第一章7話 今後の方針



「今後についての方針なのだがまず一番に国民を安心させるために演説を行う。未だに何か起きてるか分からず不安にいる民を野放しにするのは王として失格だからな」


「流石は主様です!」


そう褒めてくれたのはイーリスだ。側近で守護王を纏めている立ち位置だからある程度の発言は許されている。


だが守護王達もイーリスの発言に同様なのか熱い視線が送られてくる。


やめてー!当然の事言っただけだから!そんなに期待しないでくれ!


「う、うむ民なくして国は回らぬ。故に民は宝だ。勿論お前達もだぞ?」


おぉ…!と淡い声が聞こえる。ドラグなんてハンカチで涙を拭いている。あれ?ドラグさんそんなキャラだっけ?あの坊っちゃまがこんなに立派になられて…って思ってそうだ。


「次に優先する事だが……」


「ルーク様?」


思案している俺の顔を見て不思議そうな顔をしているイーリス。うーむ……俺の目的はこの世界の戦争を阻止すること。なるべく力ではなく話し合いで解決したいのだが止む終えなければ力で制圧する。


女神ミール様も戦争の阻止と言って手段は問われてなかった。つまり最悪力ずくでもいいと言う事だろう。もし力での制圧が駄目ならミール様も言ってくるだろう。


それに俺だけが本当の目的を知ってても一人じゃどうしようもない。こういう事はないと思うが守護王達が戦争の引き金になってしまうかもしれない。


守護王達も今は自我がある。ならば本当の目的を教えてやればその目的に沿った行動や考えをしてくれるだろう。


「お前達は聞いてくれ。実はな……」


そして俺はこのゲームをしていたプレイヤーで元は違う世界にいた事。そしてとある事件に巻き込まれて女神に助けられた事。巨大魔法陣で違う世界に連れてこられた事。女神にこの世界の戦争を阻止する依頼を頼まれた事。今までの経緯を全て話した。


「困惑する気持ちも分かる。だが今言った話は全て本当だ。皆、発言を許す。何か気になる事があれば我が答えよう。あと、この話はトップシークレットの話だ。他言無用で頼む」


そう言ってもすぐに答えられる者はいなかった。言葉では理解できても頭では理解できないのだろう。いや言葉でも理解できないのかもな。俺もいきなりこんな事言われてもなかなか信じることはできないと思う。


何秒、何十秒経ったかはわからないが守護王の一人が言葉を発した。


「ご主人様恐れながら、聞きたいことがあります」


「何だ?ドラグ」


言葉を発したのはドラグニルだ。さすがいつも冷静だな。


「はっ…!ご主人様の言葉を疑う訳ではありません。全て真実だとわたくしは考えております。それは他の守護王達も分かっておられるはず。ご主人様を疑う者はここにはいません」


その言葉に他の守護王達も頷く。


そうなのか!?俺ならそんな話信じれるか!ってなるけど。俺はてっきり疑ってくると思ったよー。だがそこまで信頼されてると嬉しいものだ。


しかしそうなれば何を聞きたいのだろうか?


「うむ。では何が聞きたい?」


「はい。それは、その話はかなり厳重に扱わなければいけない話だと愚考いたします。勿論、わたくし達がこの話を聞いて、外にこの話を漏らすなんてことはしませんし、そんな事をする者もいないでしょう。ですが万が一、億が一と言う事もあります。本当にトップシークレットの秘密ならばご主人様一人が知っていればよかったのではないでしょうか?何故漏れるリスクの危険を犯してわたくし達にお話したのでしょう?」


あーそういうことか。まぁ普通に考えればそうだよな。バレたくないなら俺一人で黙ってればまず漏れない。


バレる危険はない。バレなくても戦争を阻止する方向に守護王達を誘導すればいい話ではないか?と考えているのか。まぁ確かにそうなんだけどな。それでも俺は……


「それはな……我一人だと荷が重いからだ。我は全知全能でもなければ神でもない。ただの人間だ。勿論、お前達に内緒で戦争を阻止する方向に誘導すれば少しは楽になるかもしれん。だがそれは何も知らないお前達を操っている様にしか見えん。勿論お前達はそれでもいいと思ってるかもしれん。だが我はそれが嫌なのだ。お前達は我の操り人形か?お前達はもう自分で考えることができる。自分で思ったことを言える。だから我に意見して一緒に考えてほしい。さっきも言ったが我はただの人間だ。間違える事もあるし、その答えが一番の最善の手では無いかもしれない。だからこそお前達の力を貸してほしいのだ。一人では何もできない王だから」


