷ましたので会いに行く。会いに行くのはフリージアさんと俺、ヴィーナとセレスだ。
ラガンと手下共はフェアリーガーデンの広場で全員ライトバインドで縛られている。ラガン達に俺は近づき
「目が覚めたようだな。ラガン」
「……何の用だ?」
「俺も長話する気はない。単刀直入に言う。お前らは誰に雇われた?」
「……何の事だ?」
こいつらが気を失っている間、マントを鑑定したら破幻のマントLv5という結果がでた。破幻のマントは幻術耐性のスキルを持っている。
レベル5なので幻術耐性がレベル5という事になり、幻術魔法レベル5以下は無効になる。つまりフリージアさんが張っている幻術の結界は5以下の幻術だ。それはいいとして
「知らばくれるな。お前らの破幻のマントそれなりに高価なんだろ?お前らが11着も用意出来るはずがない。それにお前は最初、生け捕りと言っていたがその後、大人しくしていれば生かしてやってもいいと言ったな?それはつまり殺す前提だったと言う事だ。なのにお前らは生け捕りと言った。恐らく何人か生け捕りにして後は殺すつもりだったんだろうな。殺したい奴が生け捕りなんてするか?つまり生け捕りは誰かに頼まれたのだろう?お前らの裏に誰がいるんだ?」
この妖精の集落周辺の幻術結界はフリージアさんが精霊魔法、つまり精霊の力を借りて幻術の結界を展開している。
正直この世界の人間がどれ程のレベルなのかはまだ分からないが、この結界はそう容易く抜けられないだろう。
最低でも幻術の耐性が4か5無いと
だが、こいつら全員破幻のマントを装備している。
そもそも耐性系のスキルを持っている人はこの世界でも少ないらしい。なので耐性系を簡単に付与出来る装備品はそれなりに、いやかなり高価だというのは想像に難くない。
「……ちっ。それが分かったからなんだ?」
「いいや何も。言わないだろうけど一応聞いてみたんだ。案の定言わなかったけどな」
「誰が言うかよ。死んでも言わねぇよ」
「なら吐いて貰うとしよう。ヴィーナ」
「だから言わねぇって言って「マインドコントロール」……ッ!?」
ヴィーナの洗脳魔法、
この魔法の恐ろしいところは掛かってしまえば自分で抜け出す事ができない事だ。誰かに解除してもらうか、術者が解除しなければ永遠に術者の奴隷となる。
しかもこの魔法は催眠術や暗示と似ているが決定的な違いは、これが魔法だという事だ。催眠術など前準備などいらなく、魔法を発動してしまえばいいだけだ。
ただこの魔法にも発動する条件がある。それは相手の頭に手を触れている事。その状態で魔法を言えば簡単に掛かってしまう。本人は魔法に掛かった事さえ知らず、洗脳魔法が解かれたとしても自分が今まで掛かっていた事を自覚できない。
「ラガン。お前に指示を出したのは誰だ?」
「……アクス・ランドル・カトラス男爵の息子アルク・ランドル」
「あっ、兄貴!?」
「何故アルク・ランドルは妖精を欲しがった?」
「……妖精に気に入られるという事はそれだけで貴族のステータスになる。アクス男爵の跡継ぎを確実の物にする為、妖精を欲しがっていた」
「なっ!?それだけの為に私達を!」
フリージアさんは激昂する。無理もない。跡継ぎの為に殺されそうになったのだから。
「ラガン、お前の目的は?」
「……俺の目的は跡継ぎになったアルク・ランドルのお抱え魔道士になり、そのアルク・ランドルを裏で操る事」
「なぜ妖精を殺そうとした?」
「妖精は素材になる。何匹か生け捕りにして、後は殺して裏ルートに売るつもりでいた」
「屑が!」
俺もそこでキレたが手は出さない。こんな何もできないゴミに手を出すつもりはない。
「他に何か隠してることは?」
「……ない」
「ヴィーナ」
そこでマインドコントロールは切れる。ラガンは俺は一体…という顔をしている。
「お前の口から全て吐いてもらった」
