第一章2話 女神から言い渡された真実
新道龍也はゆっくりと目を覚ます。
「……ここは…どこだ?」
辺りを見回すとそこは、真っ白な世界だった。
「…なんなんだ?ここは?」
何処までも終わりのないような真っ白な空間と言えばいいのだろうか。上を見ても下を見てもただただ真っ白な世界。
体の感覚はない。まるで真っ白な宇宙にいるかのような錯覚に陥る。
すると、
『目を覚まして何よりです』
「ッ!誰だっ!?」
咄嗟に反応して声を荒げてしまったが、その声は鈴の音のように透き通った声で、それでいて頭に響かなくどこか優しさが籠もった声音だった。
今日1日で不可解な事が起こりすぎている。どうせこれは夢なんだろうと自分に言い聞かせる。
『夢ではありませんよ?』
「………は?」
いま心の声を読んだのか?そんなまさか。神でもあるまいし。
『これでも神なんですよ?』
「ッ!?」
やはり心を読んでたよ。まぁだからといってはいそうですかと信じるわけにはいかない。まだ夢だと信じている。
『まだ信じてくださらないのですか?』
「そりゃそうだろ…いきなりゲームの中で巨大魔法陣が発動してそこで俺は意識を手放した。そして起きたらこの真っ白な世界だ。夢だとしか思わない」
『困りましたねー。信じてもらわないと話が進まないのですが…』
困っているのはこっちだ!と俺は叫びたかったがそれは心の奥底で押し留める。
「信じるか信じないかはこの際置いといて、何故俺がここにいるか話してもらえないか?」
『んー…それもそうですね。話したら信じるかもしれませんし。その前に私の姿を見せますね』
そう自称神が言うと真っ白な空間に目が眩む程の光が発せられた。しかし不思議とその光は眩しくない。
やがてその光の中から一人の女性が姿を現した。
『初めまして。私は女神ミールと申します』
俺は唖然として動けなかった。無理もない。目の前いる女性…いや女神は今までに見たことがない程の絶世の美女だった。文字通り絶世の美女に当てはまる美女。
外見は20歳ぐらいに見える。髪の色はキラキラと輝く銀髪で、腰辺りまで伸びるサラサラとした髪。目は垂れ目で優しく見守るような目、肌は白く体も出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでる。胸はでか過ぎず小さ過ぎない。Dあたりか?
服は露出の多い1枚のワンピースみたいなのを着てる。
谷間がいやらしいがそれ以上に美しい。
『どうしました?』
「……………好きです」
『………え?』
「…あっ!いえ何でもないです!とても美しかったので見惚れてました!」
何を言ってるんだ!俺は!そして何故敬語になってる!落ち着け…深呼吸だ。と言い聞かせる。
『フフ。ありがとうございます』
「俺は新道龍也といいます!」
この女神様は満更でもないようにニコニコしながらお礼を言った。駄目だ。冷静になったがこんな綺麗な女性と話したことがないからついつい敬語になってしまう。
『ええ。知っていますよ』
「そうなんですか?」
『ここに呼んだのは他でもない私ですから』
呼んだ?どういう事だ?何故俺がこんな絶世の美女に呼ばれないとだめなんだ?……はっ!まさか…こくは…
『違いますからね?』
笑顔で否定してくる。怖いです女神様。
『貴方をここに呼んだのは真実を告げて貴方がこれからどうするかを決めてもらうためです』
「真実?いったいどういう事ですか?」
『心して聞いてください。貴方は現実世界ではもう……死んでいるのです』
「………………は?」
俺はその言葉が理解できなかった。いや理解できたとしても受け入れられないだろう。
「はは……冗談ですよね?」
『…残念ながら冗談ではありません』
「いや俺、昨日まで普通に生きてたんですよ!?病気すらしてないんですよ!?それが何故いきなり死ぬんですかっ!」
『貴方の信じられない気持ちはわかります。あれは不運な事故です』
「……事故?」
『はい。実は…』
女神様の話を要約したらこうだ。昨日俺はゲームをインしたまま寝てしまった。