そう。王とて一人では何もできないのだ。支えてくれる側近達や民達がいるから国が動くのだ。民が居なければ国など動かない。王がいて民がいるのではない。民がいて王がいるのだ。


国の始まりはいつだってそうだ。いきなり王が出てきて国ができるんじゃない。民が集落を作り、村を作り、街を作る。その過程でリーダーが選ばれる。それが王だ。どんな国でも最初は皆平民。そこから王が生まれるのだ。


王が民を導き民が動く。家も食料も民が労働力として頑張るから出来るのだ。故に民は宝なのだ。勿論、王一人では民を導くには限界がある。だからこその側近達なのだ。


「それにな、我はお前達は信じている。確かに戦争を阻止することは我一人では荷が重い。たしかにその理由もあるが、それ以上にお前達を信じている。もし我が間違った選択を選ぼうとしているならお前達は間違いを正してくれると信じているのだ。我はお前達に裏切られるなんて思っておらん。それにお前達は我がのだぞ?子を信じぬ親が何処にいる?故に我はお前達に秘密を明かしたのだ。お前達が我の力になってくれると思ってな。だからお前達は自分で考え良い案を出して協力してくれ。お前達頼りにしているぞ?」


「…………承知………致しましたっ!」


ん?いまドラグが変な言い方だったなと思いドラグを見ると、プルプル震えて俯いてる。なんだ?俺まずかったか?今の言葉俺にしては臭かったからなー。と思っていたらハンカチを取り出していた。泣いていただけだ。


えぇ!?いまので!?それに他の守護王達を見てみると尊敬の眼差しを向けている者、両手で拝んでいる者、中には周りなど気にせず泣いている者もいる。


イーリスは横で一生ついていきます!と決意を新たにしていた。


いやいや流石にこんな感動されたら俺恥ずかしいよ!なんかちょっと真面目に話しただけなのに。いや確かに本音だよ?でもまさかこんなに感動されるとは思ってなかったよ。


自我があるんだから一人ぐらい反発して綺麗事をとか言いそうだけど、いやそうなってほしくないけど随分と期待されてるなぁ。まぁ頑張るか。


「と、とにかく!そういう理由でお前達に教えたのだ!戦争を阻止することを念頭において何が優先なのかお前達にも考えてほしいのだ。発言は許可するので遠慮なく提案してくれ」


守護王達は少し思案して


「なるほど…。そういう事なら認識阻害の魔道具を国全体に張るのを急いだほうがいいと思うのだよ」


「そうじゃなー。少し本気で作るかのう。セレスお主も手伝うのじゃ」


「あらあらレイアちゃん。私必要なの?魔道具の事なんてわからないから足を引っ張っちゃうんじゃないのかしら?」


「人手は多いほうがいいのじゃ。それに魔術を知っておるならなおさらじゃ。タナトスお主も手伝うのじゃ」


「僕もかい?やれやれ…やりたいことがあるんだがね。まぁたまには違う研究も息抜きになるだろうね。それにこんな可愛いお姫様にお願いされては断りにくいのだよ」


「誰が子供じゃー!子供じゃないのじゃ!バカにしおってー!」


「いや子供って言ってないのだがね」


「あらあらレイアちゃん喧嘩しちゃだめよ?」


「うるさーい!セレスも子供扱いしおってぇ!」


うむ。俺から見ても子供なんだがな。今までNPCノンプレイヤーキャラクターだったから分からなかったが、守護王達同士が話すとこんな感じなのか。他の守護者王達も微笑みながら見ている。家族みたいだな。いや家族か。ふふ。もう少し見てたいがそろそろ話を進めるとしよう。


「お前達、そのへんにしておけ。認識阻害の魔道具はお前達3人に任せるぞ」


「わかったのだよ」


「わかったわ」


「ぐぬぬ…了解なのじゃ」


レイアはまだ怒っている。頬を膨らまして納得いかなさそうにしている。可愛いなぁ!