「……俺に何をした?」
ギリッと歯軋りしながらこちらを睨みつけてくる。
「洗脳魔法だよ。お前の目的も分かった。だがこれでお前の目的も叶わくなったな」
「……くそっ!」
フリージアさんから聞いたが、妖精を狙うだけで死罪になる法律がかなり昔からあるらしい。だが、やはり妖精の素材は高く売れるのか、狙う者はいたらしい。俺は一応ラガンの手下共にも声をかける。
「お前ら死罪は確実だぞ?」
「頼む!何でもするから許してくれ!」
「俺はもう悪さをしねぇ!心を入れ変える!」
「だから頼む命だけは助けてくれ!」
まぁ確かにこいつらは悪さをしたが人と言うより、妖精を捕まえる前に無力化した。
「フリージアさんこいつらどうします?」
「そうですね。私達が責任を持って預かります。そして国に私達の集落を襲ったと私から手紙を出します。妖精を狙うだけで死罪ですからね。ですが本当に心を入れ替えるなら今回だけは見逃してもいいです。ラガンと言う人物は駄目ですが」
「本当か!?ありがてぇ!」
「俺はもう悪さをしねぇ!」
「俺も真っ当に生きる!」
「分かりました。フリージアさんがそこまで言うなら。ではお願いします」
少し甘いかなと思うがフリージアさんが言うのだ。後はフリージアさんがやってくれるだろう。
ようやく一段落つける。俺はセレスとヴィーナと供にテントへ戻る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
テントに戻ってきた俺はゆっくりして今後の話をする。もうすぐ日が落ちる時間だ。
「俺はもう少しだけ滞在する。セレスは一度戻って、レイアに通信機の魔道具製作の話をしてきてくれ。その話が終わったらまた戻ってきてくれ」
「離れたくはありませんが分かったわぁ」
「ヴィーナも一度戻ってヴィーナの配下達を何人か連れてきてくれ。アクス領の街をヴィーナの配下達に諜報員として向かわせたい」
「了解でありんす」
セレスとヴィーナは俺の指示の元、辺りはまだ暗いのに一度トワイライト王国に戻っていった。
今日はララと二人きりだ。食事は昨日作った物がまだあるから料理はしなくてもいい。それを食べる。
「おいしー!」
「そうだな!」
「もうこの村は大丈夫?」
「あぁ!もう安心だぞ?」
「誰も死ななくてよかったー!」
「死なせるわけ無いだろ!俺がこれからもみんなを守ってやる!」
「ルーク様ありがとうー!」
「俺は今日疲れたからもう寝るよ」
「ララも寝るー!」
俺達は一緒に寝る。疲れたのもあって今日はすぐに深い眠りについた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
―――ドォーーーンッ!!
俺はその爆発音にビックリして起きた。
「なんだっ!?」
なんだなんだと辺りを見渡す。特に何もないがやけに外が騒がしい。何か起きている。俺はララを探す。
「ララ?ララ?」
ララがいない。嫌な予感がする。まさかそんはずは……
「
『どうしたのですかぁ?ルーク様?』
『聞こえておりんす』
「緊急事態だ!すぐにこっち戻ってきてくれ!全速力だ!」
『分かったわっ!』
『了解でありんす!』
そして俺は念話をやめ、外に出ると……
「な、何だこれは……」
あちこちの妖精の家が燃えている。何なんだよこれは!俺は急いで、何処に行けばいいか分からないがとにかく走る。すると俺は顔を反らしたくても反らせない光景が目に飛び込んできた。
魔道士の手下だった男が死んでいる。だが問題はそれじゃない。その傍らでピクリとも動かない妖精…。その目は光を失い何処か悲しげな表情で倒れている。
「う、嘘だ……」
俺はその場にへたり込む。どうしてだ。どういうことだ。何でこうなってる。そう考えていると
―――ドォーーン!
