第18話 淡い初恋
それから啓介くんは葵と頻繁に会話をしていた。
何を話しているのかは分からないけれど、葵ちゃんは乗り気じゃない素振りを見せながら、喜んでいるように思える。
一方の啓介くんは完全に嬉しそうだった。
そのしぐさは他人には分からないかもしれないけれど、自分が惚れた人間の感情だから分かってしまう。
だから、ある時聞いてみた。
「啓介くんって葵ちゃんと仲いいよね。幼馴染だから?」
「いやぁ。腐れ縁ですよ。でもあいつとは中学入ってあんまりしゃべらなくなったので、仲いいってほどじゃないですね」
「じゃあ最近は話せてよかったね!」
「いや、まぁ、そうですね……。いいというか何というか……」
自分にしか分からないけれど、皮肉を言ってしまった自分に驚いた。
それにしても啓介くんの表情は明らかに葵ちゃんに対して特別な感情を持っているものだった。
だから、だろうか。
あの日の啓介くんを見て諦めがついた。
その日も啓介くんと一緒に帰る予定だった。
サッカー部の部員に啓介くんがどこへ行ったか尋ねると、すぐに見つけたらしく、呼んできてくれていた。
私はグラウンドの隅で啓介くんを待つ。
声を掛けられた啓介くんは葵ちゃんと会話をしていた。
話の内容までは聞こえなかったが、葵ちゃんは怒っているようだった。
それに対してへらへらしている啓介くん。
でもその表情はどことなく嬉しそうだった。
これから彼を振り向かせてみようか。
そんな考えも持っていたが、この場面に遭遇したことで消し飛んだ。
彼の葵ちゃんを見る目は、私が啓介くんに対するそれと等しい。
「先輩!」
駆け寄ってきた啓介くんが私を呼ぶ。
「……今、葵ちゃんと話してた?」
俯いたまま私は返事をする。
「あ、そうです。見てました?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
「あのさ」
「はい」
「啓介くんは、私のこと好き?」
とうとう聞いてしまった。
「もちろん!」
「どこが?」
「どこがって、それは……。すぐには答えられませんけど……」
「そう……」
「せ、先輩はみんなに慕われていて、尊敬しますし、そういうところが……」
私は視界が歪むのを抑えながら、極力淡々と言葉を紡ぐ。
「啓介くん。葵ちゃんのことはよく話してくれたよね」
「え?それはほとんど悪口で」
「それだけじゃなくて、今もそうだけど啓介くんが葵ちゃんと話していたときって何となくわかるの。雰囲気が違う」
「そんなこと……」
「じゃあもし葵ちゃんが誰かと付き合ったらどう思う?」
「どうって。あいつにそんなこと……」
「例えば三嶋くんとか……」
「……」
「ごめんなさい。単なる嫉妬かもしれないし、私が冷静じゃないだけかもしれないけど」
彼を真っすぐ見て、ついに私は言った。
「一度別れましょう。私たち」
啓介くんは固まってしばらくこっちを見ていた。
けれども目を見続ける私から、本気だと分かったらしい。
「……そうしましょう」
私の初恋が終わった瞬間だった。
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