「他に何かあるものはないか?」


「ルークの旦那、優先かわからんが食料はどうなっておるのだ?」


次に発言したのはトールだ。確かに食料はまだ大丈夫だとしても何れ手を付けないといけないのだ。


「食料か…。うーむ食料の貯蔵庫はある。しかし貯蔵庫に頼っていては何れ食料は尽きるだろうな。この国は約5万人の民が住んでいる。今の貯蔵庫では1年が限界だろうな。この1年でなんとかしないといけんな」


ゲームプレイ時は全ての民がNPCだから食料はいらないって訳でもなく国の外に畑を耕していたのだ。魔物避けの魔道具を設置して大草原を掘り起こし耕していたのだ。周りが大草原だから敵が来ても早期発見できたので問題なく畑を耕すことができたのだ。


「うーむ1年か。まぁなんとかなるかもしれんがなー……」


「そうだな。だが国の周りは森だからな。開拓すればいいんだがこの森にまだ何があるかわからんしな。慎重に行きたいのだが……いっそ地下を掘ってそこで栽培するか……うーむどうしたものか」


「ルークの旦那、地下はいいがそこまで毎日行くの大変じゃないか?」


確かに。拠点宝珠で忠誠ポイントを消費すれば転移門テレポータルを買えるのだが如何せん高いのだ。買えない訳ではないのだがこういうのは大都市とかに使いたい。ちなみに転移門テレポータルを買うと転移門設置装置として出てきて何処でも設置できるのだ。


ゲーム時に他の魔物側のプレイヤーの国に行くために転移門を置いてたのだが今は全て起動していない。後で除去しとこ。


「だよなぁー…俺もそう思うんだよ」


「主様!素が出てますよ!」


おっとやばい!考えすぎて素の俺が出てしまった!イーリスに注意されてしまった。


「ゴホン……えー…やはり我は森を開拓しようと思うのだが」


「そうじゃな。ワシもそれがいいと思うんじゃ。まだ何かあるかわからんがこのままじっとしてても意味ないしのぉ!それに慎重にやれば何とかなるじゃろ!」


「そうだな。開拓はトールに任せる」


「おぅ!あとプリンも手伝ってくれんか?」


「ボ、ボクですか?」


「あぁ!プリン排泄物の処理をしているだろう?その排泄物を肥料にする!だからプリンも力を貸してくれんか?」


「ボ、ボクで良ければ力を貸します!トールおじいちゃん!」


「お、おじいちゃんだとぉ!?せめてお兄さんにならんか?」


「トールは充分おじいちゃんとおもいんす。諦めて認めてくんなんし」


「うるさいヴィーナ!お前さんには聞いとらん!」


「でもトールはおじいちゃんやでー!」


ヴィーナとフェンリルが話に加わる。


「リル!ワシはまだまだ元気じゃ!おじいちゃんなどではない!」


「えぇー。でもおじいちゃんじゃなかったら自分からワシとは言わないよー!ねぇー?みんなー?」


リルが子供組の3人組(プリン、レイア、ルーシー)に話を振る。ちなみに一番年下はレイア、次にプリン、そしてルーシーだ。


「おじいちゃんです!」


「おじいちゃんなのじゃ」


「ん……ジジイ……」


「だ、誰じゃ今ジジイと言ったのは!おじいちゃんならまだしもジジイとは!」


3人同時に喋ったので聞き取れなかったのかもしれないが間違いなくルーシーだ。


「全く失礼なオチビちゃん達だな!スサノオからも言ってやってくれ!」


「……なぜ我に振る?」


「お前さんも一歩間違えればおじいちゃんじゃろ?」


「ス、スサノオさんはスサノオさんです!」


「そうじゃな。スサノオはスサノオじゃ」


「ん…スサノオ」


子供組もスサノオはおじいちゃんじゃないらしい。


「トール殿、スマンな」


「ぐっ……じゃ、じゃあタナトスはどうなんじゃ?」


「タ、タナトスさんもタナトスさんです!」


「タナトスじゃの」


「ん…タナトス」


タナトスもどうやらおじいちゃんじゃないらしい。


「ふむ。これは嬉しいことだね。ありがとう」


「くぬぬ…何故じゃ!タナトスなど人化を解いたら骸骨じゃぞ!絶対ワシより歳上じゃ!そうじゃ!ドラグはどうじゃ?」


「ド、ドラグさんはドラグさんですよ!」


「ドラグなのじゃ」


「ん…ドラグ」


「これはこれは、有難きお言葉」


ドラグもおじいちゃんじゃなかった。これでおじいちゃんはトールだけだ。


「もう諦めさいトール?ねぇ私やイーリス、ヴィーナやリルの事はどう思っているのかしら?」


「え、えとですね。セレスお姉ちゃんはお母さんみたいなお姉ちゃん!イーリスお姉ちゃんは強くてかっこいいお姉ちゃん!ヴィーナお姉ちゃんは綺麗なお姉ちゃん!リルお姉ちゃんは頼りになるお姉ちゃん!」