また近くで大きな爆発があった。俺は大きな爆発があった場所まで走る。
そしてその場に着くとフリージアさんが傷だらけで横たわっている。
「フリージアさん!大丈夫ですか!?フリージアさん!」
「……ルーク様?」
「何があったんですか?」
「申し訳ありません。脱走を阻止できませんでした」
脱走!?あのライトバインドは階級が低くてもセレスの魔法だぞ!それが破られたのか?とそこに…
「おや?お前は俺に散々恥をかかせた男ではないか」
「ラガン……」
「お前の自慢の守護王とやらはいねぇのか?」
「……」
「どうやらいねぇみたいだな!これは好都合だ!」
くそっ!セレスとヴィーナを一度トワイライト王国に戻したのは失敗だった!
「ラガン、どうやってライトバインドから抜け出した…」
「あぁあれな。どうしようもなかったよ。あんな強力なライトバインド。さすがに俺には解けなかったよ」
「だからどうしたと言っている!」
「そんなカッカするなよ。気になるか?それはな。こんな事あろうかと俺の奥歯に小型魔道具を仕込ませていたのさ。そしてその小型魔道具を起動したのさ」
「…小型魔道具?」
「あぁ。小型だから効果は数秒で切れるがそれで充分。その小型魔道具の効果は…魔法封印。要は魔法の効力を数秒無くすんだよ。ライトバインド系はその一部が消えるだけでライトバインドは消えるんだよ」
「ッ!?」
「知らなかったのか?だが俺もライトバインドではなく普通に縛られていたら抜け出すのは無理だったぜ。お前も知ってるだろ?魔法を撃ち出す時、何故手から出すのか。それは掌が一番魔力をためやすいからだ。つまり普通に縛られていたら魔法を撃っても自分に誤爆するし、小型魔道具を起動しても魔法じゃないから消えない。だからライトバインドで助かったんだよ」
「そういう事か…」
俺は考える。どうやったらあいつを倒せるか。
「ルーク様駄目です!」
「なぜだ!」
「あいつの腕に!」
「……腕?」
俺はラガンの左手を見る。そこにはここ最近ずっと側いた妖精、ララが捕まっていた。
「ララ!」
「なんだ?こいつは知り合いか?」
「ララを離せ!」
「動くな。こいつが死ぬぞ?」
「くっ…」
「ルーク様助けてー!」
「ララ今助けるからな!」
「お優しいが動けば死ぬ」
「くそっ……何でもするからララは助けてくれ」
「……ほう。何でもか。武器を捨ててこちらに来い」
「駄目ですルーク様!行ってなりません!」
フリージアさんが止めるが俺は武器を捨ててラガンに近付く。
「何でもすると言ったな?」
「あぁ…」
そう言った俺に近付きラガンは俺の腹を全力で殴る。
「かはっ!」
「俺の攻撃に1分間耐えたらこの妖精の命だけは助けてやる」
「くっ……わかった」
「オラオラァ!お前達には!散々!恥を!かかされたから…なぁっ!」
「ガハッ!グッ…!クッ…グボッ!」
それから俺は1分間殴る蹴るを受け続けた。意識が朦朧としている。ララの声が、ララの泣いている声が聞こえる。俺はまだ意識を手放す訳にはいかない。
「やるじゃねぇか。望み通り命だけは助けてやる」
とラガンはそう言うとナイフを懐から取り出しララに向けている。
「…お……い。な…にを…し…ている!?」
俺はたどたどしい言葉で、出ない声を張り上げる。
「何って望み通り命だけは助けてやるんだよ。妖精の羽も腕も足も全て切り落としたとしても、命だけ助かればいいのだろう?お前がそう望んだんだろ?」
「…ち…がう!やめ…ろ!」
「もう遅い!お前は助けられないと言う絶望を味わいながら見てるがいい!」
ラガンはナイフを振り上げララに向かって振り下ろす。
「いやぁーー!」
「や…めろぉぉーーーー!」
――ガキンッ!
