第一章17話 実験と動き出す悪意


フリージアさんに世界の事や魔法の事を教えてもらった日から数日が経った。


色々な無属性魔法を使ったのだがやはり魔法は便利だなと思った。特にフェアリーガーデンにはお風呂がない。


妖精達はここから少し離れた湖で水浴びをするらしいのだが、俺の無属性魔法の清掃クリーンと言う魔法は服の汚れから体の汚れまで綺麗にして、まるでお風呂に入ったかの様に綺麗サッパリにしてくれる。


その魔法が知れ渡ったせいで、フェアリーガーデンの妖精達が清掃クリーン目当てに俺の所にやってくる。まぁ魔法を使う事で魔力の総量が増えるみたいなので気にしてないが。だが、やはりお風呂は浸かってこそだ。お風呂が無い所ではかなり重宝するが、お風呂が入れるなら入りたいな。


セレスやヴィーナもかなり喜んでた。


清掃クリーンと言う魔法は水魔法っぽいのだが無属性に入る。水魔法を操っている感じで少し感動。


ちなみに魔力を使いすぎると、魔力枯渇に陥ってしまう。魔力枯渇に陥ると死にはしないが、しばらく体を動かせなくなるらしい。


魔力が無い状態でさらに魔法を酷使しようとすると、魔力の代わりに命が削られ、最悪死に至る。これは気をつけないと。


あっそうそう。8属性の魔法だが相性の有利、不利は特に無いらしい。


どういう事かと言うと、火は水に対して弱いと思われがちだが、火魔法の使い手が水魔法を使う魔道士より優れているなら結果が逆になることもある。水が蒸発して水が負ける事もある。要は使い方次第だ。


俺はいまフェアリーガーデンの広場から少し離れている所に来ている。無属性魔法の実験だ。実験を手伝ってくれるのはセレスとヴィーナ。この世界では恐らく世界最強のお二人だ。俺の身が不安だがやる。


「おーいセレス!いいぞぉー!」


「本当にいいのですかぁー?」


「手加減するなよー!」


「分かりましたぁー。ではいきますよ…水刃ウォーターカッター!」


セレスが魔法の名前を言うと、セレスの身体の周りからいきなり水の刃がこちらに向かってくる。【詠唱破棄】というスキルを持っているから詠唱しなくても魔法を撃てるのだが、やはりいきなりはビビるな。そして水の刃が俺に当たる瞬間…


――パアンッ!


そんな音をたてて水の刃、ウォーターカッターは俺の目の前で弾け飛んだ。


「こえぇー!もしシールドが壊れたら俺真っ二つだったな」


「ルーク様凄いです!」


攻撃魔法には階級と言うのがある。今の水刃ウォーターカッターは水2級で階級が上がるごとに威力は高くなるが扱いが難しくなる。10級の上に特級という階級もある。


水刃ウォーターカッターは駆け出しを卒業した魔道士がよく使う水魔法だ。ちなみに水1級はウォーター。手から水が出る魔法。フリージアさんが前にやってたな。ウォーターカッターはそこまで威力が高くないのだが、相手はセレスだ。威力も桁違いに強い。


だがそれを危なげなくガードする俺の無属性魔法のシールド


シールドは目の前に透明の防御結界を張るのだが、【魔力操作】を持っているので俺を包み込む様に結界を張れるのだ。


あっそうだ。女神様からまた言い忘れがあるってさっき連絡あったんだっけか。ほんとあの女神大丈夫か?