「ま、まぁそんなはっきり言わんでいいと思うが妾も大方そんなとこじゃ…」


「ん…。セレスお母さん。イーリスお姉ちゃん。ヴィーナお姉ちゃん。リルお姉ちゃん」


ほう。プリンはそんな感じで思っているのか。まぁまだ子供だから仕方ない。レイアは照れてる。でもレイアもプリンに似た感情だ。ルーシーはもはやセレスをお母さんと呼んでいる。ま、まぁいいんだが。確かにお母さんっぽいし。


「まぁ嬉しいわぁ!ありがとうねぇ!」


「流石は私達の弟妹です!いい子ですね!」


「わっちの事を綺麗だなんて嬉しいでありんす。ほんといい子でありんすぇ」


「頼りになるなんてありがとうぉー!後でいいこいいこしてあげるね!」


なるほど。子供組3人は他の守護王達をそんな風に思ってたのか。これはここで知ってよかったな。さて話の続きをしようか。


「お前達お話はそこまでだ。畑についてはトールとプリンに任せる。よいな?」


「おぅ!任せな!」


「わ、わかりました!」


よし畑は何とかなりそうだ。後は森の奥まで調べたい。


「リル、森の奥まで調べたい。何があるかわからんが偵察できるか?」


「はいっ!やります!」


「お前様、わっちもやることがないでありんす。リルの偵察手伝ってもいいでありんすかぇ?」


「ふむ。我はいいがリル、お前はどうだ?」


「ぜんっぜん大丈夫です!むしろ助かりますよー!」


「ほなわっちをこき使っておくんなんし」


ふむ。リルとヴィーナの仲は悪くなさそうだ。むしろみんな仲いいな。


「次に街の治安だがルーシー任せるぞ?」


「ん。分かった」


「…主よ我も手をかそうと思うのだがどうだ?」


「スサノオよいのか?」


「…うむ。…ここら辺に強い魔物はいない」


「そうか。ルーシーはどうだ?」


「手伝う?」


「…うむ」


「助かる」


「…よい」


「ありがとう」


「…構わぬ」


なんだこの会話…。なんか成立してる。スサノオもあまり多く語らない系だからなぁー。だが一番仲が良さそうに見えない二人だが案外そうでもなさそうだ。お互い似たもの同士気が合うのか。


「では街の治安はルーシーとスサノオに任せる。頼んだ」


「ん」


「…承知」


さて次にドラグだ。


「ドラグはどうするのだ?」


「はっ!わたくしは配下のメイドを教育したりメイドに指示をだしたりですね。手が空き次第、他の皆様のお手伝いをしようかと思っている次第です」


「なるほど。では手が空き次第、他の皆のサポートをドラグに任せる。頼んだぞ」


「畏まりました!」


あとはイーリスか。


「イーリスはどうするのだ?」


「はい。私も守護王達のサポートをしつつ執務室での書類の整理をしたいと思います。結構溜まっていますよ?」


そうか。書類の整理か。俺やったことないんだが大丈夫なのか?はぁ…いつかパンクしそうだな。優秀な秘書なんか雇うか。この世界のどこかにいい人材はいるだろう。俺は執務室で仕事するより冒険者になりたい。


やっぱ異世界だと憧れるよな!


「まぁ……適当にやっとくよ…」


「はぁ。わかりました。私も手伝いますからね。それとまた素に戻ってますからね」


嫌すぎてまた素に戻ってしまった!まぁイーリスが手伝ってくれるから何とかなるだろう。頑張るか。


よし。とりあえずこんなところか?まぁこれで当分は何とかなるだろう。


「よし。各々に与えられた任は理解したな?ではこれにて謁見を終わりする。何か問題があれば直ぐに知らせに来い。では皆、頼んだぞ!」


「「「「「はっ!」」」」」


謁見の初めと終わりは必ずはっ!で終わらせるようにしている。


あぁ…疲れた。1時間ぐらいしか経ってないのに精神的に疲れた。


あー寝たい。まったりしたい。そう思いながら重い足で謁見の間を後にする。

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