何かがラガンのナイフを止めた。俺の目は、目が切れて血の涙を流してよく見えない。だが目が慣れてきてようやく何か分かった。ラガンのナイフを止めているのはヴィーナのアゾット剣だ。そしてヴィーナはララが捕らえられてる左腕を切り飛ばし、回収し俺の近くにくる。
「ぎゃぁーー!俺の腕がぁー!」
「お前様、セレスはもう少しでここに来るでありんす。それまで我慢をしてくんなんし!アイツはわっちが…!」
「だ…めだ!ヴィ…ナ…アイ…ツと……そ…のて…したを…いけ…ど…りに…してく…れ」
「……かしこまりんした」
ヴィーナの動きは早く、ものの数分でラガンとその手下共の生き残り5人を生け捕りにした。他の5人は恐らくフリージアさんにやられたのだろう。死んでいる。
そしてその数分後にセレスが到着する。
俺の体の上でララが泣いている。
「あぁ!ルーク様!今治します!神の
俺の痛みは引いていく。
「助かったセレス」
「ルーク様!無事で良かったぁー!」
セレスとララが泣いている。俺もララ無事で本当に良かった。
「セレス、フリージアさんや他の怪我した妖精達を回復してくれ」
「分かりましたっ!」
そこにヴィーナが近付いてくる。
「お前様、ラガンとその配下達5人、生け捕りにしたでありんす」
「あぁ、ありがとう」
セレスも俺のとこに戻ってくる。
「回復できる妖精達は全員回復させました」
「……そうか」
俺はエリアマップを開く。以前このフェアリーガーデンにはフリージアさんも含めて50人の妖精達がいた。だが今では40人の妖精達しかマップに表示されてない。
「くっ…!」
「ルーク様大丈夫ー?」
ララがこちらの顔を心配そうに見てくる。そんなララに申し訳なくて俺は涙を流しながらララを抱きしめる。
「ごめんなララ。お前の仲間を守れなかった。ごめんな…!」
「ううん。ララは守って貰えたよ?それにララだけじゃなく、他の皆もルーク様やヴィーナ、セレスに」
俺はその言葉にまた涙が漏れた。何がもう安心だ!何が誰も死なせないだ!何がみんな守るだ!!何も……何も守れてないじゃないか……
ヴィーナが来なければララも……!
俺の心に悔しさや情けなさと共にドス黒い感情が生まれる。
「…ララ。俺はもう大丈夫。フリージアさんの側にいてあげて?」
「ルーク様は?」
「俺はまだやることがある。大丈夫もう危ないことはしないよ?帰ったら一緒にご飯食べような?」
「うんー!待ってる!」
「セレス、ヴィーナいくぞ」
「分かりました」
「了解でありんす」
ララの頭を撫でて俺はその場をあとにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここはフェアリーガーデンからそこそこ離れた森の中。そこに俺とセレス、ヴィーナは来ていた。
「セレスここに精霊を近付かせない事は出来るか?結界でもいい」
「できますよ?」
出来るのか。結界ではなく、精霊に話して近付かせないようにするみたいだ。精霊を介してフリージアさんに話がいくのは嫌だからな。
「ならしてくれ。後はここら一帯の音を遮断したいのだが…」
「でしたらお前様、わっちに任せてくんなんし」
「頼む」
「了解でありんす。
そうヴィーナが言うと、周りの風で揺れる草木の音すら消える。聞こえるのはこの結界の中にいる俺達の声だけだ。
「おい起きろ」
「ここは?」
「呑気なもんだな。今から殺されるのによ」
「……は?」
「聞こえなかったのか?殺すって言ったんだよ」
「……冗談だよなぁ?」