まぁそれはさておき、女神様が言うには無属性魔法は他の属性魔法と違って、系統が違うとの事だ。


例えば火魔法4級の魔法を使うなら火魔法スキルレベル4を扱えるほどの技量や魔力量が必要になるわけだが、そもそも無属性には○級みたい階級が存在しない。


シールドの上位互換とかありそうだが、全く存在しないのだ。防御の魔法は無属性レベルが10でもシールドしか使えない。


なら無属性のレベルが高くても意味がないのでは?と思うが、ちゃんと意味はある。無属性はレベルが高いほど無属性の効果が大きいのだ。


シールドの強度は、シールドに注ぎ込む魔力量で変わるのだが、無属性のレベルが上がるにつれ、注ぎ込む魔力量を削減できるのだ。


もし魔力に数字があるのだとしたら、シールドを石ぐらいの硬さにするには、無属性レベル1の魔力を100使わなければいけないところを、無属性レベル10なら、たったの1で注ぎ込むだけで石の硬さになる。まぁこれは極端な話だが。


探索サーチという魔法は周りの素材や鉱石等を探してくれる魔法なのだが、無属性レベル1なら狭い範囲しか効果は及ばないのに対し、レベル10なら広い範囲まで探索出来る。


無属性のレベルというのは、要はレベルが上がるにつれ、魔法の扱いが上手くなると言う事だ。まぁレベル上げるにはやはりイメージとか魔力操作とか鍛えないと駄目らしいが。


「まだ余裕そうだな。もっと強い魔法を打ってくれ!」


「では4級でいきますね!」


「おぅ!」


水鞭ウォーターウィップ!」


――バチンッ!


これも俺のシールドの前に水が弾け飛んだ。シールドは罅すら入ってない。まぁ、結構魔力を注いでいるからな。割れてしまえば俺死ぬし。


いまセレスが使ったのは水4級の水鞭ウォーターウィップ。3級の水槍ウォータースピアより威力、範囲ともに大きい。普通の水鞭ウォーターウィップなら人が弾け飛ぶだけなのだが、セレスの水鞭ウォーターウィップは人を切断する威力だ。だがまだシールドは余裕だな。


「セレス、ラストだ。もう少し上の水魔法頼む」


「では水6級にしますね」


「あぁ頼む」


「では。…無限水槍インフィニットウォータースピア!」


――バチバチバチバチンッ!


うぉ!凄い水の量と勢いだ。俺とシールドの内側は濡れてないが、シールドの外側は水浸しだ。水6級の無限水槍インフィニットウォータースピア


これは水槍をいっぱい作れば簡単じゃないの?と思うがそんな生易しい魔法ではない。ウォータースピアと書いてあるが水飛沫だ。その水飛沫を数える事すらできない数を操作する魔法で、一粒一粒の威力は身体に穴を開ける威力。それを数百数千を操るのだ。


しかもこれは範囲魔法だが単体にも使える魔法だ。現に俺の周りの地面は蜂の巣になっている。怖すぎる。


「よしシールドの実験は終わる」


「もういいのかしら?」


「あぁ。6級以上の魔法を使う人間なんてほとんどいないだろうし、何よりこれ以上やればフェアリーガーデンが水没する」


「確かにそうですねぇ!」


水没する事を否定しないのがまた恐ろしい。


「次にヴィーナ手伝ってくれ」


「わっちは何をすればいいでありんすかぇ?」


「ヴィーナは俺の剣を避けてくれればいい。もし避けれないなら武器でガードしてくれ。後、隙を見つけたら攻撃もしてくれていい」


「了解でありんす」


今の俺のレベルでヴィーナに攻撃を当てるなど不可能。ましてや避けれないならガードなどヴィーナからしたらそんな事と思うが勿論、俺が普通に攻撃するのではない。


「いくぞ!身体強化ブースト!」


俺はそのままヴィーナに向かって走る。風すらも切る速さになっている。俺はそのまま剣を振り下ろす。


「はぁっ!」


だがヴィーナはそれを涼し気な顔で躱す。続けざまに俺は剣を振り、ヴィーナの後に回って突いたり、足を使ったりもした。俺が見ている景色は、すごい速さで景色が変わる。


身体強化ブースト。文字通り身体を強化する。本来、身体強化ブーストでここまで強化するのなんてのは無理だが、無属性レベル10の身体強化ブーストだ。力、速さ、防御さらには反射神経や脳の処理能力までも大幅に強化している。人外レベルで強いのだが……。


