第19話 本心

「彩先輩!」

 啓介くんに声を掛けられ、私は一瞬どういう態度に出ようか迷った。

 しかし、私の性格上無視なんてできない。

「少しお話してもいいですか?」

 その言葉に、いつも通りに笑顔で応じようとしても、きちんと笑みを作れない。

「彩先輩に言われて、俺考えたんです」

 私は思わず唇を噛みしめる。

「先輩とは話しやすいし、可愛いと思うし、好きではあると思うんです。でも、それが恋愛なのかどうかというと急に分からなくなって。そもそも俺、好きな人っていうものが今まで分からなかった」

 そして彼はとても申し訳なさそうに、覚悟を決めた顔で言う。

「でも一番隣に居て欲しいのは葵なんだと思います。葵が他の男と一緒にいるのはどうも落ち着かない。そこまで考えてやっと自覚できました。俺は葵が好きです」

「……そっか」

 ものすごく悲しいような、すっきりしたような感覚が私を包む。

「すみません。俺、先輩にとても失礼なことをしました」

 これも惚れた弱みか、私はここで彼を許すことしかできない。

 良くも悪くも正直に言ってしまうところも好きだから。

「うん。いいよ。ありがとう、言ってくれて」

 いままでのモヤモヤが晴れた気がした。


「ところで、葵ちゃんとはどうなの?」

 葵ちゃんとの関係を聞いてみた。

「どうって?」

「好きなんだよね?付き合ったりするのかな?」

「それが実は……」

 啓介くんの話を聞いてびっくりした。

 もう彼は自分の気持ちを葵ちゃんに話してしまったらしい。

「ふふっ。早いね」

「いや、正直に話したほうがいいかと思って」

「正直すぎだよぉ」

「やっぱりそうだったのか……」

 うなだれる啓介くん。

「それで、葵ちゃんは何て?」

「めちゃめちゃ怒ってましたよ。最低だって言われちゃいました」

 まぁ普通はそう感じるだろう。

「そっか。じゃあ今すぐ付き合うとかではないのかなぁ」

「そうですね。そもそも俺も別れたばかりなので付き合うとかはまだ考えてないです」

 二人の間に沈黙が流れる。

「私のことは気にしないでいいからさ、二人の好きなようにするといいよ」

「えっ」

 私の言葉に反応して彼はこちらを向いた。

「本人を前にして言うことではないかもしれませんが、大丈夫ですか?」

「大丈夫ってことはないけどね。でも私が好きな葵ちゃんと啓介くんのことだから幸せになってほしいって気持ちもあって」

「……わかりました」

「じゃあ、私はこれで」

 私は立ち去ろうとする。

「先輩!」

 啓介くんが私を呼び止めた。

「俺、先輩と付き合えて本当に楽しかったです。これだけは本当です!ありがとうございました」

「……うん。ありがとう」

 最後は目が潤んで啓介くんの顔はよく見えなかった。

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