俺は5人いる手下の内、1人の首を跳ねる。首は飛び、血飛沫が大量に撒き散らしながら身体が倒れる。
「これが…冗談に見えるか?」
「……ひぃー!」
「お願いします!何でもしますから助けてください」
「何度目だ?」
「…えっ?」
「その言葉は何度目だと言ってるんだ!」
「…ひっ!」
「お前その言葉は昨日捕まった時にも言ってたよな?」
「違うんです!あれは」
「何が違うんだ?」
「俺は本当にもう悪い事はしないと決めてたんだ!だがラガンの野郎がそんな甘い話はねぇと…」
「…少なくとも俺とフリージアさんは許すつもりでいた。だがようやく理解したよ。俺が馬鹿だったと」
「頼む!本当にもうやら…かはっ……!?」
「だから聞き飽きたよその言葉は」
俺は手下の1人の心臓に剣を突き立てゆっくり抜く。俺は後悔してる。俺が甘かったからこういう原因を引き起こした。
助けてだと?もうしないだと?それで10人の妖精達が戻ってくるのか?罪を償ったら妖精達は生き返るのか?そんな事は断じて無い!人を殺しておいて牢屋に入れられるだけ?死罪としてそれまで何故こいつらがのうのうと生きていられる?全て俺の甘さが引き起こした。
前のニホンでもそうだった。殺すつもりはなかったんだ。次はもうしない。殺すつもりは無かったら殺してねぇよ。次なんてもうないんだよ。なぜ次があると思えるのか。
俺はどうやら、まだニホンの感覚でいたらしい。だがそれは間違いだった。この世界はニホンよりも命が軽い世界だ。自分の利益の為に、簡単に人を殺そうとする。悪はどこまで行っても悪だ。ニホンのルールでこの世界を生き抜こうとした俺が馬鹿だ。俺は優しさを捨てる。残り4人。
「まっ、待ってくれ俺には結婚を決めたばかりの人がいるんだ!」
「へーそれはめでたい。……で?」
「お願いだ!彼女の元へ帰らせてくれ!」
「それは無理だ。後悔するならこう言うことはするんじゃなかったな」
「あぁ!もうしないから!かえら……うっ……!?」
「お前らのもうしないなんて信用できる訳が無い」
また1人死んでいく。俺は今相当、悪人なんだろうな。だがもういい。優しさで人は救えない。俺はこいつ等を一度でも信用した。信じていた。だがそれはあっさり否定された。ラガンの言葉に乗せられて。残り3人。
「俺には大事な家族がいる!母と妹がいる!だが母はいつも身体が弱くて…」
「妖精達は10人死んだ。その10人にも大切な家族がいたんだろうな」
「頼む…真っ当な人生を歩むから…!母と妹を残して死ねないんだ!」
「お前らは助けてくれと言われた奴らを今まで助けてきたのか?何もしてないのに素材が高く売れるだけで妖精を殺す。母や妹のためなら人を殺していいと?」
「……それは」
「ヴィーナ」
「了解でありんす」
ヴィーナは手下の首を跳ねる。やはりヴィーナが魔物だからなのか、一寸の迷いもなく跳ねた。
あぁよくいるんだよ。母は病気でとか妹は身体が弱くてとか。確かにお前の境遇には同情するが、それを言い訳に人殺しをしていいわけじゃない。まぁ俺もこうやって殺してるんだがな。残り2人。
「残るは2人。覚悟はいいか?」
「兄貴、俺はあんたについてきてよかったっす!悔いはないっす!」
「ふん。すまんな」
悔いはないか。妖精達を殺して平然として、死をも受け入れる。こいつ等をただ殺しても納得いかない。最も絶望する死に方を俺は選ぶ。あんなに何も罪がない妖精達は殺したんだ。タダではすまさん。
「ヴィーナ。こいつの記憶を読み取れ」
「了解でありんす」
「何をするっすか!」