俺の攻撃は全て、今目の前の人外…と言うより恐らく世界最強の一角の一人に攻撃すら当てられないでいる。暗殺神と剣神(短剣)持ちのヴィーナは余裕だ。


そして攻撃を躱される事1分、俺の体感では何十分すら感じるほどの濃密な時間と言うよりも、速すぎて周りが止まって見えるだけだが、1分経った辺りで俺に隙を見つけたのか、俺の右の脇腹辺りに蹴りを入れられる。


「ぐぅっ!」


勿論シールドなんて使ってない。ブーストで防御力もかなり強化されてる筈だが、この世界に来て初めての痛みを感じる。


俺は蹴りを入れられ踏みとどまる事が出来ず、フェアリーガーデンの外まで吹っ飛んで行き、木に当たってようやく止まる。ヴィーナの本気ではない蹴りでこれだ。もしブーストが無かったら間違いなく死んでいたな。


…ってか痛ぇー!肋骨折れてるなこれ。ここでブーストが切れたら痛さで気絶するだろう。ブーストのおかげで痛みに耐える事が出来ているが、口からも血が出ているし、喋れない。


「お前様!大丈夫でありんすか!?セレス早く回復魔法をかけるでありんす!」


「わかっていますっ!神の息吹ゴッドブレス


いやこのぐらいで光特級の回復魔法を使わないでくれ!と心の中で突っ込む。


俺は肋骨や身体のダメージの痛みが引いていくのを感じる。そして数秒で元通りになる。すごいな回復魔法!


「助かったよ。ありがとう」


「いいのよ!それより…ヴィーナ!やりすぎだわっ!」


「わっちも少し力を入れただけなのでありんすが、まさかここまで飛んでいくなんて思わなかったでありんす。お前様、罰は受けるでありんすぇ」


あれで少し力を入れただけなのである。ゾッとするが頼りになると安心もした。


「いやいい。俺が言った事だから気にするな。実験を手伝ってくれてありがとうな」


「で、でもわっちは…」


俺はヴィーナの頭をポンポンと撫でる。


「俺がいいと言ったんだ。なら気にするな」


「お前様…」


「あーずるい!私もそれしてほしいわぁ!」


「セレスはまた今度な」


そう言うとまた拗ねた。皆の前ではお母さんしてるのだが、俺の前では甘えたくなるのか?セレスのイメージが変わってくる。


「おーい?セレスー?」


「……知りません!」


俺の中のお母さん像が消えていくな。拗ねたら長そうだしセレスにもポンポンと撫でてやった。


「あらあら!嬉しいわぁ!」


いきなりお母さん感を出してきた。現金な奴だ。


「さて実験はこれくらいにして戻ろうか」


「了解でありんす」


「えぇ!」


そして俺達は自分のテントに帰るのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


テントに戻ると帰りを待ってた妖精がいた。ララだ。


ララはいつの間にか俺のテントで過ごす様になっている。まぁ別に邪魔ではないし寧ろ癒やされるのでいいのだが。


「おかえりー!」


「ただいまララ」


「ララただいまでありんす」


「ララちゃん何か変わった事は無かったかしら?」


「ないよー!」


お客さんは特にいないらしい。実験は危ないのでララにはお留守番してもらっていたのだ。ララは既に俺の肩が特等席なのか毎回そこに座る。晩飯までもう少し時間があるから雑談でもするか。