そして夜中の2時ぐらい横の煩かった住人が火事を起こしてしまったらしい。どういう経緯で火事になったのかは女神様でもそこまでは把握できないとの事だ。
そしてその火事が隣の俺の202号室に引火した。まぁ確かにボロい木造のアパートなので燃え移りやすかったんだろう。
それにしても火事だ。かなりの騒ぎになるはず。何故気付かずに寝てたんだ?普通気付くだろ。
『貴方はいつも隣の住人の騒音に悩ませれてましたね?』
「それはそうだが…それが何か関係で……も……」
気付いてしまった。そうだ。その日も隣は煩かったんだ。だからその日も俺はゲームの音量をMAXに近い設定でプレイしてた。そして俺はその日かなり疲れてた。
普段はログアウトして寝るのだが、その次の日は休みだからとログインして寝てしまっている。だから火事でも気付かなかった。
なんだこれ。本当に不運が重なった事故だ。
『少し今の状況を理解できましたか?』
「……あぁ。だが本当に死んだのか?話だけではなんとも…」
『…はい。残念ながら。…ではこちらをご覧ください』
女神様からそう言われた。女神様の手から光が放たれその光はやがて大きな鏡になった。なんだ?と近づきそれを見てみると…。
そこには火事で燃え尽きた201号室と202号室、少し燃え移ってる203号室が見えた。
消防車や救急車がアパートの近くに待機している。既に鎮火しているが俺の部屋は真っ黒だ。
『これは現実世界を見れる鏡です。今見えてるのが現実です』
ようやく俺は死んだことを理解した。というより俺の体があの部屋にあるのに意識はここにあると理解させられたか。
「……あぁそうか。俺は死んだんだな」
『…はい。残念ながら』
少し受け入れられない自分がいたが、毎日仕事して夜遅くに帰りそしてゲームをする。変わらない日々、親は俺が一人暮らしを始めてから一回も連絡をくれなかった。まるで邪魔者が去って清々した様に。
心配してくれる人もいない。俺はいつしかゲームの中が俺の居場所だと思っていた。
まぁそれももう終わりだが、死んだと理解したら急に色々どうでも良くなって体が軽くなった。
『落ち着きましたか?』
「あぁ。まぁ色々どうでも良くなりましたけどね」
人は落ち着くと冷静に考えることができる。なので気になったことを質問してみる。
「女神様。巨大魔法陣が発動する前に大きな音が聞こえました。あと巨大魔法陣も女神様が起こした魔法ですか?」
魔法なんてバカバカしいと思うが、あの巨大魔法陣は魔法としか言い様がないので魔法と聞いてみた。
『ええ。その時はこちらも緊急でしたので荒っぽい方法になったわけです』
荒っぽい?なんだそれは?ってかあれ本当に魔法だったんだ。
「ではあの音はいったい何だったんですか?」
『あの音は現実世界と仮想世界の境界線を断ち切った音です』
現実世界と仮想世界の境界線を断ち切る?なるほど。意味がわからん。
『貴方の魂は少なからず仮想世界の中にもありました。魂は少しでも欠けてしまうと修復するのが難しいのです。ですので現実世界の魂全てを仮想世界の貴方に入魂したのです』
「……ん?なぜ仮想世界の俺に魂を入れないと駄目だったんですか?現実世界の体でも良かったんじゃ…」
『貴方の現実世界での体は火事により無くなる可能性があったため、仮想世界の貴方に入れたのです。体とは魂を入れる器みたいな物です。魂が無事なら貴方も輪廻に還る事ができるのですが、先程も言いましたが仮想世界に少なからず魂が憑依していました。欠けた魂は人間の言うところで後遺症だと思ってください。なので後遺症が残らない様にと』
「なるほど…。つまり女神様には助けられたのか。ありがとうございます」
『いえいえ。それに貴方には期待してるのです』
おいおい。どういう事だ?期待してるって…まさか!俺が女神様を口説き落とす事にきた…
『違いますよ?』
ですよねー。まぁその期待してる話を詳しく聞きましょうか。
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