「
「…くっ!何をしたっすか?」
「俺はな、お前のその平然とした態度が癇に障る。俺はあの時絶望したんだよ。誰も助けられない自分に」
「何がいいたっすか?」
ヴィーナの洗脳魔法の恐ろしいところは精神をコントロールするだけで無く、脳も弄れる事だ。
俺はヴィーナから耳打ちをしてもらい先程抜き取った記憶の一部を教えてもらう。
「ふむふむ…そうかレナか。いい名前じゃないか」
「ッ!?…なんの名前っすか?」
「気づいているんだろう?幼馴染だって?へぇーもうすぐ産まれる子供の名前はラナか」
「妻と子供は関係ないっす!」
「あぁ。関係ないね。ただ手が滑ってつい殺してしまうなんてこともある」
「お前はどこまで悪魔なんすか!人間じゃないっす!」
「あぁ俺は人間じゃないよ。魔物の国の王だからな」
「ッ!?外道が!」
「その言葉をそっくりそのまま返すよ。で、このレナとラナだがどうするか」
あぁいいじゃないか。先程まで覚悟を決めた奴が、弱みを握られるとこうもあっさりその覚悟が崩れて絶望してしまう。
こいつらが絶望している姿は何故だか今の俺の心を満たしてくれる。
「くっ…。……頼むっす。二人だけには手を出さないでくれっす」
「それは約束できない。お前達から俺に絶望をくれたんだ。それ相応に返すのが礼儀だ。死んでも安心しろ?レナとラナは俺が可愛がってやるよ!たっぷりな!だから絶望しながら死ねっ!」
「くそがぁーー………」
叫んでいる手下にセレスがアスクレピオスの杖で頭を殴る。だが殴ると言っても威力がおかしい。頭は卵を潰すみたいにグシャッとなりそれだけで絶命している。
「あらあら。煩くてつい頭を跳ねてしまいました。ルーク様申し訳ありません」
「いやいい。俺も殺すつもりだった」
まぁ実際レナとラナには何もしないが。
さて残るは1人。俺の心を絶望に染め上げた張本人だ。タダでは殺さん。
「ラガン、俺はお前を殺したい程憎い」
「…なら殺せ」
「だがタダでは殺さん。お前も俺を弄んだだろ?苦痛を与えてやろう」
「…好きにしろ」
「文字通り苦痛をだ。その威勢が何処まで通じるか見物だな。ヴィーナ、お前の配下達は?」
「近くにいるでありんす」
「呼べるか?」
ヴィーナが手を叩くと目の前で二人の男女が膝を付きながら現れた。配下と言えどかなり強そうだ。
「ヴィーナの配下達だな?」
「「ハッ!」」
「この男をトワイライト王国に連れて監禁しててくれ。俺が戻るまで死なせるなよ?それが終わった後はヴィーナに従え」
「「了解しました!」」
二人の男女はラガンを担ぎ、トワイライト王国に戻っていく。これで全員か…。
「………うっ……おぇっ……」
「ルーク様!?」
「大丈夫でありんすかぇ!?」
気が緩んでしまって気持ち悪くなり吐いてしまった。妖精達の死体が頭から離れない。情けない王だ。だから俺は今日この場で決める。俺は優しさや甘さを捨てる。
くだらない感情に振り回されず、徹底的に。俺の敵になる奴らに容赦はしない。この世界は日本と違い命の価値が低い。だから殺すと決めたら躊躇しない。これ以上大切な人や物を奪われない為に俺の手を汚してでも守る。後悔しない為にも。俺は心にそう決める。
「大丈夫だ…。少し疲れただけだ。フェアリーガーデンに帰るか」
「今日はゆっくりしたいわねぇ!」
「そうでありんすぇ!」
俺達はフェアリーガーデンのテントに戻っていくのだった。
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