「そういえば無属性の念話の魔法なのだが、少し使い難いんだよな」


ゲーム時代では、ウィンドウの便利機能に配下達と離れていても会話できるという機能があった。まぁ守護王以上の者限定だったが。


その便利機能が無くなったので少し不憫だったのだが、無属性魔法に


「あら?そうなの?」


「あぁ。俺から念話の魔法を使わないと会話できないんだよな」


「それは確かに使い難いでありんすぇ」


「俺からは連絡取れるがセレス達から俺に連絡取れないのは痛いよな」


そう念話は相手が覚えてないと俺に連絡が取れないのだった。ウィンドウからの念話機能ならセレス達からも連絡出来たのだがアイテムボックスとメールだけにしてしまった。


俺は無属性魔法の念話もウィンドウの機能と同じ事が出来ると思っていたが、出来なかった。これはちゃんと確認しなかった俺のミスだ。


「まぁ無くなったのは仕方ない。レイアに通信機みたいな魔道具を開発してもらうか」


「いいですねぇ!」


レイアならサクッと作ってくれそうだ。後で伝えておこうか。


「後は米を探したいな。それから王都に行きたいかな」


米はやはり日本人として必須だよなぁ。この世界にあるか分からんが、探さないといけない食べ物の1つだ。そして王都だ。フリージアさんからこの世界の事をある程度聞いた。


ここは冒険者大国内らしいので王都ファルシオンに向かうのがいいだろう。獣王国でもいいのだが、俺は冒険者になりたい!戦争を止めると言う目的もあるのだがせっかくだから楽しみたい。


「王都でありんすか。わっちも行きたいでありんすぇ」


「そうねぇ!さぁそろそろ夜ご飯にしましょう」


「俺も手伝うわ」


「駄目です!じっとしててください!」


と怒られてしまった。何故手伝ってはいけないのか…。


暇になったのでララと遊ぶ。相変わらず無邪気なララは可愛い。


「できたわよぉー!」


「じゃあ食べようか!」


そして何時もの様に賑やかな時間が流れる。


ご飯を食べ清掃クリーンで身体を綺麗にして皆で寝る。ララは俺が来てたからずっと俺の布団で寝てる。


まぁいいんだがな。と深い眠りにつく。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


とある森の中。そこに10人ぐらいの男が焚き木を囲んで話している。


「兄貴〜本当にやるんですかぃ?もう何回も失敗してるんですよ?」


「うるせぇ!今度は絶対に成功する!なんたってこのマントがあるんだからな!」


「本当に効果あるんですか?」


「あぁ。数はそこまで仕入れることが出来なかったからこの人数しか連れてこられなかったけどな」


兄貴と呼ばれた男はそう答える。見た目はみすぼらしく如何にも山賊という身なりだ。そして兄貴と呼ばれてる男は魔道士見たいな姿で、少し豪華なローブを羽織っている。その男達は森の中で野営をしていた。


「まぁだがこれが成功したら報酬はたんまり貰えて、何よりあの貴族のお抱え魔道士になれるんだからなぁ!後はあのガキを脅して操れば俺達はこの先も安泰だ!」


「へっへっ。そりゃいいですぜ兄貴!」


「それにあの貴族のガキはアイツらを奴隷にしたいだけだ。1、2匹生け捕りにして後は素材として売ればいい。アイツらは珍しいから金になるんだよ」


「でも大丈夫なんですかぃ?アイツらは数が少なくアイツらを狙うだけで死罪になりますぜ?」


「だから成功したらすぐに裏ルートに素材を回すんだよ。後はあの貴族のガキに匿って貰う算段だ。あの貴族の奴隷にしたアイツらには懐かれたとでも言えばいい。奴隷だから逆らうこともできないしな!」


「完璧ですねぇ!」


その男達は暗い森の中で下卑た笑いを浮かべている。


「お前達、明日はしくじるんじゃねぇぞ!」


「わかっていますよ兄貴〜!」


所々からそうだそうだ!失敗なんてねぇ!兄貴がいれば楽勝だ!と後押しする声がする。


「ならいい。明日は楽しむか……をよぉ!」


フェアリーガーデンに男達の悪意が少しずつ近づいているのであった。

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